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とある達人の備忘録16・ブラック企業との闘い

ー君の人生で一番追い詰められた時代がブラック企業にいた時だと言っていたな。
 その実態ってどんなものなんだろう?

「一見すると誰もが知る有名企業の名前を冠しているが
 中身は昭和の病棟みたいな会社でね。
 職場も真っ暗だし、床が歩くたびに軋むんだ。

 それだけならまだいいが、大声で上の人間が下の人間を叱る、
 なんて風景が日常茶飯事だった。

 真っ暗闇って自分の家と大して変わらなかったし。

 家にいても暗いだけだから、
 異業種交流会で知ったネットカフェをよく使ってた。

 休日はそこのカフェの会員になって、よく渋谷には入り浸っていたよ。」

ーふむ、恐ろしい場所だな。そういう会社は社員のモチベーションが疑われるな。

「軒並み低かったんじゃないのかね。朝の出勤時間になると、
 夢も希望もない青白い顔をした人間の大群がエレベータの前に集まるんだ。

 人間に飼われている牛とか豚がある時突然エサを与えられず
 急に畜舎から出されてトラックにぎゅうぎゅう詰めに押し込まれるだろ。

 屠場に連れて行かれちまう家畜みたいに
 わかり切った運命を悟るだけだった。悪い意味でね。

 連れていかれた仲間は二度と戻ってこない。これはどういうことを意味するか。

 次の日にはスーパーのパッケージで、
 原型をとどめずに店頭に並ぶだろうってことだ。

 屠場では仲間の死を目の当たりにして
 恐怖に打ち震えるまま自分が解体されるその順番を待つのさ。

 手前の仲間の処理が終わったら、次は自分の番だ。」

ー成育した家畜の運命なんてわかり切っているからな。
それがわかってしまうなんて嫌なものだよな。

「僕と同じ会社にいた人間は皆死んだ目をしていた。
 そこに夢も希望もない。あるのは終わりなきデスマーチだけ。

 死出の旅路を余儀なくされるのだ。」

ーこういう時こそ、起業塾で成果を発揮して1日でも早く出たいと思うよな。

「塾でも結果が出なくってね…。僕には屈辱でしかなかった。
 自分だけ起業塾で取り残されていたし、

 毎日死んだ目をした人間の仲間入りで終わっていたから。」

ーたくさん『友達』がいたんだろ。『味方』くらいいてもいいもんだろ。

「『味方』がいればブラック企業でどれだけ気持ちが楽になれたことか…。
 結局会社外の人たちだから、差し引きゼロみたいな感じで終わってたな。
 誰も僕の本当の事情を知るものはいない。

 毎日の激務からどうやって逃げ出そうかずっと考えた。
 どうにもならなくて1人で頭を抱えていて。

 トイレの個室や休憩室にこもっていた時だけだ、唯一救いと言えたのは。
 Facebookで友達が500人いようが5000人いようが、
 1人で戦っている事実になんら変わりないことだった。」

ーそれだけ嫌なら、辞めれば良いのに。

「もちろん辞めるための抗議はしたさ。
 『辞める』話を持ち出すたびに、辞める時期を延期させられて。
 『X月までアサインされているから』とか

 無茶苦茶な理由をつけて辞めさせてもらえないこともあった。

 『辞める』って日本語が通じない初めての経験をした。
 結局あの時は2ヶ月で辞めるつもりでいたが辞めるのに1年かかってしまった。」

ーなるほどな。抗議はしたが実らないのがずっと続いたというわけか。

「観念した時にようやく辞めさせてもらえたというべきかな。
 会社辞めた後どうしようって全く考えはなかった。
 とにかくブラック企業から離れて自分だけの時間を作りたい、それだけだった。
 そしてSNSをやめて『友達』からも離れ、ブラック企業からも離れた。」

ーアデプトになって一番の変化変容よな。
 SNSから失踪してからは人間関係を作ろうとしたの?

「スクールで学ぶまで据え置きだったね。
 何をしたいかって全然わからなかったからその整理が必要だった。

 とはいえ誰も『友達』がいないのはなんともいえない感じもしたので
 テコ入れは試みたんだ。数回だけ『非健常者の会』に行ったことがある。

 テコ入れしようとしてもSNSの時みたいに長続きしなかったので
 結局巡り巡って『自分一人』という状態が何年も続いた。」

ーまあ「やりたくないこと」に囲まれる日常だったらそうなるよなぁ。

「色々巡り巡って思ったのは『究極の自分探し』というのは
 本当の意味で『自分一人』になることだと思う。

 誰かの意志も介入しない、本当に一人にならないと
 自分を取り巻く余計なものが削ぎ落とせないと思う。
 僕にとってその時間はとても大事だった。」

ー誰かの意志に左右されず自分の意志だけで生きていく。
自分を生きるって簡単にいうけど、本当に難しいことだと痛感させられるな。
ここまでして初めて「自分を知る」ということができるんだな。

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