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書き写したい文章のこと

仕事の日でも遅出だと少し時間に余裕があって、noteを更新したくなる。

自分用に書く日記とは違って、
note は少し手紙みたい。

この言葉に目を通してくれる誰かへの手紙。

10代の頃、気に入った文章をノートに書き写すのが好きだった。今でもときどきやりたくなる。
美術館で美しい絵を見たときと同じように、
時折目が離せなくなってしまう言葉があって、
そういう一文は心に留めておきたくなってしまう。

最近だと、
田辺聖子さんの『返事はあした』という本に出てくる文章がとても良かった。

主人公の女の子留々ルルは、孝夫という男性にいつも恋焦がれている。でも、孝夫は生涯を共にしたいとは思っていない。
自分の好意のほうが上回っている現状にじれったさを感じつつ、それでも留々は孝夫を好きでいるのをやめられない。



孝夫の「何か」の魅力は、ひょっとすると、私が勝手につくりあげた幻影かもしれない。それを推してもし孝夫に賭けたら、……。深い愉悦と、その反対にじれったさ、もどかしさを一生抱きつづけないといけないかもしれない。にがい空虚と甘い充実をかわるがわる舌先で味わって、大きい欲求不満のうちに一生を終える、その生涯が目に見えそうだった。


結婚を望まない相手に、一生片想いを抱き続けるもどかしさが、ものすごい濃度で表されてる。

田辺聖子さんの描く恋愛は、とてもリアルで強かだ。切なさを身に感じつつ、描かれた女性はいつも男性側を越えていく。


この主人公留々も、最後は孝夫を見限って、
選んだ道を行くことにする。
自分の人生を自分の意志で決める強かさが、田辺聖子さんの描く女性にはいつもある。

そしてだからこそ、恋愛で生じる男女の価値観や視点のズレがどんどん明確になっていく。


『返事はあした』は、私が生まれる前の小説だけど、今読んでも面白くて、男女の根底にあるものは、あまり変わらないのかもなんて思う。


「女はやっぱり、男と、ココロとココロのむすびつきがほしいのよね。たとえ結婚できなくても」

留々の友達はそう語る。

それは今もなお、女性が望む普遍の願いなのかもしれない。

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