季節が一枚ずれている

 電車から降りて、ど田舎行きのバスに乗り込んだ。後から乗ってきたのは部活終わりの彼。陸上部で年中腕が黒い。その手にはコンビニのビニール袋。私の視線に気付くと、今日暑くね? と言って襟元をバタバタさせた。暑くないよ。

 私はまだセーターを着ている。五月。私がブレザーとセーターを着ているとき、彼はセーターだけだった。私が長袖のカッターシャツを着ているとき、彼は半袖のポロシャツだった。


 バスの一番奥、五人掛けの座席の一番左が彼の指定席。先に座っていた私は一度席を立ってそこを譲る。それから並んで座る。床に置いたリュックサックと、丁寧な扱いのビニール袋。あっちいなあ、とぼやく彼の首筋に流れる汗。何で?
「アイス買ってん」
 中から出てきたのはスプーンとアイス。井村屋やわもちアイス、わらびもち。私がずっと食べたかったやつ。
「やらんよ?」
 彼は手でアイスを隠しながら言った。さっき、暑くなんかない、半袖なんて馬鹿だよ、って暴言吐くんじゃなかった。
「おいし」
 私の方を向いて満足げにアイスを頬張っている。悔しい。
 運転手さんが私たちの様子を見て、車内の設定温度を下げた。
 ふと隣を見ると、彼は食べ終えたアイスのカップをビニール袋に片付けていた。私の視線に気付くと、少し青くなった顔で、ちょっと寒くね? と言った。
 夏はまだ先だった。


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