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コロナ時代の旅行記─京都編②

8月21日(金)

1Fの琉球畳の和室におふとんを敷いてもらって寝たのはたぶん1時半とかで、「NOANOA」から戻ってきてからコンビニで買ったジャックダニエルをソーダで割ってざばざば飲んでいたら、いつのまにかポケット瓶は空になっていた。MJはワインを1本空けつつ、終盤そのワインにカシスを突っ込むという野蛮な飲みものをこしらえていて、たかくらは心配そうなめんどくさそうな顔をしながら烏龍茶を飲んでいた。

以前は毎週のようにやっていたご近所酒盛りも久々のことで、だから話題がつきない。ぼくが執筆中の自伝的大河小説(以前椎名誠が自著のことを大げさにこう書いていたのに、習ってみた!)について、高校篇を書き終えたという話から、話題は男子校というディストピアの話。そこから転じて年上男性が10歳以上下の女性に対して、キャリアや所得などの非対称な関係を武器に迫るやり口についてなど、バカバカしくしゃべってめちゃくちゃに笑った。『黄昏流星群』と『パラダイス銀河』は表裏一体なんだ! って話でとても盛り上がったけど、いったいあれはなんだったのだろう。

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午前中にたかくらと電動自転車に乗って、最寄りのコンビニまで行って朝ごはんにサンドイッチとコーヒーを買う。いつもと違う町でどこにでもあるプラスティックな商品に触れることは安心するもので、チェーン店っていうものの価値は、空間を越えて日常に暫時戻ることの出来るところに存在するんだと思う。非日常と日常をつなぐトランジットのような場所。たかくらは昨日ネオさんが今月の『POPEYE』でがんばっていたことを伝えたの覚えていて、インターネット特集を買っていた。

たかくらが寝そべって『POPEYE』のインターネット年表を読んでいる横で、大学の成績評価をする。担当している「情報メディア演習」では前期にグループにわけて行ったインタビューの課題と、企画書の課題があってすでに自分のぶんの評価は終えているのだけど、相方の新見がこの朝までひっぱっていて、最終的な登録はぼくのほうでおこなわなければいけなかった。

それぞれの評価に差がついた課題を改めて見返したり、課題の評価に対して出欠を加味して調整した最終的な成績を、これまためんどうな成績登録用のシステムにログインし(なにしろそのシステムのログインURLは紙資料で送られてきており、さらにログインに必要なパスワードはそれとは別のシールで封をされているハガキに記載されているというまったくなんという大時代的セキュリティ!)成績を入力し終わるまで2時間ばかりかかってしまった。

その間たかくらは、『カニノケンカ』というSteamでリリースされたとき話題になっていた様々なカニ同士がいろんな武器を手にして戦い合うという3D格闘ゲームをSwitchでダウンロードしてプレイしていた。それを横目に成績をつけ終えて、近くの南禅寺に出る。

すでに気温は35度ほどになっていた。昨日の京都は場所によっては41度を計測したという恐ろしい日で、この日もアスファルトに水を垂らしたらすぐにでも揮発していきそうな灼熱。日差しが肌を刺す、というのは比喩でもなんでもないそんな日だった。できるだけ日掛けを歩いて南禅寺を目指すが、襟足あたりからすぐに汗が流れていってそれが背中にシミをつくっていくのが触覚だけで理解できた。

歩いていくと次第に大きな生け垣で囲われたお屋敷街に入り、道の両サイドには小さな水路が走っている。水量が減っているとたかくらは言っていたけど、それでも耳には涼し気なちろちろという音が聞こえた。水が多いときは小さな魚やカニもいるらしく、ぼくらはカニがどこかにいないかと凝視しながら歩いた。

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今度引っ越すなら駅チカじゃなくて、寺社仏閣チカだなと思ったのは南禅寺に入ってすぐだった。広大な土地はたくさんの緑に囲まれている。背後の山は手のつかない自然そのものだが、この敷地の植栽は人間の手の入ったものだ。大自然のロジックと人間の美観というロジックがそれぞれ走っている空間に、古くから残されている建物がそびえている。

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その関係性の中に徒歩でたどり着けるということが、ものを考えたり制作を行うときにどれだけ豊かな影響を与えてくれるか想像するだけでうらやましい気持ちになる。徒歩10分でここに行き着けるなら、ぼくは毎日本を持ってこの門に登るだろう! そんな静かなコーフンに包まれながら、汗だくになりながら写真を撮った。

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