映画『コット、はじまりの夏』
2022年/製作国:アイルランド/上映時間:95分
原題(ゲール語) An Cailín Ciúin 英題 The Quiet Girl
予告編(日本版)
予告編(英版)
レビュー
親になれない大人が居て、両親は居ても、親の居ない子どもが居る。
自分の子ではない子どもの親になれる大人が居て、そんな大人のもとで共に暮らしたいと願う、子どもが居る。
物語の舞台は1981年、アイルランドの田舎町。主人公は9歳の女の子、コット。
子沢山な家庭に生まれたコットは家にも学校にも居場所を見つけられず、まるでその存在を自ら消すかのように、表情すら無くした日々を送っています。
母親は日々の生活に追われ自分のことで精一杯、父親は現実から目を背けるように子ども達よりもギャンブルに夢中。
そのような状況の中、母親がまたもや妊娠し出産を迎えることとなったため、コットは親戚のキンセラ家に預けられることに・・・
出会いの当初、キンセラ家のアイリンとショーン夫妻は、無口で表情の読めないコットに戸惑い、コットも馴れない環境による生活も相まって、その心をなかなか開くことが出来ません。しかし日々の穏やかな日常の中、両者はゆっくりと、しかし確実に心を通わせてゆきます。
美しい木々の葉陰から差し込む陽光や心地よくこすれる葉音、鳥のさえずりや風の音、テーブルにそっと置かれるクッキー。淡々と過行く日常生活の中に満ちる、アイリンとショーン夫妻のコットへの気遣いと愛情、言葉と眼差し、そして心に安らぎをもたらし育む、信頼のおける確かな行為。
特別なことは何ひとつ起こらないのに、特別なことが3人の身に起きてゆき、やがて世界はどこまでも眩く輝いてゆくのでした。
原作はクレア・キーガンの小説『Foster(里子)』。
脚本も執筆した監督のコルム・バレードは、これまでドキュメンタリー作品を中心に、様々な子どもの視点や家族の有り様を見つめ続け、高い評価を得てきた方で、本作がフィクション初作品とのこと。
またコット役を演じたキャサリン・クリンチも、本作が初の演技であるとのこと。その瑞々しい存在感と圧倒的な演技力により「IFTA主演女優賞」を最年少の12歳にて受賞しています。
様々な悲しみや切なさ、そして遣る瀬無さを、言葉少なに映像に込めつつも、生きる喜びと人間の優しさを、日常を彩る音の豊かさと共に繊細に描き切った本作は、どこまでも美しく、儚く、そして愛おしい。
コットの纏う黄色は「未来を照らす、光の色」。
そう、感じました。
Soundtrack
日本語 公式サイト
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