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2022年1月〜3月四半期のゼネコン主要4社決算報

減収増益(げんしゅうぞうえき)
→ 決算で売上高は減ったが利益は増えること

企業の業績は4つの局面で評価されることは、減収減益のところで書いたとおりだ。

企業の業績における4つの局面

減収増益の場面とは異なるのだが、触れておきたい話題がある。

それは、ゼネコンの業績から見る人口流出とオフィス過剰の問題についてで、企業の業績の4つのパターンのうち、増収減益に繋がる場面であることを冒頭に書いておきたい。

2022年1〜3月四半期のゼネコン業界決算報

世界的パンデミックの影響から少しずつ多くの業界の市況が回復傾向にある。

そんな中、ゼネコン業界主要4社の決算が出た。

ゼネコンとは、ゼネラルコントラクターの略称で、元請負者として各種の土木建築工事を一式で発注者から直接請負い、工事全体のとりまとめを行う総合建設業者のことをいう。

オフィスビルやマンションをはじめ、テーマパークや競技場などの大型建築を建てる会社の総称だと思ってもらえるといいだろう。

明確な定義はないが、設計、施工、研究の3つを自社で行っていることが条件で、中でも売り上げ数千億~数兆円もある企業がゼネコンと呼ばれている。

ちなみに、建設会社や工務店との違いは、建築会社や工務店では、設計と施行の2つだけという会社がほとんどだという点である。

また、建築の規模感で比べても、建築会社や工務店は戸建てなどの住宅建築が事業の中心なので圧倒的に規模感が違う点もある。

そんな日本の不動産の礎を築くといっても過言ではないゼネコンだが、上述したとおり、日本には主要4社のゼネコンがある。

4社の2022年1月〜3月四半期の決算は下記のとおり出揃っている。

  • 大成建設:増収率:6.4%(売上高:5,373億円)

  • 鹿島:増収率:15.2%(売上高:5,971億円)

  • 大林組:増収率:11.6%(売上高:5,467億円)

  • 清水建設:増収率:12.6%(売上高:4,796億円)

ゼネコン業界の主要4社では、全社が前年同期比で増収となっている。

しかも、大成建設を除く3社は2ケタ増収である。

通期決算においても4社はともに増収で、ゼネコン業界に追い風が吹いている印象だ。

ところが、各社の利益面に着目すると、必ずしもそうではないことがわかるという。

ゼネコン主要4社の増収減益の実態

2022年1〜3月四半期の決算から、実は4社の通期営業利益はいずれも減益だという状況がわかる。

中でも、減益幅が大きかった大林組は前期比66.7%減、清水建設は同54.9%減と大打撃を受けているのである。

利益の観点では、ゼネコン業界は好調どころか、大惨事といえる状況なのだ。

ゼネコン主要4社になにが起きているのか、具体的には下記のとおりだ。

大成建設

先述したとおり、2022年1~3月期における売上高は5,373億円、前年同期比増収率は6.4%だった。

この3ヶ月は2022年3月期第4四半期に当たり、12ヶ月間の累計売上高は1兆5,432億円(前期比4.3%増)というスコアだ。

第3四半期までの累計売上高は1兆60億円(前年同期比3.2%増)だった。

四半期増収率(前年同期比)は、直前の四半期(2021年10~12月期)はマイナスだったものの、2022年1~3月期はプラスに転じている。

大成建設の決算短信によると、増収の要因は大きく2つある。

1つ目は、政府の需要だ。

防災や減災対策や老朽化したインフラの維持および更新に対する政府の需要が高く、公共投資が底堅さを維持したことによる。

2つ目は、民間企業の需要である。

新型コロナウイルスの影響が収束していくことを見据えた設備投資や都市部の大型再開発事業への意欲が高く、民間建設投資が回復したことによる。

ただし、競争激化を背景に、ゼネコン業界全体で安値受注による価格競争が繰り広げられているのは否めない。

とはいえ、上記の増収理由は大成建設だけでなく、ゼネコン主要4社全てに当てはまることでもある。

そんな中で、通期決算における大成建設の営業利益は前期比26.4%減の961億円、最終利益は同22.8%減の714億円と大苦戦している現状がある。

その理由は、建設業全体を襲っている、資材高だ。

新型コロナウイルス禍の影響による、生産供給制約、国際海上輸送の需給ひっ迫によるコンテナ不足、そしてウクライナ問題といった要因が重なり、現在の建築資材価格は未曽有の高水準に達している。

建設会社の業界団体の日本建設業連合会によると、2021年1月~2022年6月の約1年半で、各資材の値上がり率は下記のとおりだ。

  • 鋼板(中厚板):71%

  • アルミ地金:60%

  • H形鋼:55%

  • ストレートアスファルト:48%

政府や民間企業の需要が高まりつつある一方で、価格競争によって案件単価は安くなり、資材高の影響で原価負担は重くなる。

残り3社の詳細を書く前にネタバレとなってしまうが、ゼネコン主要4社の利益が落ち込んでいる背景には、この悪循環があるというわけだ。

鹿島

こちらも上述したとおり、2022年1~3月期における売上高は5,971億円、前年同期比増収率は15.2%だった。

この3ヶ月は大成建設と同様に2022年3月期第4四半期に当たり、12ヶ月間の累計売上高は2兆797億円(前期比9.0%増)というスコアだ。

第3四半期までの累計売上高は1兆4,826億円(前年同期比6.7%増)だった。

四半期増収率(前年同期比)は、2021年4~6月期(2022年3月期第1四半期)から4四半期連続でプラスとなっている。

鹿島の通期決算で注目すべきは、営業利益が前期比3.1%減の1,234億円、最終利益が同5.4%増の1,039億円となっており、他3社よりも資材高の利益影響が少ないことだ。

最終利益はむしろ増益となっている。

その要因について、早期調達等のコスト上昇対策や生産性向上の取り組み、海外関係会社の開発事業の大幅な増益などが影響していると説明している。

ただし、鹿島は2022年3月期に政策保有株式(16銘柄)などを売却し、前期比2.2倍となる177億円の投資有価証券売却益を確保している点は要注意だ。

この投資有価証券売却益を最終利益から除くと、2022年3月期は862億円となり前期から4.7%のマイナスとなっている。

つまり、決算書の上では最終増益なので増収増益にはなっているが、鹿島も苦戦していることに変わりはないというわけだ。

大林組

こちらも上述したとおりで、2022年1~3月期における売上高は5,467億円、前年同期比増収率は11.6%だった。

この3ヶ月は上記2社と同様に2022年3月期第4四半期に当たり、12ヶ月間の累計売上高は1兆9,229億円(前期比8.8%増)というスコアだ。

第3四半期までの累計売上高は1兆3,761億円(前年同期比7.8%増)だった。

四半期増収率(前年同期比)は、鹿島と同じく2021年4~6月期(2022年3月期第1四半期)から4四半期連続でプラスとなっている。

一方で、大林組の通期決算における営業利益は66.7%減の411億円、最終利益は60.4%減の391億円に沈んだ。

国内における複数件の大規模工事が将来的に不採算になるリスクを考慮し、貸借対照表(BS)に工事損失引当金を計上している。

損益計算書(PL)では、完成工事原価のうち工事損失引当金繰入額が462億円と費用が前期の15倍弱まで膨らんだ。

こうしたコスト高の結果、売上原価が前期比14.8%増の1兆7,685億円に増加した。

この売上原価の2ケタ増が、営業利益および最終利益の大幅減に繋がったというわけだ。

また、大林組も鹿島と同様、前期比1.9倍となる103億円の投資有価証券売却益を計上したものの、巨額の工事損失引当金で空けた穴をカバーするには至らなかった点も注目したい。

清水建設

全て上述したとおり、2022年1~3月期における売上高は4,796億円、前年同期比増収率は12.6%だった。

この3ヶ月は他3社と同様に2022年3月期第4四半期に当たり、12ヶ月間の累計売上高は1兆4,830億円(前期比1.8%増)というスコアだ。

第3四半期までの累計売上高は1兆33億円(前年同期比2.6%減)だった。

四半期増収率(前年同期比)は、直前の四半期(2021年10~12月期)に続いて2四半期連続でプラスとなった。

ところが、清水建設の通期決算における営業利益は前期比54.9%減の451億円、最終利益は同38.1%減の478億円と苦戦する結果となった。

清水建設も資材高の影響に加え、工事損失引当金の計上に伴って売上原価のうち工事損失引当金繰入額が430億円と前期の3倍強に膨らんでいる。

大林組でも見られたこうしたコスト高の結果、売上原価が前期比6.1%増の1兆3,433億円に膨らんだことが営業利益および最終利益を押し下げた。

なお、清水建設の宮本洋一会長は、前述した業界団体である日本建設業連合会の会長も務めている。

宮本会長は2022年4月に、同団体を代表して経団連(日本経済団体連合会)に要望書を提出し、経団連の会員企業全体に原材料の高騰等を反映した適正な工事代金と工期での取引を求めている。

この要求を受け入れて値上げを受け入れる顧客企業が増えれば、安値受注の傾向は是正され、ゼネコン大手の利益率は改善に向かうだろうと予測されている。

まとめ

企業の業績は4つの局面で評価されるというパターンとして、とてもわかりやすい指標がゼネコン主要4社で出てきたので、聞き慣れない言葉も少しは理解していただけただろうか。

  1. 増収増益:売上が増加して利益も増加したパターン

  2. 増収減益:売上は増加したものの利益は減少したパターン

  3. 減収増益:売上は減少したものの利益は増加したパターン

  4. 減収減益:売上が減少して利益も減少したパターン

改めて最後に掲載しておくが、社会人として最低限どういう意味なのか、企業がどういった状態にあるのか、そのあたりはスッと言えるようにしておいた方がいいだろう。


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