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映画 『運動靴と赤い金魚』

2003年/製作国:イラン/上映時間:88分 
原題 Bacheha-Ye aseman 英題 Children of Heaven
監督 マジッド・マジディ



予告編(日本版)


予告編(海外版)


STORY

 少年アリは直したばかりの妹ザーラの靴をうっかり失くしてしまう。
家が貧しいために親にも言えず、アリの一足しかない運動靴をふたりで交代に履いて学校に行かなくてはならなくなる。
 ある日小学生のマラソン大会が行われることになった。3等の商品は靴。アリは妹のために靴を手に入れようと出場を決意する。いよいよマラソン大会当日、アリは3等になろうと必死に走るのだった。

Blu-rayの解説より


レビュー

 ストーリーの大まかな流れは日本版の予告編と上記解説通り極めてシンプルです。
 しかし本作が素晴らしいのはそのディテールで、貧乏であったり、兄妹の互いへの気遣いであったり、お兄ちゃん(アリ)の気持ちの入った奔走であったりを、これでもかというくらい徹底的に情感を込めて描きまくる部分にあります。もう観ている途中から「頼むから今すぐこの兄妹に靴を買うお金を送金させてくれ……」と、手と唇をプルプル震わせながら思ってしまうほどに、まぁとにかくその描き方がメチャンコ巧いわけです。
 ※しかもイラン映画の傑作ゆえ当然「政治的なメタファー」も散りばめられております
 
 で、鑑賞者にストレスをかけてかけて……、ついに鑑賞者が「もうこれ以上この兄弟の困窮を黙って観ている気はないぞ!」と、若干イキってキレ始めたくらいの丁度良い頃合いに、アリが3等になったら靴をもらえるマラソン大会に出場することとなるわけです。
 そんなこんなで鑑賞者の鼻息はその時点にて既に荒くなっていて、さらには若干目頭をウルウルさせたりなんかしながら完全に映画の世界に没入してしまっており、もはやアリを親友や我が子のように応援することとなるわけですけれども、いざレースが始まると今度は走馬灯のように「あぁそう言えば一足の靴を兄妹で交換してダッシュしていたのなんかも走る練習になっていたに違いない……」とか、兄妹の「泣き顔」や「笑顔」等も次々と脳裏に浮かんできて、心臓はバクバク、手には滝のような汗を滴らせながら食い入るようにレースの行方を見守ることになるという……

 それにしてもレースの躍動感あふれる撮影もさることながら、アリの目指す順位が「1位」ではなく「3位」というのがまた絶妙で、その設定こそが「心に残る人間ドラマ」と「映画の奇跡(マジック)」を生み出す原動力となっており、本作を普遍的、且つ生涯人々の心を捉えて離さないであろう大傑作たらしめているように思います。

 またラストは最高に詩的に、優しく、そして美しく。

 

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