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hidekのエンジニアと長話 第1-2回【全文書き起こし】

「hidekのエンジニアと長話」1人目のゲストはLINE株式会社で上級執行役員を務めている池邉智洋さんです。

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「hidekのエンジニアと長話」は、メインパーソナリティにはメルペイVPoEのhidekさんこと木村秀夫さんをお招きし、毎回登場する様々なゲストエンジニアとともに作っていくスペシャルトーク番組です。
技術的な内容だけではなく、プロダクト、事業、マネジメント、業界で話題のニュースについて、さらには趣味やライフスタイルなど、木村さんとゲストが「今」興味のあるトピックを幅広く語る番組です。 リスナーから寄せられるレターにもお答えしながら、時には真面目に、時にはゆるくトークします。

第1-2回の今回は、第1-1回に引き続き、LINE株式会社で上級執行役員を務めている池邉智洋さんをお招きして、リモートワークで失われる「信頼貯金」や真の雑談などについて語りました。

※本記事は、2020年10月16日にstand.fmで配信を開始した番組を書き起こしたものです。

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・リモートワークと「信頼貯金」
・効率の中で抜け落ちるもの
・かつてのインターネット業界は蛮族が多かった
・インターネットを使う人のリテラシーが変わった

Profile
<ゲスト>
池邉智洋 氏
LINE株式会社 上級執行役員

<「hidekのエンジニアと長話」メインパーソナリティ>
hidek(木村秀夫)氏
株式会社メルペイ VPoE(Vice President of Engineering)

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リモートワークと「信頼貯金」

hidekさん(以下、敬称略):最近、環境変化で言うと、いわゆるコロナ、フルリモートワークというか、「会社に来るな」みたいな状況ですよね。エンジニアは、もともとリモートでコラボレーションしたりしていて、そんなのは別に影響ないと思ってたし、むしろ「やりやすいなぁ」と思ってたんだけど、結構最近考えることがいろいろあって。「ウェットなコミュニケーションって必要ないな」と思ってたんだけど、意外と「あれ、必要?」と思うケースがあるんですよ。そういうのってあります?

池邉さん(以下、敬称略):そうねぇ。あります。というかうちの状況で言うと、韓国にも開発チームがあったり、福岡や京都にも開発チームがあるので、もともと拠点間でのリモートワークというのはやっていたんですよ。なので、おそらく他社さんに比べると、例えばテレビ会議のシステムだとかチャット文化だとか、そういうのはもともと整備されていました。「オフィス単位で散らばっていたのが家単位に散らばった」という違いはあっても、当初は「そこまで問題にならないよね」と思ってしました。ですが、最中に新卒などを迎え入れたじゃないですか。私は毎年、新卒の最終面接官をやっていますが、リアルでまだ会ったことがないので、会ったことある子も何人かいますけど、全体で言うとほとんど会っていないに等しいです。自分の部署に入った子とかでも。割と新しいことをはじめるとかは、結構理屈じゃなく難しいなというのは思いますね。

hidek:LINE、今、新卒って何人くらい?

池邉:数十人ですね。

hidek:そうなんだ。うち、もう新卒、今年入ってるんですよね。一桁なんですけど。全員インターンやってるんですよ、ビフォアコロナに。なので、そこで「信頼貯金」みたいなものができている。意外ともう仕事も知っていて、オンボーディングもそんなにいらなくてラッキーだったんですよね。「これ、来年も同じパターンになったらどうしよう」というのはすごく悩んでいます。

池邉:はいはいはい。そうですね。今、hidekさんが言った「信頼貯金」というのはまさにそうだと思っていて、すでに貯金が貯まっている組織であったり個人は、多少、距離感があってもやっていけるんですけど、貯金ゼロの人が、どうやって貯金するか。貯金が貯めづらい世の中だと思ってます。

hidek:貯まらないんだよね(笑)。

池邉:そうなんですよね。「通りすがりの会話」みたいなものとか、飲み会とかで「ちょっと相談したらサッと繋いで解決してくれる」とか、そういうことってよくあるじゃないですか。そういうので貯金って地味に、本人も気がつかないうちに貯まっていっていく。それによって、多少連絡が取りづらいというか連絡が非同期になったりとか画面越しになったりしても、信頼してお互い仕事ができると思うんですよ。でも、そうじゃないところからはじまると、なかなか難しいというか。そうすると「いっぱい話す」ということになりがちで、逆に会議が増えがちになる。あとは最近、あまりよくないなぁ、と思っているのは、会議に参加者が無限に増えませんか?

hidek:増える増える。オンラインだから呼びやすいんだろうね。結局、最後まで話さない人とかザラにいるし。

池邉:そうなんです。キャパが無限になっちゃったじゃないですか。

hidek:「会議室」っていうキャパがないから。あと、「最近会議が増えた」って話も、コロナ入ったばかりの時って会議がめっちゃ減ったんですよ。「リモートワーク万歳」みたいに思ってたんだけど、段々みんな「信頼貯金」が切り崩されていくと、やっぱそこで信頼を貯めなきゃいけないから接点を増やしたいんだろうね。あとは、「相談しないと不安な人」とかもいたりして、細切れの会議がめっちゃ増えて、これはどうしたものかなぁ、というのはちょっと悩みですね。あと、障害とかがあったときに、VPoEとかCTOとかがたまたまその場にいてちょっと声をかけにいくとか、「それだけでも全然違う」ということを言われて、たしかにそういうタイミングが全然ないな、と。一応Slackで障害対応とかやっているところに声がけするんだけど、全然違うじゃないですか?

池邉:うん、そうですね。

hidek:その辺の「信頼貯金」が、そもそもゼロの人は大変だし、ある人もやっぱり「どんどん減ってきているなぁ」というのは最近すごく思っていて。これはなんとかしないとだなぁ、というのが悩みですね。あと、メルカリ・メルペイって、いわゆる「チームビルディング」みたいなことを推奨していて、結構、経費精算で落とせるんですよね。で、そういうことが活発に行われていたんだけど、こういうことがあってそういうのも使えなくなって。
この前、ツールで面白かったのが、「Remo(リモ)」って知ってる?

池邉:何それ?

hidek:「Remo(リモ)」っていうツールがあるんだけど、オンラインカンファレンスなのかな、わかんないけど。UIがすごく面白くって。5人くらいの席がいくつかあるんだよ。たぶん設定で「何席」とかできるんだけど。やっぱり大人数、20人や30人、でチームビルディングをやると、大体喋らない人が出ておしまいでしょ。それが、物理的に部屋ができる。あれ結構よくて、おすすめ。

池邉:あれだ、Zoomの「ブレイクアウトルーム」みたいな。分けられるやつですよね。

hidek:かな? 分けられて、UIもちょっと飲み屋っぽくなってるの。座席になってるんだよ。それで、「どこに誰がいるのか」というのが見られて、「じゃあちょっと移動するわ」みたいな。あれ、結構使ってみてよかったですね。

効率の中で抜け落ちるもの

池邉:なるほどね、うん。そうなんだよね。最初はすごく「効率が上がりました」とか言ってたけど。そもそも僕は、「あまり効率がいいのもいかがなものか」と割と根本的には思っていて。「効率じゃない隙間にいろいろなものが落ちているんじゃないかな」という気がここ数年し出していて。昔はやっぱりエンジニアなので、「いかに効率よく物事をやっていくか」みたいな「効率厨」というかなんというか。「そここそが美徳だ」みたいなことを思っていたんですけど、その「非合理的なこと」だとか「一見非効率に見えること」でも、「世の中のこれまで非効率の悪習だったものがなくなってよかった」みたいな言説が多かったじゃないですか、最初って。特にエンジニア界隈みたいなところだと。

hidek:生産性とかね。

池邉:そうですね。でも、本当にそういういらないものもあるんだとは思うんですけど、「太古の昔からあるような事柄って、必要だからあるんだろうなぁ」とか最近は考えるようになってきていて。そういう意味で言うと、やっぱり昔から人は物理的に集まって仕事をしている。だから、それを今さら変えるのは相当な努力が必要でなかなか難しいな、とかいろいろ「逆に」って思うようになりましたね。

hidek:それで言うと、例えが悪いんだけど、タバコ部屋。今だと社内のカフェとか。普段は接しない人たちと話すことによって、ちょっと違う視点の問題だとか課題だとか、あとはソリューションとかが見つかったりとか。そういう「雑談からはじまる何か」みたいな。あとは「偶然の出会い」みたいな。あれって、ある意味、生産性は高くないじゃないですか。だって、「その時間にタスクやりなさいよ」って話かもしれないし。でも、そういうことがあることによって、いろいろな人のつながりができて新しいものが生まれたりだとか。イノベーションフェーズだと、そういう偶然性だとかがあることによっていろいろなものが生まれる気がする。だけどオンラインとかになっちゃうと、どうしてもそこの接点ってプロアクティブに作らないといけないじゃないですか。それが結構、窮屈さというか型どおりというか、そういったものが生まれなくなるんじゃないかな、という変な不安を最近は感じるかなぁ。

池邉:そう。「雑談が減った」みたいな話はみんな思っていて。「じゃあ雑談しましょう」みたいにZoomをつなぐと、「それも違うんだよなぁ」みたいな。

hidek:そう。俺もやってんだよね。とはいえ接点を作りたいから「オンラインランチ」とかやって。1週間に1枠作ったりしてるんだけど、なんか「これじゃないんだよな」みたいな(笑)。あとはね、「オンラインで付けっ放しに1日しておくから入りたい人は入って」とか。そこもすでに敷居あるしさ(笑)。なんか難しいよねぇ。

池邉:敷居があるし、あとZoom、逆に嫌じゃないですか? パーソナルスペースを侵食される感じがして、結構、ドッと疲れる時がたまにあって。特に家からやっていると、雑談とか他愛のない話にしても、会社のカフェとかで会ってザッと話すのと、Zoomつないで自分の家で話すのって、自分の家で話す方がパーソナルスペースをめちゃくちゃ侵食されている気がして、あまり好きじゃないなぁ、とか思いますね。

hidek:そうだよね。それこそ、「飲みニケーションとかアホか」とか思っていた時期もあったけど、必要だよね。とはいえ適応していかなければならないから、いろいろな落とし所を探さなきゃいけないんだけど、難しいですねぇ。

かつてのインターネット業界は蛮族が多かった

hidek:あともうひとつ話したかったのが、コロナを通じてのことなのかもしれないけど、インターネットがより社会インフラ化というか。今もこういうオンラインカンファレンスというかオンラインのツールも、僕らはもともとやってたけど。そうじゃない会社にも普及していって、よりインターネットの社会インフラ化って進んでいると思うんだけど。ずっと見ていて、社会インフラ化したことによって、そこで働く人たちのスタイルってどう変わったかとか感じることあります?

池邉:働く人たち? ちゃんとしたと思いますよ。たぶん、2001年くらいだと、インターネット業界ってもっと粗雑な感じだった気がするんですよ。蛮族みたいな(笑)。今振り返るとですね、当時はそう思ってないけど。

hidek:蛮族ってどういうこと(笑)?

池邉:いやなんかもう、野蛮というか「無茶苦茶だなぁ」とは今振り返ると思いますけどね。もう時効だからあれですけど、労働時間とかもそうですし。

hidek:俺もよく会社で寝泊りしてたもん(笑)。別に寝泊りしなくてもできたんだよねぇ。そこまで納期詰められていたわけでもないし。でもなんか集中すると泊まっちゃうんだよね。

池邉:そうですね。わかります。

hidek:俺、結構覚えてるのが、野蛮な行為で言うと、DeNAにプレイヤーとして入ったのでずっと障害対応しないといけないんだけど、「障害通知きました」と。その時、たぶん新宿かなんかで飲んでたんだよね。結構飲んでて、酔っ払ってて。みんな酔っ払ってて埒が明かないから、「会社に出社して対策練ろう」みたいな。「じゃあ俺も行くわ!」とか言っているやつがいて(笑)。

池邉:(笑)

hidek:で、行ったら当時マネジャーの人に、「お前絶対触んないで」みたいな話になって。ふてくされて、ホワイトボードの下でふて寝して朝を迎える。野蛮以前の問題をやったことがあるね(笑)。

池邉:昔はたしかに、「飲みに行っている途中に呼び出されて戻る」みたいなことはあったね。今はそんなことはほとんどない。ちゃんとした体制が敷かれているから、それはそれで見ないといけない立場の人もいるし、飲みの場から戻らなければならないほどのことになる前に、担当者がいなくてもなんとかなるように、システムとしては属人性はだいぶ減っている。そういう意味では、だいぶ働きやすい職場になったんじゃないかなぁ、とは思いますけどね。

hidek:働き方改革。レベル低いな(笑)。

池邉:それは我々みたいな20年選手がちゃんと自分の気持ちもアップデートしていかないと、「俺の若いころは」みたいな話をしてもしょうがないというか。あとは、基本的に入ってきてくれる人が優秀になったと思いますよ。

hidek:それはそうだよね。我々が学生の時ってさ、それこそコンピュータを習うだけでも限られた場所しかなくて。今の人たちって、それこそ子どものころからインターネットがあって。場合によってはアプリ作れる環境もあって。やっぱり出発点が違うよね。

池邉:うん、そうですね。やっぱりいわゆる「デジタルネイティブ」みたいな感じの人が多いですし、熱意もあって、ちゃんと学校でも学んでいて。「昔だったら他の産業に行っていたのかもなぁ」みたいな若くて優秀で熱意のある人が、入りたいと思って受けてくれる。特に新卒の子とかが増えたというのはすごく感じますけどね。

インターネットを使う人のリテラシーが変わった

hidek:そうですね。「産業としてのステータス」というか、一定認められて、なったのかなというのはありますよね。一方で、インターネットを使っている人も変わったのかなと思って。いわゆる「コモディティ化」というか。最近、誹謗中傷とかで人が死んじゃったりとか。ちょっと前だったら、そういうことってあまり起こらなかったじゃないですか。それこそ2chの住人とか。使っている人が本当に変わったというか、広まったなぁ、という気がしていて。結構LINEなんかはtoC向けでまさにそういうところじゃないですか。そのためにやらなきゃいけない施策だとか、気をつけなきゃいけないところが増えてきているのかなとは思うんだけど。それはセキュリティとかもそうだし、安全みたいなところも気をつけないとだし、結構そういう人たちに向けての作り方もだいぶ変わったなぁ、とか。あとは、持たなきゃいけない責任もすごく重くなったなぁ、というのが最近すごく感じて思うところがあるんですよね。

池邉:うんうんうんうん。

hidek:特にDeNAの時、ソーシャルゲームのプラットフォームをやっていたので、何度かそういう問題にもなった。今はフィンテックだから、逆に人様の財産を扱わなきゃいけないから、ここへの感度はある方なんだけど。結構、その使う人が変わって、作り手の考え方が変わったなぁ、とか思うんだけど。その辺、ライブドアでポータルをやっていたころから比べると、どう?

池邉:まぁ、そうですねぇ。やっぱり昔はリテラシーがある程度ないと使えなかった。産業としてはいいことで。ガラケー時代はガラケーでできることが限られているのと、ガラケーはインターネットにつながっているようでつながっていないに近しかった。携帯のコミュニティの中で揉め事とかももちろんありましたけど、テレビで報道されるみたいなことはあまりなかったと思うんですよ。でも今は誰でも、ある種殺伐とした世界にすぐにたどり着けてしまうのでなかなか怖いなぁ、と。集団心理みたいなものが最近はすごく加速している。たしかに昔からインターネットって口が悪いとは思っていて。昔から「世の中でそんな言葉吐く人いないよね」というくらいキツいことを言う人もいた。それでも「ここはそういうノリだ」っていう空気感が共有された上でやられて、ジャレ合っているみたいなところが多少あったと思うんですよ。だけど今ってたぶんそうじゃなくて、すごく本当に殺伐としてしまったなぁ、と思って。本当に大きな問題だと思っていて、「インターネットの殺伐感」というのは、うん。

hidek:昔はよくも悪くもコンテキストが揃った村社会というか。それがコンテキストを知らないで言う人も使うようになったので、どうしても摩擦が起きちゃう。「殺伐」って言葉が、それは最近すごく感じる。誹謗中傷する人もそうだし、その周りの人たちとか、すごく広がりやすいしそのスピードが速い。コンテキストが合わないままでいろいろな情報が広がりやすいので、すごく気を遣うな。それが当たり前といえば当たり前なんだけど、それこそちゃんとしたのかもしれないけど。その辺はすごく感じるし、もうちょっと僕らの知っていた「良いインターネット(笑)」みたいになるといいなとは思うけどね。

池邉:たぶん、コンテキストを読まないんだと思うんですよね、大多数の人は。というのが事実だというのが最近わかってきた、というだけな気がしている。昔のインターネットって「おっかなびっくり」なところも最初はあった。それだと「いきなり飛び込むのは怖いのでとりあえずこの場がどんな場所か見てみよう」みたいなところがあったと思うんですよね。今ってインターネットの世界とテレビとか他のメディアとかエンターテインメントが混ざってしまっている。そこにポンっと入るので、あまりコンテキストを見るというよりは、本当に思ったままに、本能のままに書いているというか。あとは、すごく炎上しているニュースの記事とかもあるじゃないですか。怒っている人って「絶対読んでないな」みたいな人ばっかりで。あれでわかったのは「世の中の大多数は文字なんか読まないんだなぁ」ということ。

hidek:見出しだけ(笑)?

池邉:で、もともと大多数の人間ってそういう人だったと思うんですけど、その大多数の人間の頭の中がSNSによって公開された結果、世の中の酷さが浮き彫りになっているのかなぁ、と(笑)。

hidek:なんか悲しいことを言い出した(笑)。「もうちょっと性善説でインターネットが動かないかな」という話をしようと思っていたのに(笑)。でも、コンテンツとか僕らみたいなプラットフォーム側としては、「一定のそういう人が使うようになったんだ」というのは気をつけなきゃいけないし、そういうのを良くすることもインターネット技術とかでできると思うので、僕はそういうところにチャレンジしたいかなとは思いますね。

池邉:うんうん。

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第1回~第3回までが、初回ゲスト池邉智洋さんをお招きしてのトークとなっています。今後もさまざまなゲストをお招きして放送を重ねていく予定ですので、ぜひ番組をフォローしてくださいね!


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