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2020/10/2の星の声

特に感情的な五人の再訪



彼らの多くが月に戻ったのは、ついさっきのことだった。月に残る人々が、彼らを出迎える中、また彼らに月明かりの階段が組まれることになった。その様子を目の当たりにした月の人々は首を傾げた。彼らもまた大いに困惑した。

彼ら、というのは、月で誕生した後に果たすべき務めをもって地球につかわされ生きてきた五人のことを指す。彼らは皆、西暦2020年の始めから10月2日の早朝までに役目を果たして月へ戻っていた。

地球上における彼らの仕事は、困難と苦難の連続だった。地球独特の苦楽の極致を味わうことも目的だったとはいえ、想定外のことが多かった。そんな彼らが月へ戻った時、月の人々は盛大なる祝宴とともに彼らを出迎えた。やりがいなどという言葉では片づけられないほどの紆余曲折の人生を振り返りつつも、月で交わす労いの盃は、幸福と愛で満ち満ちていた。

月と地球を結ぶ月明かりの階段が彼ら五人に向かってのびたのは、祝宴の最中のことだった。地球から戻ったばかりの彼らは、まだまだ感情的だった。ある一人は重苦しい気持ちから解放されたばかりだったからか、思い詰めた表情で口を開いた。

「これまでの私の響きがまだまだ残る世界へ、もう一度向かうだなんて」

彼女は地球上で脚光を浴び、数多くの人を喜ばせてきたが、地球や人類の成長の速度、世界の状況に合わせて、月への帰還を予定よりも早めた魂だった。動揺する彼女の背中にそっと手を当てたのは、陽気で情に厚い柔和な顔をした男だった。

「だいじょうぶだぁ」

彼もまた長らく地球上で多くの人に笑いを提供してきた一人だった。底抜けに明るい声に、思わず彼女は笑ってしまった。彼女は地球上での暮らしの中で、彼にとことん笑わされた過去があった。彼は彼女が太陽みたいに輝いて笑う様子が好きだった。彼女の表現や、その振る舞いを心から愛し、敬意を送り続けていたからこそ、彼女にはずっと笑っていたほしかったのだ。

お互いに顔を見合わせてケラケラと笑っている様子を見て、ほっと胸を撫で下ろしたのは、彼らと同じく、月明かりの階段がのびた女性だった。その隣には、地球に息づく龍の一族の血を継ぐ男がいた。彼はもともと月と地球を行き来していた龍で、月で生まれた龍として珍重された存在だった。彼にも、月明かりの階段がはっきりとのびていた。

その二人も、地球上での接点が転生のたびにあったが、2020年という重要な節目を機に、それぞれのタイミングで月に戻ってきたばかりだった。男は地球に生きる龍からの声を耳にする中で、自らがまた地球へ向かう機会を伺っていた折に、月明かりの階段がのびる面々をひとりひとり確かめて笑みをこぼした。

そしてもうひとり、月明かりの階段を降りることになった者がいた。彼女は毎年の旧暦8月15日、中秋の名月の日に、地球上での生と死を迎えることが決まっていて、彼女の名前はとある国の最古の物語の中に記されているほど、名の知れた人物だった。また、竹から生まれた存在として今も老若男女の間で知られている。

彼女は、地球上におけるあらゆる感情を味わい尽くしていたため、彼ら五人を見た月の人々からは、「わたしたちの中でも、特に感情が豊かな五人だ」
という声があがった。

月世界には地球上に存在する感情のほとんどがない。そのために、地球から帰ったばかりの人々は、とりわけ感情的であると言われているが、彼ら五人はまた特別だった。

彼らは月光の階段を一歩一歩降り始めた。彼らの眼前には、青白く発光する地球が浮かんでいる。彼らはみな一様に、目を細めて地球を望んだ。

五人のうちの一人の女性が「今回も楽しくやりましょう」と言った。龍の血を継ぐ男性は頷いて、それに続いた。

「太陽の子たちと、いっぱい未来の話をしよう」

その声に、五人全員が頷き、微笑んだ。それぞれの瞳は銀河を映したように輝いていた。一歩、一歩と月明かりの階段を降りていく五人はある地点から別の方向に分かれて進んだ。中でも、月へ戻ったばかりの女性は、一目散に地球へと降りて行った。

「いま、会いにゆきます」



2020年10月2日の早朝、五人はそれぞれの形をとって、再び地球を訪れた。
その頃、秋は深まり、多くの地域で黄金色の稲穂が刈り取られていた。地上に降り立った五人は、五芒星の形に点在して、それぞれを月明かりの線で結び合った。

彼らはまた、地上に生き始める。
そこから何をするのかは、五人以外の誰も知らない。

それぞれの表情は、爽やかで生き生きとしている。
彼らの振る舞いは、ふんだんに詰め込んだ温もりや優しさという、地球特有の愛情がある。次に月が満ちる時までに、多くの人々はまた彼らと出会うことになり、彼ら五人のあたたかな手によって、それぞれの情緒を震わせることになるのだろう。

ひとりひとりに訪れるかけがえのない瞬間は、
残り三度となった、今年の満ちる月明かりの下で明らかになる。







今週は、そんなキンボです。





こじょうゆうや

あたたかいサポートのおかげで、のびのびと執筆できております。 よりよい作品を通して、御礼をさせていただきますね。 心からの感謝と愛をぎゅうぎゅう詰めにこめて。