古代ギリシア・ローマ文学における夢1
夢の神
古代ギリシア・ローマ文学では、夢はしばしば擬人化して表現され、神々のうちの一人であるとされる。
ヘシオドスの『神統記』によると、夢の神オネイロスは夜の女神ニュクスが産んだ子であり、死の神タナトス、眠りの神ヒュプノスと兄弟であるという。
ホメロスの『イリアス』では、ゼウスがアカイア軍の総大将アガメムノンにトロイア軍との戦いを再開させるためにオネイロスを派遣する。
オネイロスは、アガメムノンが信頼するネストルの姿をとってアガメムノンに、戦闘の準備をせよというゼウスの命令と、トロイアの悲劇的な運命が定まっていることを伝える。
また、眠りの神の子モルペウスも夢の神として知られる。オウィディウスの『変身物語』では、彼は山の中の洞窟に父である眠りの神ヒュプノスと一緒に住んでいる。
彼もやはり人間の姿を真似るのが上手く、歩き方や顔つき、声音、服装や言葉づかいまで真似ることができると言われている。その特技を買われ、父ヒュプノスから、ケユクス王の妻アルキュオネに、彼女の夫が海で遭難し命を落としたことを知らせる役目を託される。
予言の夢
『夢判断の書』で知られるアルテミドロスは、夢を未来の出来事を知らせる魂の動きであると考えた。このような予言の夢は文学作品においても見られる。
ホメロスの『オデュッセイア』第19巻では、オデュッセウスの妻ペネロペイアが、乞食に身をやつした夫に彼女が見た夢について語る。
それは、庭の鵞鳥たちが山から飛んできた大鷲に殺される夢で、夢の中の大鷲の語るところによると、鵞鳥たちはペネロペイアを悩ませている求婚者たち、大鷲はオデュッセウスで、これは夢ではなく現実になるという。そのとおり物語の終盤で夢は現実になり、求婚者たちはオデュッセウスに成敗される。
夢見による病気の治療
古代ギリシア・ローマでは、アポロン神の息子アスクレピオスが医神として崇拝されていた。エピダウロスやコス、ペルガモンをはじめ各地にアスクレピオスの神殿があり、医療センターとしての役割を果たしていた。
そこでは夢見による病気の治療が行われていた。患者は神域で眠り、そのとき見た夢をもとに神官団が治療にあたった。また、アスクレピオス神が夢の中に現れて直接治療することもあったという。
このような夢見による病気の治療を知るための良い資料が、アイリオス・アリステイデスの『神聖な話』である。
彼は紀元後2世紀に活躍した弁論家で、第二ソフィストと呼ばれる、ローマ帝政期のギリシア語圏で活動した知識人たちの一人だ。
『神聖な話』は、アリステイデスが、病気を治すために訪れたペルガモンのアスクレピオス神殿で見た夢を記録している。
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