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仕事が辛い時にこそ思い出す、目標を与えてくれたお客様の言葉

私はネイリストです。

この業界には10代からネイルの世界に入ってずっと続けて来ている技術者と、ある程度違う職種・業界を経験してから、転職して20代後半あたりからこの世界に来たタイプの技術者がいる。私は後者。

大学卒業後は某有名ジュエリーブランドの店員になり、その後は商社の貿易事務をやったりしていた。趣味に自己啓発にと、いわゆるアフター5も充実していて、正直、毎日楽しかった。

なぜ、ネイリストになろうと思ったのか。

「絶対!ネイリストになりたい!」そう思っていた訳ではなかった。27歳で、結婚した途端、主人が転勤になり日本海側の雪深い地方へ引っ越すことになった。私の楽しい「丸の内OL生活」は突然終了したのだ。

引っ越してから、何をしたいのか考えた。

本当に軽い気持ちで「また転勤になったとしても続けやすい&仕事を見つけやすい資格を取ろう」と思った。だから、ネイリストを目指したのだ。

看護師や保育士に今からなれるわけもないし、なりたいと思った事もなかった。でも、ネイルは学生の頃からサロンに通っていたし、私にとって美容院に行くよりも大切だった。すぐに行動に移した。100万以上の学費はかかる感じだったけれど、別に子供を育てている訳でもない、DINKS生活だった私にとって、悩む要素も踏みとどまる慎重さもなかったので、すぐにスクールに通い出した。

そして、スクールの先生の紹介もあって、ネイルサロンで働き始めるのに時間はかからなかった。


そこまでは順調だったけど、初めて就く技術職。正直、ナメてたと思う。。。

サロンで働き出せば、簡単に上達すると思っていた。正直、それまでの仕事で苦労したことがあまり無かったから。同僚や上司とも上手くやれる方だったし、事務の仕事は、大体1度教われば理解も出来たし、案件を任されるのもすぐだった。接客なんて、どちらかと言えば得意な方だった。

でも、ネイルは違う。スクールを卒業したからって、なんでも描ける訳ではない。フォルム形成、爪の悩み、千差万別、初めて入るお客様の、初めて見る爪を見て、その場でどうするか瞬時に判断しなければいけない。座学や、頭で理解しただけでは太刀打ち出来ないのだ。毎日が実技。とにかく、お客様に施術した経験、場数を踏んだだけ上達していく仕事だった。

仕事から帰っても、天才肌ではない私は、コツコツ机に向かい自主練が必要だった。サロンでの拘束時間も長いし、休憩など無いようなものだった。お昼なんて食べれない日も普通にある。それでも、OL時に比べたらお給料は何分の一だっただろう・・?と言うくらい低い。

好きじゃなきゃ、やっていけない仕事だと思った。

何度も、事務の仕事に戻った方がいいのかも?と思った。でも、スクールにまで通って始めたことだから、辞めるのも惜しい、どうしたものか。そんな気持ちで続けていた様に思う。


ある日、元々来てくださっていたお客様の紹介で、新規のお客様がご来店された。

キャリアウーマンの典型の様なお客様からの紹介で来られたその方は、やはり、the・キャリアウーマンという感じの方で、いつもビジネスカジュアルなジャケットを着て、上品に優しくお話をしてくださる方だった。エレガントな、大人の女性だった。

30代後半で結婚して、仕事も変わらず順調に続けながら、妊活もしていると言っていた。デリケートな内容なので、子どもの話はほぼする事もなく(というか、私自身に子供がいないので、話題にしようという発想がなかった、笑)、観ているドラマの話や、日々の出来事、旦那さんの話など、他愛もない事ばかり喋っていたと思う。

お客様と初めて会った日から1年くらい経ったある日。珍しく、付け替えではなく、オフのみで予約が入った。今まで必ず3週間おきに付け替えていた人だ。何かあったのかな?と思った。


「今日は・・・??オフのみで大丈夫ですか?何かあるんですか?」と聞いたら、

「実は・・・・・・妊娠したみたいで。」とのことだった。

めでたい!!!なんておめでたい事だろう!!!

「わああああーーーーー!!!おめでとうございます!!!!」もちろん喜びまくった。一緒に。小規模サロンだったからこそ、大きい声でお祝いしまくった。

性別はどっちだろう?名前はどうしよう?大きくなったらどんな恋人を連れて来て欲しいか?などなど、それはもう、盛り上がった。笑。

そして、最後に、オイルで仕上げようとした頃合いだったと思う。


「実はね、言ってなかったけど・・・・・・・・・今回の妊娠の前に、一度、死産してるのよ。」


固まった。言葉が出て来なかった、何も。そもそも、妊娠すら経験したことがない上に、まだ子供を望んでもいなかった私に、何という言葉をかけるのが正解だったかなど、わかる訳もなかった。


もう、あと1ヶ月くらいで生まれる、という頃だったという。ベビーベッドに哺乳瓶、メリーにおもちゃ、おむつ、ミルトン、などなど、いつお迎えしてもいい様に、ベビーグッズを揃え終え、いよいよ、という時だった、と。

仕事など手につかず、何もやる気も出ず、外にも出る気にならず、ずっとずっと塞ぎ込んでいた、と。それを見かねた友達が、このネイルサロンを紹介してくれたんだと。

「ネイルでも綺麗にしてもらえば、少しは気持ち明るくなるかもよ?自分だけの為に、少し外出してみたら?ネイリストさんも、明るいし、事情を何も知らない人とちょっと喋って気分転換して来たら?」と、すすめられて、最初はそれすら気が進まなかったけど、来てみたんだ、と教えてくれた。

今、これを書きながら思い出して、私はまた泣きそうになっている。


「ここに来て、何てことない話をして、ケラケラ笑っていれば、辛い事も少しだけ忘れられたのよ。ありがとうね。」と言ってくれた。

まだ安定期にも入っていないから、ネイルはまだつけてても大丈夫な時期なんだけど、(入院時は、外すように医師から指導されるのが日本では一般的)前回の経験があるから、今回は万全を期しておきたいと思って、ネイルもお休みすることにしたんだと言ってくれた。妊娠出来たけど、年齢的に、きっとこれが最後のチャンスだと思うから、と。


また、思い出して、泣きそうである。


そして本当に最後に、一番嬉しいことを言われた。


「無事に出産できたら、ある程度、育児も落ち着いたら、絶対また来るから、辞めないで、ここに居てね。」

「本当に、毎回気持ちを明るくしてくれて、感謝してるのよ。」

と、言ってくれた。

泣いてる。今、泣いてる、私。



この経験があるから、私はまだ続けているんだと思う。

こんな赤の他人に、そこまで温かい言葉をくれる。赤の他人だからこそ話せることってあるよな、そういえば。ということにも気づかせてくれた。ネイルは大体3週間サイクルで付け替える方が多い。だから、コンスタントに会っているけど、友達でも、家族でも、恋人でもない。絶妙な距離にいる、他人。

爪先を綺麗にして、喜んでもらいたい。そんな想いから始めたのだけれど、もっともっと、違う側面から、人を支えたり、笑顔にしてあげられるんだ、この仕事って。そう思った。診断などはできないけれど、カウンセラー的な、とにかく聞き手になるということ。聞き上手になって、ここに来ると綺麗になるだけじゃなくて、ちょっとスッキリするな、と思ってもらいたい。

もちろん技術職だから、技術が全てなんだけど、私はそれだけじゃなくて、そういう空間を作れる人間になっていきたいと、この時に強く思ったのだ。

私は、人が好きなのかもしれない。喋るのも聞くのも好きだし、会ったことのない人に出会うことが好きだ。

私の知らないアーティストの話、俳優さんの話、アイドルの話、仕事の話、旅行の話、好きなものを嬉しそうに話す、色んなお客様の顔が浮かぶ。みんな自分の好きなものをプレゼンしてくれるから、私も色んなことを知ることができる。とっても楽しいじゃないか。

終わりのない技術職、どんどん変わる流行、インスタを見れば限りなく出てくるネイルデザイン。好きじゃなきゃ、出来ないくらい大変な事もたくさんある。ずっとずっと、勉強。

でも、それを楽しんでやろう。喜んでもらおう。そう思える私には、合っている仕事なのかもしれない、と最近思う。

また、迷ったときは、思い出そう。

いつでも、人の気持ちを動かすのは、人だと思うから。





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