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魂のほむら

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石が群なすここは秋吉台…

積雪したとの報を受け車を走らせたのは数年前のこと。着く頃にはすでに雪は解けているだろうとは思いつつも何故か気が急く。案の定、褐色の大地だった。手持ち無沙汰のまま歩くことどれくらいだったろうか、林立する石群れの中に迷い込んだ。身の丈を超える石に囲まれたそこは、周囲から隔絶され人ひとりがくつろげる別世界の空間だった。どれも同じような顔つきの中に、ひとつだけ摩耗したようなところがある石を見つけた。私を呼んでいたのはこれだった。

誰もいない空のもと私は暫し石のなかに佇む...

二百年に一度だけ天女が舞い降り、その衣が大岩を撫でる… 「劫」という時間を夢想してしまうほどに、それは不思議な艶を湛えていた。ひと時その夢想に耳を澄ましてみる。

人知れず天界の星が廻るなかで、石はひとつの夢を思い出す...眠りのなかで育まれる時間の結晶は、歌うように言葉を紡いでゆく、それは意思を持つかのごとくに、時の姿を歌いだす…

明滅とゆらぎのなかに咲くほむらは、幾億年の息吹とともに燃え上がり「時」の衣を纏って立ち現れてくる。

それは私たちが生きる時間とは異なる潮流を感じさせ、大地の流れを司る天の意思でもあるかのように、私の身体を貫いてゆく。石に宿るものたちの明滅を呼吸しながら、魂の焔が血潮を紅く染めるように、私の魂もまた明滅を生きてゆくのかもしれない...

ひと月後、またあの石を訪ねてみたが、あの艶やかな所はどこにも見当たらなかった。

私はまぼろしを見たのだろうか...





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