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「妊娠・出産・育児と働くこと」オカモトヤ 鈴木美樹子社長インタビュー

≪編集部より≫本記事は文具業界専門紙「旬刊ステイショナー」2023年1月5日号に掲載した内容を一部編集したものです。
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 東京・虎ノ門でオフィスサービスなどを展開するオカモトヤの新社長に、昨年就任した鈴木美樹子氏。2人の娘の母親でありながら老舗企業のトップとして、女性の働き方を支援する新事業「Fellne(フェルネ)」の展開も進める。今回、妊娠・出産の経験と、働く女性を取り巻く環境について話を聞いた。

「ママ行かないで」と言われて。
妊娠・産後も〝ずっと大変〟

―社長に就任してから、「女性社長」と言われることが多いと思いますが、どう感じていますか。
 【鈴木】「女性社長」と言われることはあまり気にしていません。もともと私の考え方では、仕事では女性も男性もあまり関係ないので。女性の健康課題はあるにせよ、基本は変わらないです。女性の社長が珍しいからという理由で、メディアなどで取り上げていただいたことによって、オカモトヤが注目されることはありがたいことだと思っています。そういう意味では、メリットとして捉えています。

―2人のお子様がいらっしゃいますが、妊娠・出産を経て、また子育てをしながら仕事をすることのハードルについて、ご自身の体験も踏まえて教えてください。
 【鈴木】事前にもらったこの質問を見て、(大変だったことが)いっぱいありすぎて、どう答えたらいいんだろうと思っていました(笑)。育休後の復帰でもいろいろありましたが、基本的にずっと大変です。
 具体的にいうと、まず妊娠期。自分の妊娠が判ってから、つわりで気持ち悪くなります。その気持ち悪さをどう自分で抑えるかも大変でした。それから、例えばお腹の中にいる子どもが本当に五体満足で生まれてくるのかとか、お腹の中で死んでしまってないかとか、常に妊娠中は気にしているものです。だから、仕事だけのことを考えているわけではないし、自分の心と身体の変化があり、今までの自分とは違う。そういうところでまず大変さを感じました。
 また、家で寝ていれば腰痛があって眠れないし、夜に足はつるし、トイレは近くなるし。お腹が大きくなってくれば、仕事で椅子に座っているだけで苦しい。お腹が大きいから、胃が圧迫されて苦しくなるんです。最近は、妊娠35―36週で産休に入りましょうと決まっていますが、自分が体感してみたところ、30週を超えたら「休みたいな」という印象です。産前休暇は予定日の6週以内と決まっていますが、なんとなく(その根拠が)分かるなという気持ちです。以上のことだけで、わずか妊娠中の話です。
 産休に入っているときは、大体自分のペースで生活ができましたが、今度は産後です。例えば、日本は「自分のおっぱいで子どもを育てないと一人前の母親じゃない」みたいな価値観が一部であるんですよね。そうすると、「自分は母乳がでるのかな」とか不安があるわけです。それにみんな普通に(母乳が)出ると思ってますけど、開通作業のようなものがあって、それがすごく痛いんです。そのうえ、子どもの夜泣きで眠れず、3時間おきにおっぱいをあげる。常に自分は子どものミルクタンクと化して、泣けばミルクをあげて……という生活をずっとすることになります。なので、社会からの疎外感というのが非常にありましたし、仕事をしてきた人はよりそれが感じられるんじゃないかなと思います。なぜなら、生産性が一切ないんです。一日中家にいて、子どもにおっぱいあげて、ご飯を食べて、買い物に行って、それなのに自分の仕事もしていない。一般的には(子育ては)それが立派な仕事だと言いますけど、当事者はそうは思わないんですよね。そういう部分は、本当に大変でした。これだけでまだ産後の話です(笑)。

 今度は復帰後です。育休が終わるころ、身体は育休中の生活に慣れているわけです。職場に復帰すると、家ではおっぱいをあげ、夜中は夜泣き対応をして、だけど朝は起きて子どもを保育園に送って、自分は会社に行って仕事をする生活になります。なので、時間に追われて睡眠不足が続きます。あと、子どもの突発的な病気で休んだり、病院に連れて行ったりとかしないといけないですよね。なので、復帰後子どもがそれぞれ2―3歳になるまで、うちは2人なので計5年くらいは、毎週土曜日には病院に行っていました。熱が出ると保育園に預けられない(仕事に行けない)ので、そういう状況にしないために。ちょっとでも鼻水がでたら土曜日病院に行って薬をもらい週末は休んで、月曜日は鼻水が悪化していないことを祈って保育園に連れていく、というサイクルです。なので週末にやっている病院と薬局、あと救急を受け入れている場所は事前に調べておかないと、土日にゆっくり休むなんて絶対できない。次の週、仕事をするために土日で子どもの体調を整えるんです。しかも、予防接種も受けさせないといけなくて、その数の多さもすごい。予防接種を受けないといろんな感染症にかかるので、最終的にだれが困るって、親が困るんですよ。それに、土曜日に予防接種を打ってくれる病院があればいいですが、そうでなければ会社を早く上がれる日に早上がりして、保育園に迎えに行って病院に連れていく。もしくは朝早く病院で注射を打ってから保育園に預けて自分は会社に行く。本当にすごく大変なんですよ。本当に時間の組み方が「テトリス」みたいです。

 それで、保育園に預ければ、毎日「連絡ノート」に記入しないといけない。何時に起きた、何時に寝た、何を食べたかとか、帰宅後の様子とかも。それを先生が読んで、また保育園での様子を記入してくれる。そういう交換日記を毎日します。それは保育園に長時間預けるからこそ必要だし、家での過ごし方の参考になるし、結果報告としての家庭に対するフィードバックになるからいいのですが、それを毎晩母親が記入するんです。それで次の日の準備をして……となるわけです。
 特にうちの子の場合は、保育園の送りの時にすごく泣かれました。「ママ行かないで」と。それも慣れによってなくなるんですが、「泣いている子どもを置いてまで、仕事をしないといけないのか」という罪悪感にさいなまれました。それがつらかったです。結局子どもを預けて、自分は仕事に行くんですけど、いい気持ちはしないですよね。だからママと離れたくない子を持つ親は、そういう罪悪感があったりするんじゃないかなと思います。

鈴木 美樹子( すずき・みきこ)氏
東京都出身。成蹊大学経済学部卒業後、エドウイン入社。営業・企 画・ブランド立ち上げ等を経験し、2006 年にオカモトヤ入社。1級建築施工管理技士・認定ファシリティマネジャーを取得。常務 取締役営業本部長を経て2014 年に専務取締役、2022 年に代表取締 役社長に就任。2度の出産・育休を経験し、社内の働き方改革・健康 経営等を推進している。
(撮影:ステイショナー編集部)

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