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一冊目「海辺の金魚」

ポプラブッククラブ一冊目の感想を。
学生の読書感想文レベルにはできたでしょうか。
海辺の金魚」2021年6月7日第1刷発行
著者:小川紗良 編集:吉川健二郎 監修:東映ビデオ株式会社
発行所:株式会社ポプラ社
組版・校閲:株式会社鷗来堂 印刷・製本:中央精版印刷株式会社
ISBN:978-4-591-17024-3 (映画は見られてません)

ストーリー・本編について

ある夏の雨の日に晴海が「星の子の家」にやってくるところから物語は始まる。18歳になりこれからなことを思い悩む花は晴海にシンパシーを抱くが、まさにこれは運命の出会いだったのかと読み進めるにつれ思うようになる。

なかなか溶け込めず素直になれない晴海と反対病のミツコがぶつかりあいと麦と里美のどこか物騒なごっこ遊びに「星の子の家」の様子が伝わってくる。

ハンバーグ・きんぴらごぼう・クリームシチュー・ほうれん草のソテー・にんじんしりしり・たまごスープ・鶏のから揚げ・ポテトサラダ・ちらし寿司

誕生日のお祝いのごちそうハンバーグや鶏のから揚げに飛びつく子供たち、クリームシチューで口の周りを汚したりする子どもたち、戦争のような食事時が目に浮かぶ。子どもたちの健康を考えて作られただろう一部メニューには愛情を感じつつも"人気ないんだろうな"と思って、クスっとしてしまう。イラストを入れたいけど残念、僕にはそんな絵心がない。

「なんでって、家族でいるのに理由なんかないだろう」
「家族だからこそどうにもできない時だってあるんだよ」

これからに思い悩む花との数少ない会話の中にも、タカ兄が時折包み込むような雰囲気や言葉にやさしい気持ちになれる

作品中では「おやゆびひめ」「みにくいアヒルのこ」「マッチうりの少女」など童話のエピソードに、花だけなく、晴海・ミツコ・麦・里美それぞれの子どもたちの想いや行動が連想させられて、こどもたちの新鮮な感性とその光景が丁寧に表現されている。このおかげか、複雑な感情も心にすっと入ってくるところが素晴らしい。

(注)童話のストーリーを思い出したい人向けに
ゆめあるチャンネル」の動画にリンクさせていただきました。

大人向けの絵本にしたら、いいんじゃないかなとふと思いました。
そうだ、ポプラ社さんって絵本も作ってるわけだし、
大人向けの絵本レーベル企画立ち上げましょう(笑)

現実的な問題をこどもたちの抱える想いを描きながらも、季節感を感じられるその構成も良い。息苦しさに翻弄されながらもうつりゆく18歳の花の心の動きをスムーズに読ませてくれる最後にはどこか救いのようなものを感じられて、生きてゆく力をえられるようなそんな気がする

季節ごとに影響されるぼくのこころ

<夏>反対病のミツコが中心に描かれる「みっちゃんはね、」では、こどもたちの感情がリアルに躍動的に描かれている。素直になれないかと思えば、優しさや愛情をものすごくダイレクトに伝えるー動物的というか本能的というかーその個性的な心の動きや感性に子どもたちを抱きしめたくなる

<冬>麦と里美の寝坊助二人組が主役の「星に願いを」では、麦と里美のほほえましくなるようなかけあいについ笑顔になるものの、その行動と感じ方にびっくりされられると同時にハッとした。星の子の家のにぎやかなクリスマスに胸があったかくなる

<春>「花びらとツバメ」では、大人への成長を遂げていく18歳の花が新たな生活に踏み出していく背中に声をかけたくなる。「日々を積み重ねるしかない」という言葉に、もどかしくも優しさと愛情を伝え続けるタカ兄の姿に感動を覚える。桜が咲く大通りの先には、晴れ上がった空と青い海が広がる光景が目に浮かび、花と晴海が出会えてよかったと思った。

装幀について

表紙の写真に普段読まないエッセイ感を感じて、つい身構えて尻込みしそうになりながらも、最近自分の中で恒例となっている装幀を味わうことに。別に素材マニアというわけでもないのだが、つい感触や雰囲気を楽しむのと小説本編との関係性を妄想するのがどこか楽しく癖になりつつある。

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本編を読む前から、目立つ帯の「あとどれぐらいだろう」に、いつまでたってもたどり着けないような生き苦しさのようなものを感じ、金魚が口をパクパクさせているあの姿を連想してしまう。手を引かれている少女の後ろ姿に当惑や心細さが感じられ、その歩いていく先が見通せない景色に不安を感じてしまった。それなのに装丁の感触はどこかやさしいイメージのある触感と色感覚を感じていた。うすく小さく帯に書かれている文章が目に留まる。

「18歳の少女と子どもたちの成長をみずみずしい筆致で描いた」

この表現にうっすら希望と勇気をもらいながら表紙を開いたところで、装幀の方の名前を見て妙な得心が。

写真―――川島小鳥
装幀―――岡本歌織 (next door design)

思い浮かんだのは、失礼ながら他社だけどPHP研究所の「桜風堂ものがたり」。まだ中身を読んでないのに、最後にはどこか救いを感じられる作品ではないかと思った。カバーを取ると草花の絵柄があって主人公の名前と重なる。読後は、背表紙に描かれている小さなツバメを見てやさしい気持ちになれた

どこまで本の内容をイメージされてこのデザインにつながっているのだろうか興味はつきない。

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