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派遣社員の末路は輝かしいか奈落の底か

永らく私は派遣社員だった。家庭優先で仕事は二の次だった。

何度もチャンスはあったのだと思うが企業を探し面接を受けて合否を待つというプロセスを省略するために派遣会社に登録し満期になったら次の就業先を派遣会社に見つけさせるというスタイルでここまで来た。


その昔企業の事務員はほとんどが正社員で賄われていた。寿退社とか出産退社を前提として。業務はほぼルーチンで頭を使う必要もない分野なので何十年も居座られると困るのだ。

大幅な昇格はないにしろ正社員は毎年昇給が発生し積もり積もれば誰でも出来る事務作業をするポストに大金の人件費を支払うという構図が出来上がってしまうため数年で辞めてもらうことが必須だった。

男女雇用機会均等法から派生した正規事務社員の滞留を懸念した企業がそのポストを非正規社員に割り振っていくこととなったのは当然の流れだったのかもしれない。

おかげで何のキャリアもない本来なら大企業からは絶対に選ばれないであろう私のような人たちが仕事にありつけたのもまた事実だ。最初は学生バイトと同じような何の後ろ盾もなかった派遣社員にも国の指導によって福利厚生が充実し有給も発生するようになってずいぶん改善されてきた。

派遣社員には専門26業務という企業がいつまでも雇い続けられる法律があった。ありがたいような迷惑なようなこの法律。簡単に言えば専門性の高い仕事は3年ごとに人が入れ替わっていたのでは大変だからいつまででもポストについていていいですよといったものだ。

本来なら専門性の高い仕事とは簡単に技術が習得出来ない分野に特化されるべきなのだがこの法律は非常にあいまいで26業務の中にあった「OA機器の操作」でほとんどの事務系派遣社員は昇給が一切発生しないまま何年も同一会社で働き続ける結果となった。

3年で人を入れ替えなければいけない業務とはお茶くみやコピー取りなどの雑務だけでPC操作がメインの事務社員は全て「OA機器の操作」に該当したのだ。それが例え毎日出来上がったフォーマットに数字を入力するだけの仕事だったとしても。


就業人口の非正規率を懸念した国は今度は26業務の廃止を宣言した。就業から3年経った派遣社員は同一会社で働き続ける事が出来なくなった。3年ごとに派遣先を転々とするかもしくは派遣先が吸い上げて直雇用にするか。

廃止が決まった時私は大企業のグループ会社にいたのだが赤字部門だったため残留は見込めない。さてどうするかと思っていた時にたまたま赤字部門の見直しが検討され3年を待たずに契約満期を迎えることとなってしまった。

年齢的にもこの辺りで派遣社員に見切りをつけて直雇用を最初から探すべきとも思えたがちょうど子供が受験の最中だったこともあり一旦仕事は置いておいて家庭に専念した。さて復帰しようというタイミングで派遣会社から打診もあり再度派遣社員として別の大企業で就業することとなった。


これがラッキーなことに問題のない派遣社員は3年経ったらもれなく直雇用に切り替えてくれる会社だったのだ。更に在籍中に永らく直雇用の契約社員だった人たちが法律の改正で一斉に正社員に昇格するのを目の当たりにした。

非正規社員の5年ルールだ。

派遣社員は3年で直雇用に切り替えるか契約を終了させなければならないのに対して直雇用の契約社員はその期間が5年となる。5年後に企業は契約社員を正社員に格上げするかもしくは有期契約を無期契約にするかという選択をすることになるのだがたまたま私の派遣先は不公平が生じないようにと全員を正社員に格上げしたのだ。

ということは最長8年かかるがこのまま働き続ければ間違いなく私は大企業の正社員になれる。年齢的にも仕事人生はそれほど残っていないが正社員になれば定年後も5年間嘱託として会社に残れる制度まで整っている。

もはやこの企業に骨をうずめる覚悟をするしかない。

結局さまざまな法改正による紆余曲折を経て企業は事務社員を正規に戻さざるを得ない選択をすることになったともいえる。しかしそれには最長で8年間は非正規を雇えるため新卒を雇用して最初から正社員の給与を支払うよりは経費削減出来るしなにより中途の派遣社員は皆事務作業の経験がありイチから教える必要もない。

大企業にとって落ち着くべきところに落ち着いた結果ともなった。


そのさなかにこの不況だ。私には契約社員の任期があと数年残っているのでその時にどうなっているかは分からない。分からないが現在の状況が長引けば長引くほど正社員への登用は険しい道となることは必須だ。現に今までもれなく派遣社員を契約社員へ引き上げていた会社が最近派遣社員を任期満了にし始めた。

どういうことかというと3年経った派遣社員を直雇用にせずに新たに別の人材でまた3年派遣社員としてポストに就かせることにしたのだ。これを繰り返せばそのポストは3年ごとに人が入れ替わるにしろずっと派遣社員で賄えることとなる。

少し前に全員が正社員になったばかりなので現在契約社員で5年満期となる人は存在しないのだが数年後私たちがその立場に立たされたとき有期契約から無期契約に変更の契約社員のままだったら私の目論見は大きく崩れることとなる。8年も低賃金で我慢して働いたのにその後も契約社員。

契約社員と正社員の年収は大きく違う。更に契約社員には退職金も出ないし定年後の再雇用もない。


事務社員は時代の波に翻弄されてばかりだ。スキルを培って来なかったので当然の結果なのだが冒頭記載したように私はとても家庭と仕事は両立出来なかった。スキルを武器にバリバリ働くようなポジションを選べなかった。

どうか数年後にはこの不況が落ち着いていますように。そう願わずにはいられない。

私の経験や考え方が少しでもお役に立てたなら嬉しいです(◍•ᴗ•◍)