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演技力で我慢いらずの禁煙を楽しむpart2 世界で一番やさしいスタニスラフスキー・システム㉚

タバコの歪んだイメージと実際の姿


「依存症患者がアルコールやクスリの離脱症状に苦しむ様をイメージできますか?」

「喉をかきむり、あえぎ苦しむ感じですよね…」

「禁煙であんな風に苦しむことがあると思いますか?」

「…いえ」

「タバコにはあれほどの禁断症状は無いですよね」

「はい…」

「逆に言うならば、タバコにはお酒やドラッグで得られるような高揚感や陶酔なども一切無いという事にお気づきですか?」

「…」

「居酒屋やクラブと同じよう活気や熱気にあふれた喫煙所など見たことないはずです」

「ですね…」

「赤の他人とつい意気投合してしまうような開放感や、つい踊り出したくなる高揚感でムンムンした喫煙所なんて想像できないはずです」

「…どちらかというと物静かでよそよそしい雰囲気です…」

「周囲から不快に思われようと、肺がんのリスクを高めようと、自分が心底好きで楽しめるならば吸えば良いと思います」

「…」

「しかし、良く良く観察してみると、リスクに見合った楽しさや快感らしきものなど何一つ経験していないのが喫煙者の実際の姿なのです」

「…本当ですね…」

「禁煙が辛いのは、我慢を強いられるからだと多くの人が信じています」

「はい、意志が弱い私にはとても無理だと…」

「ところが、そもそも一体何をそんなに我慢しなければならないというのでしょう?タバコには高揚感も陶酔も錯覚も極度の集中も爽快感も何もないではありませんか?」

「なるほど…」

「にもかかわらず、タバコを取り上げられると何か大切なモノを奪われた気がしてしまう、しかし、実際には何が欲しくて吸っているのか本人にさえもよくは分かっていないのです」

「私たちがタバコを吸う本当の目的は何か?ということでしたね」

なぜ、目的を明確にするのか?


「そうです。なぜ、私が目的を明確にしたいのか分かりますか?」

「目的が分かり、それを別の手段で達成できるのであれば、タバコの代わりになるからですか?」

「一部はその通りです。目的を明確にせずに代替物で禁煙できたりするはずがありません。パイポのような疑似タバコ、飴やガム、運動、などはほぼ効果がありません」

「私も覚えがあります。フリスクを口に含んだままタバコも吸ったりしてました…」

「効果があるほうがおかしいので気にしないほうが良いです。なぜなら、喫煙者はタバコに味や匂いを求めているわけではありませんし、リラックスやストレス発散効果を求めて吸っているのでも無いからです」

「⁉そうなんでしょうか…」

「ほぼ全ての喫煙者は自分がタバコを吸う目的を錯覚しています。…このように目的が不明瞭なことが原因で様々な歪んだ物語を創り出してしまっています」

「歪んだ物語?」

物語の解釈を変える➡生じる感情を選択する


「はい、多くの喫煙者は「好きなタバコをこのまま吸い続けたい、でも、周囲の評判や健康の事を考えると好きなタバコを我慢しなければならない」という葛藤の物語に住んでいます」

「はい、行くも地獄、帰るも地獄です」

「ところが、本当に好きなのか?なぜ好きなのか?と聞かれると誰も明確には答えられません」

「…」

「繰り返しになりますが、タバコには強い陶酔も依存したくなるような効能なども一切ありません。にもかかわらず多くの人にとって禁煙を辛く感じる一番の要因は喪失感なのです」

「喪失感…」

「はい、失恋に感じるかのような喪失感です」

「失恋?」

「タバコは本当のあなたを理解し、あなたを誰よりも特別視してくれる唯一無二の貴重な恋人みたいな存在ではありませんでしたか?」

「なんとなく、その感覚分かります…」

「しかも、禁断の恋愛中のような気分ではありませんか?」

「…」

「自分もいつかはやめなければとリスクを感じている、世間に良く思われていない、タブーを犯している、という意識がかえってお互いの存在を特別なものに高めあっている構図があります」

「…なるほど」

「その禁断の恋愛物語という解釈を放置したままタバコを止めるとどうなるでしょう?」

「その喪失感に一生苦しまなければならないかもしれません」

「そうです。せっかくタバコを止めたのに心が自由になれないのです。自由でないならなんの健康でしょう?精神的には不健康になってしまうかもしれません…」

「確かに…」

「忘れてしまえれば楽かもしれません。ところが、毎日必ずどこかで目撃してしまうのです。最愛の元恋人が誰かと一緒に楽しそうにしているのを…」

「最悪ですね…耐えられる自信がないです…」

「こうなってしまうと意志が強いとか弱いとかの問題ではありません。人間らしく生きるかどうかの問題になってしまうのです」

「意志力の問題では無いのですね」

「そうです。最愛の人を失うくらいなら、不健康や不潔と思われるくらい平気でしょうし、中には死を覚悟する人がいても不思議ではありませんよね」

「はい」

「この解釈のままでは禁煙に勝利はありません。例え禁煙成功できたとしても、あなたは周囲の評判や自分の健康を気にして最愛の人を捨てた薄情な人物として自分を見下しているかもしれません」

「タバコを2,3日我慢していると感じるのはまさにそういう感情です!」

「せっかく手に入れた健康的な生活も戦利品とは思えません。せいぜい凡人と同じという味気ない烙印に成り下がってしまうのです」

「はい、4,5日もするとなんのために禁煙なんかしたんだろうという気分に必ずなってました。そして、再び手を出してしまうのです。一本くらいなら大丈夫かと…」

「そうです、そして再び吸い始めるとまた、「なんのために吸っているのだろう…」と考えつつ止められないのです」

「このままだと永遠にその繰り返しですね…」

「ですからタバコを止めるその前に、何となく抱いている物語の存在を認識し、その解釈を完全に変える必要があるのです。というよりも物語を正確に解釈しなおす必要があります。そもそも私の目的は何だったのか?と」

「人物の本当の目的を見つけられると人物と物語を正確に捉えられるということですね?」

「そうです、そして、それが明らかになると実はタバコが恋人でもなんでもなかったのだという事が良く分かるようになります」

「恋人では無かった…」

タバコは最愛の恋人?


「そうです。今までのあなたにとってタバコは最高の恋人と言えるかもしれません」

「…」

「タバコはあなたが寂しい想いをしているとすぐに駆け付けその寂しさを癒してくれます。落ち込んでいれば、すぐさまあなたを勇気づけてくれます。口さみしければ美味しい食事を作り、なんとなく不安を抱えている時にすぐさま解消してくれます。集中出来ない時には精神統一を手伝い、落ち着かない時はイライラやソワソワを鎮めてくれるのです。いずれにしろ、タバコはあなたの孤独や不安を誰よりも早く気づき癒してくれる存在でした」

「それらが本当なら最高の恋人ですね」

「はい、ですから多くの喫煙者にとって禁煙は大失恋物語です。強烈な喪失感と敗北必須の戦いを強いられてしまいます。しかし、本当の目的を知った私にとって禁煙はマトリックスのような冒険物語でした」

「マトリックス⁉キアヌ・リーヴスのですか…」

「そうです、世界の本当の姿に気づき、本来の自分に目覚めていくヒーロー物語です」

「なぜ、冒険物語なのか全く想像つかないですが、なんだかすごく楽しそうですね…それなら、本当に止められそうな気がしてきました…」

「その気持ちは大事ですが、まだ、タバコとお別れしないでください。本当の喫煙の目的を知るまではタバコを止めないで欲しいのです。少し一服してきても良いですよ…」

私は非常階段に出て月を眺めた。

アマンダがトムと眺めた銀の靴のようなお月さま
が昇っていた…

月に煙を吹きかけながら気がついた

そっか、あの親子は月を見かけると願い事するんだ…

少なくともトムとローラが幼い頃はそうしてたんだろうな…
まだ、お父さんが居た頃には4人で…

月に願い事したことなんか無かったけど、
私の幸せを願ってみた…

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