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【行政書士試験失敗記】6話 試験問題、前から解くか? 後ろから解くか?

 

 試験問題、前から解くか? 後ろから解くか?


 まるで「パッと光って咲いた花火」のような、米津玄師が歌うような、これからひと夏の甘酸っぱい青春物語が展開されるようなこの問いかけに対して過去の私は頭を悩ませていた。
 
 行政書士試験は全部で法令科目の選択式問題が40問、多肢選択式問題が3問、記述式問題が3問、一般知識の選択式問題が14問。全60問構成で作られている。これを3時間=180分という制限時間の中で全て解かなければならない。
 
 最初の頃、私は「どうせ全部解くのだから前から解けばいいでしょ」と気楽に考えていた。
 

 もちろん、これは失敗である。


  さらに言うと、

「3時間もだらだら試験やるの? 長いわ~」

 などとも考えていた。サラリーマンにとって貴重な休日である日曜日の3時間が奪われるのも嫌だった。
 
 これももちろん失敗……というか問題のスタートラインにも立ててない。
 
 ちなみにこの失敗に私が気づくにはそれなりに時間を要した。

 なぜならば、この失敗の本質は行政書士試験の問題構成やその傾向などを肌で感じ、その上で試験問題のメタ的な要素の部分も含めて知っていないと気づき辛いものであるからだ。
 
 確かに全ての問題に回答するのであれば、問題を解く順番なんてものは全く気にする必要はない。しかしながら、合格点を「必死になって」取りにいくというのであれば話は変わってくる。
 
 必死になって取りにいくとなると3時間は案外短いものだ。

 読者諸賢はこれを嘘だと思うだろうか?

 当初は長い長いと思っていた私ではあるが、実際のところ私が合格した時の試験では、残り時間5分のところでなんとか全ての問題を回答できた。

 試験中は生きた心地がしなかった。せっかく長い時間かけて対策をしてきたのに、時間切れで回答できない問題があるなんて嫌すぎる。

 予定通りに問題を解くことができなかった私は、試験会場で泣きそうになっていたと思う。記述問題の用紙が零れ落ちる自分の涙で濡れないか心配になっていたくらいだ。
 
 
 さて、では実際に行政書士試験の時間について考察していこう。

 全60問を3時間=180分で攻略するとなると当然時間配分を気にしなければならない。単純計算で1問あたり3分使うことができる。
 
 なんて考えるから私は失敗する。
 
 5つの選択肢から正解を選ぶ問題と、記述問題とでかかる時間が同じな訳が無い。
 記述問題を解くにあたって、どんなに時間が無くても1問につき10分は必要だろう。ということは記述問題でも最低30分は必要になる。
 
 残り150分。
 
 1つの事例から穴埋め式で答えを埋めていく多肢選択式問題も泥沼にはまりやすい(私は本試験で毎回泥沼にはまって抜け出せなくなったし、点も取れなかった)。やはり最低1問10分は残しておきたい。
 
 残り120分。
 
 どうだろうか。3時間あった時間が気付けば2時間しか残っていない。
 
 そうすると残りの54問を2時間で解かなければならないことになるが、1問につき平均して2分。2分で1問解かなければならない。
 
 2分で問題を解くということは、1分半で問題文と選択肢をすべて読み、30秒で正解を選ぶ。これにはもちろんマークシートを塗っている時間も含まれる。
 
 それを54問繰り返す。淡々と。手を止めてはならない。
 
 どうだろうか。自分で書いていて思ったがこれはかなり厳しいのではないだろうか。
 
 体感であるが、私なら初見の民法の問題なんて5分は欲しいところだ。しかし、5分もかけていたら試験は終わる。
 
 どこの誰だ。「3時間なんて長い」なんて宣う愚か者は。これでは攻略不可能ではないか。
 
 
 だからメリハリが必要なのである。解ける問題は30秒で解き、解けない問題には時間をかける。こんな当然のことを改めて自覚しないといけない。
 
 行政書士試験は問題によっては30秒以内で解ける問題もある一方で、5分かけても解けない問題がある。

 予備校の講師の方々はこれを解けなくても仕方の無い問題=捨て問と呼んだりして、「解けなくても仕方の無い問題だ」と我々を慰めてくれるが、それが捨て問かどうかを試験会場で判断してはくれない。

 残念ながら講師の方を現場に連れていくことはできないのだ。
 
 捨て問かどうか、その判断は最終的に自分で下すことになる。

 よく「これは捨て問だろ!」と思ってスルーした問題を後になって見ると全然そんなことは無いと答え合わせの時に思い知らされる。
 私も模試の答え合わせの最中に講師の方から「この問題は解いて欲しかった」なんて解説されて天を仰いだことは何度もある。

 捨て問かどうかの審美眼を日頃から磨いていないと、どの問題を見ても捨て問であると判断しかねない。そうなったら悲惨だ。
 
 我々が試験会場でやることはどの問題にも真摯に立ち向かい、その結果どうしてもダメなら撤退するという判断をどの問題でも下さなければならないのだ。それも限られた時間の中で。
 
 これらの点を踏まえて冒頭の問題に戻る。
 
 

試験問題、前から解くか? 後ろから解くか?


 
 これは重要な問題だ。この問題については1時間でも2時間でもかけていい。
 
 参考として行政書士試験においてまことしやかに言われていることがある。

 それは「試験問題は前から解くな」だ。
 これには私も納得できる。できることなら私も前から解きたくない。
 
 試験の問題構成は毎年ほぼ固定と言われている。
 試験問題の前とは、1問目、2問目のことである。これは「基礎法学」と呼ばれるもので、どんなものかというと
 
 「法学全般に共通する基本的な用語や知識が問われる科目」
 
 となっている。
 私はこの科目、行政書士試験におけるジョーカー的立ち位置なのではないかと思っていた。例年、受験生の心を狩る死神のような科目なのだ。
 
 というのも法学全般である。
 
 とにかくざっくりしている。法律のことではなくて法律の成り立ちについてのお話なので、各国の法律制度について学ぶということだ。
 
 例えば各国の議会制度について。
 イギリスの議会には選挙で選出される庶民院と貴族から構成される貴族院というものがあります。
 
 例えば法格言について
 「悪法もまた法である。」「自白は証拠の女王である。」「権利の上に眠るものは、保護されない。」
 
 例えば法律で使われる日本語について
 「以下」「以上」「みなす」「推定する」「重要」「不当」「遅滞なく」「直ちに」
 これらの正しい意味について、使い方について
 
 ……といった「は?」と脳がフリーズするような問題が毎年出題されている。

 ちなみに令和4年度一発目の問題は、裁判における大陸的な裁判観と英米的な裁判観についてであった。
 
 人生がかかっている試験会場で私は高らかに「そんなもん知ったことか!!」と叫びそうになったのを覚えている。
 叫んでいたら今の私はこうしていないので、叫ばなくてよかったと心底思う。
 
 とにかく、自分の勉強してきたことの範囲外から殴られるわけである(よく勉強していたりするとちょっと見たことあるなー、くらいの問題もあったりする)。たまったものではない。
 
 どうやらこの試験、1問目、2問目で受験生の出鼻をくじき、ペースを崩そうとしているらしい。
 
 それゆえに相手の思惑に乗らないために問題は前から解くべきではないという答えにたどり着く者もいる。なるほど。
 
 では、どこから解くか。後ろから解くという人間もいた。
 
 後ろ、とは一般知識のことである。
 
 一般知識の問題は足切りが設定(14問中6問以上の正解が必要)されていることもあり、とにかくみんな心配になっている科目であるのは間違いない。

 全受験生は本番の前日、就寝前に必ず「明日一般知識でとんでもない問題が出ませんように」と祈りながらベッドに入る。それくらい心配なのだ。
 
 本番中においてもせっかく頑張ってきたのに一般知識がダメだったらどうしよう、という気持ちで試験に臨んでいるのである。

 なぜ試験センターは足切りなどという残酷な問題を作り給うたのか。これは神=試験センターがもたらした試練だということは間違いない。
 
 そこで、一刻も早く不安を解消するために一般知識の問題を先にサクッと終わらせて他の問題に入ろうというのだ。
 
 しかし、ここにも注意点がある。

 基礎法学と同様に一般知識も対策のし辛い科目なのだ。

 年々出題される範囲は多種多様になり、いくら模試を受けて対策をしたところで対策しきれない場合がある。

 かと思えば令和4年のヒラリー問題(詳しくは令和4年度問53参照)のような拍子抜けするような問題もあったりする。
 
 正直、どの問題も時間をかけて正誤を判断しなければならず、時間をかけてしまうことが多い。
 
 最悪の場合、一般知識で力尽きてしまったり、全然解けなくて「もうだめだ」と地獄のような気持ちで残りの試験時間を過ごす羽目になったりする。そうなってしまっては最悪だ。
 
 人間という生き物は意思決定を何度も重ねていくうちに集中力が途切れていき、維持することが難しくなる。考え続けることで人は肉体的な体力だけでなく、思考的な体力も失い続けるのだ。
 
 体力切れの状態で別の問題と相対しなければならない。それは全力を出せていないのと同義である。
 
 それゆえに意思決定の必要を迫られる基礎法学や一般知識を最初に解くというのは私の場合はやるべきではないという結論に至った。
 
 要するに試験問題の中でも、単純に知識を問われる問題を短時間で回答し、考える問題に時間をかける。
 
 それができないと知らないうちに体力や集中力が削られていき、最後には息切れ状態になる。ただでさえ、本番は極度の緊張状態で行われるのだから消耗も早い。
 
 問題を解く順番一つでなにをそんなに騒ぎ立てる必要があるのかと思われるかもしれない。

 

 しかしながら順番一つ変えるだけで劇的に変わることもある。


 
 トライアスロンをご存じだろうか。
 泳ぎ、自転車を漕ぎ、最後に走るあの競技である。とんでもないハードな競技である。
 しかし、この競技の順番を変えたらどうなるだろうか。例えば、泳ぎを最後に持ってきたりなんかしたら。
 
 溺れる人間続出である。
 運営側はこの非人道的な競技が行った事実は世界中からひどく批判されることになるだろう。
 
 行政書士試験も解く順番次第でトライアスロンにでも非人道的な拷問にもなりうるということだ。
 あなたがどちらに参加したいかは自由ではあるが。
 
 やはりこの試験、さすが国家試験というか、設計が意地悪である。知識とは別のところで対策を講じておかないと気が付かないところで体力を削がれ、気が付けば溺れているなんてことになっている。
 
 ではどこから解くのか。
 
 それは各々の自由だ。私が「これにしなさい!」と口を挟めるようなものではない。
 
 そんな無責任な。
 
 と思われるかもしれないが少し考えて欲しい。我々はなんのために貴重な時間を使って模試を受けるのかと。
 
 問題を解く順番は模試で試してみて欲しい。

 できることならどの順番で解いたのかを記録しておき、試験後の結果と疲労感、その他の感想をまとめておくことが望ましい。そうすれば数回の実証実験を終えた時に、自分がどの解き方がベストなのかを決めることができるはずだ。
 
 ちなみに私にも自分で「これだ!」というベストな回答順がある。あるにはあるのだが、失敗記に書き連ねても仕方の無いことなのでそれはまた別の機会に記すことにしよう。
 
 

試験問題、前から解くか? 後ろから解くか?


 そのレベルで考えたことが私の失敗だ。前にも後ろにも罠が張り巡らされている。
 
 もっと本質的なところをしっかりと見て攻略しなければならなかった。
 
 私にはそれができなかった。だから失敗した。

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