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「ユア・フォルマ」感想

 人間の記憶へ接続し、捜査を行う電索官エチカ。しかし、それはただ一人で能力を発揮できるものではない。記憶から引き上げる補助官(それも能力のみあった者)の存在が、必要不可欠なのである。天才といわれる彼女に対し、あてがわれたのは高性能のアンドロイド。前例のない相方ともに、彼女はとある事件の捜査に当たる——。

 本作を読み終えてまず浮かぶのは、「面白い」というごく単純な感想である。ストーリーの作り方に欠点がない。起承転結の型へ綺麗にはまっていて、特に終盤の加速は見事だった。
 SFであると同時に、本作にはミステリとしての側面も強い。「解決編」が、しかし単なる事件的解決にとどまらないのが、やはりこの盛り上がりの所以だろう。外的な事件の解決。主人公の内的な成長。そして、機械が明かすアナログハック——。この三つが一体となり、もつれあって、解決編で爆発するのだ。
 ところで、「解決編」とはその名の通り、全てとはいわないまでも大抵の事柄を解決するものを指す言葉だ。謎(それも特大、主要人物に関する謎)の消えたミステリが、続刊以降どのようにあるのか、期待が高まる。

 ここで、先に述べたアナログハックについて、少し補足しておきたい。これは、長谷敏司のSF小説『「BEATLESS」に登場する、人間が同じ人間の「かたち」に反応して様々な感情を抱くという本能を利用した、ハッキング手段』の名称だ。(https://dic.pixiv.net/a/%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%AD%E3%82%B0%E3%83%8F%E3%83%83%E3%82%AF)長谷敏司は、アンドロイド自身に、最初からこれを語らせることで、作品の主要なテーマとしていた。しかし、本作では、むしろこれに引っかかることを、感情的に描いている。登場するアンドロイドも、「BEATLESS」と比して遥かに人間的に感じられる。「解決編」において、エチカは、補助官の表層的な振る舞いに、騙されていたことを、本人の口から告白された。ここで、アナログハックはテーマというよりも、その一部として、さらには、ミステリ的な展開の一部として利用されていることが読み取れる。
 この相違は、ある意味で面白い効果をもたらした。つまり、アナログハックを主題とした「BEATLESS」よりも、むしろ主題そのものではない本作の方が、この本質を体感できるということである。

 最後に、作品内の構造に言及しておきたい。本作において、やはり目につくのは主人公と補助官の対比である。自らの内面から目を背けるエチカの姿は、どこか機械的な印象を与える、一方で前述したように、アンドロイドの補助官は、酷く人間的である。「機械的な人間」と、「人間的な機械」。しかし、終幕においてこの対比は崩れてしまった。エチカの内面的成長・解決に伴い、それは「人間」と「機械」の単純な関係へ、変わったと言えるだろう。続刊において、二人の役回りがどう変わるのか、あるいは変わらないのか、気になるところだ。
 極めて上質な作品だった。

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