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揮発性

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#おはなし

【おはなし】街灯の町

【おはなし】街灯の町

 夜の空気は澄んでいて、冴えた空が膨らんでいました。

不安定な地面を、私は転びそうになりながら歩いていました。風が流れて、草の匂いがします。辺りには、私の呼吸の音だけが聞こえています。

 広場にある街灯に近づくと、根元のベンチにはすでに誰かが座っていました。
 「こんばんは」
 私はおそるおそる話しかけます。
 「こんばんは」
 「何を、してるんですか」
 この時間にこの場所で人と会うのは、初

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【おはなし】雲をかたづける

【おはなし】雲をかたづける

 たとえば誰かが頭の中で空想をする。

 多くの場合、それは白くてもこもこしたキャンバスの中に形成され、まとめて頭の斜め上辺りに出力される。ホワンホワン〜というSEが付いてくることもある。

 授業中の妄想も、コンクールで優勝する夢も、書きかけの台本も作り途中の舞台の構想も、この白いもこもこの中に展開される。

 空想が途切れたあと、このもこもこは頭から離れ、イメージを抱えたまま空に昇っていく。空

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【おはなし】天国のモフモフ

【おはなし】天国のモフモフ

 「よし、そろそろ行こうか」
 レネが僕の先を歩いていく。

 庭の花壇にはたくさんの種類の花が植えられていたけど、すべて枯れてしまっている。

 庭を出て町を抜けて酉の方角へ向かうと、森に入る。森の中を少し進むとやがて■■■■の白い巨大な体が見えてくる。

 そいつは体を丸めて、目を閉じたままじっとして動かない。胴体の高さは僕の背丈の倍はあるだろうか。顔の大きさは、両手を広げても足りない。
 顔

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【おはなし】迂回

【おはなし】迂回

 ある日、境界ができた。

 僕たちの住んでいるところを突っ切るように壁が現れたのだ。
 壁の高さは分からない。僕の身長の何倍かはあると思う。素材はとても硬くて、壊せそうなものではなかった。端がどこにあるのかも分からない。壁の先を見たものはいなかった。

 あちら側とこちら側の行き来ができなくなったので最初みんなはすごくあわてたけど、季節が変わる頃にはみんな慣れてしまった。

 壁はこちら側の町の

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