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変化の時代に今すぐ取り組むべき人材採用戦略とは?

治乱興亡(ちらんこうぼう)
→ 世の中が治まったり乱れたり、国が興ったり滅びたりすること。

「治乱興亡(ちらんこうぼう)」という言葉がある。

世の中が治まったり乱れたり、国が興ったり滅びたりすることを表した言葉だ。

この言葉が示すように、社会や組織の盛衰は、歴史の常である。

古来より、為政者たちは国を治め、民を守るために知恵を尽くしてきた。

時に戦乱に明け暮れ、時に平和を謳歌した。

そうした歴史の波の中で、「治乱興亡」という概念が生まれたのだ。

現代のビジネス社会においても、「治乱興亡」の法則は色濃く反映されている。

企業は、様々な環境変化の荒波に揉まれながら、勝ち残りをかけて競争を繰り広げている。

その中で、事業の発展と持続的成長を実現するためには、優秀な人材の確保が欠かせない。

とりわけ、少子高齢化の影響により労働力人口が減少の一途を辿る日本において、人材獲得の重要性は日に日に高まっている。

加えて、学生の就職観の変化や政府主導の労働移動促進策など、採用を取り巻く環境変化のスピードも加速しつつある。

こうした時代において、中堅・中小企業が生き残るためには、採用力の強化が喫緊の課題と言える。

「治乱興亡」の荒波を乗り越え、自社の未来を拓くための鍵は、いかに優秀な人材を獲得し、育成・活用していくかにかかっているのだ。

しかし、採用力の強化は容易ではない。

大企業との資金力・ブランド力の差を考えれば、中堅・中小企業は常に不利な立場に置かれている。

それでも、自社の理念や強みを武器に、独自の採用戦略を打ち立てることで、志望者の心を掴むことは可能だ。

本記事では、中堅・中小企業が取り組むべき採用戦略の要諦について解説していく。

「治乱興亡」の時代を勝ち抜くための知恵と戦略を、ぜひ参考にしていただきたい。

採用環境の変化

近年、中堅・中小企業の採用環境は大きな変化に直面している。

少子高齢化に伴う労働人口の減少、求職者と企業間のニーズのミスマッチ、新しい採用手法やツールの登場など、人材確保を取り巻く状況は年々厳しさを増しているのだ。

2020年の生産年齢人口は7,509万人だったが、2030年には6,875万人になると予測されている。

実に10年間で約634万人、割合にして約8%もの減少が見込まれているのだ。

これは従業員30名規模の会社であれば、2人以上の社員が減ることを意味する。

少子高齢化のペースが加速するなか、人材の奪い合いはさらに激化していくことが予想される。

加えて、有効求人倍率のデータを見ると、中堅・中小企業と大企業の間には大きな格差が存在する。

2024年卒の大卒求人倍率は、従業員数300人未満の企業で6.19倍と非常に高い水準にある一方、300人以上5,000人未満では1.14倍、5,000人以上ではわずか0.41倍にとどまっている。

大企業と比べ、中堅・中小企業は人材獲得においてより厳しい競争を強いられていると言えるだろう。

こうした採用環境の変化は、学生の就職活動に対する意識にも表れている。

これまで学生のエントリーは、入社前年の2月頃から急激に増加するのが一般的だったが、2024年卒では前々年の6月頃から緩やかに増加し始め、ピークがなだらかになってきているのだ。

就活生のコストパフォーマンス重視、タイムパフォーマンス重視志向が強まり、「とりあえずエントリー」から「応募したい企業だけにエントリー」にシフトしつつある。

つまり、学生優位の売り手市場化が一層進んでいるのだ。

人材獲得競争の激化と採用難の長期化は、企業経営に深刻な影響をもたらす。

必要な人材が確保できないことで、受注機会の損失や外注費の増大を招き、生産性の低下につながる。

加えて、現場の人手不足による業務負荷の増大は、従業員のストレス増加や離職リスクの高まりを招く恐れもある。

さらに、政府が推進する「労働移動の円滑化」の動きを考えると、優秀な人材の流出リスクにも備えておく必要がある。

完全な売り手市場のなか、よりよい待遇を求めて人材が流動化すれば、せっかく確保した人材を逃してしまうことにもなりかねないのだ。

以上のように、中堅・中小企業の採用を取り巻く環境は厳しさを増すばかりだ。

この難局を乗り越え、限られた人材を確実に獲得していくためには、スピード感を持って変化に対応し、採用力を強化していくことが不可欠と言える。

その具体的な方策について、次のカテゴリから詳しく解説していく。

採用活動における課題と改善の道筋

採用力を高めるためには、まず自社の採用活動における問題点を的確に把握することが重要だ。

中堅・中小企業の採用においては、次の4つの課題が特に多く見受けられる。

1つ目は、そもそも応募者数が少なく、選考の母集団形成ができていないことだ。

2つ目は、自社が求める人材からの応募が集まらないという点。

3つ目は選考の途中で辞退する候補者が多いこと。

そして4つ目が、内定を出しても承諾率が低いということだ。

これらの問題が生じる背景には、様々な要因が考えられる。

例えば、応募者数の不足や求める人材からの応募が少ない原因としては、ターゲット設定の甘さや、競合他社との待遇面の差、自社の魅力や強みが伝えきれていないことなどが挙げられる。

また、選考途中の離脱や内定承諾率の低さは、選考期間の長さや面接回数の多さ、応募者や内定者へのフォロー不足が招いている可能性がある。

マイナビの調査では、内定辞退率が5割以上だった企業が32%、1割から4割だった企業が31.6%にも上っている。

内定辞退への危機感を持ち、その防止策を講じることが急務と言える。

こうした課題を解決するためには、まず自社の採用活動の現状を入念に分析し、課題の所在を明らかにすることが肝要だ。

その上で、原因に応じたきめ細やかな対策を着実に実行していくことが求められる。

例えば、応募数の増加と求める人材からの応募を集めるには、自社が必要とする人材像を明確にし、その人材にとって魅力的な待遇や職場環境を整備することが重要だ。

競合他社の動向も踏まえつつ、給与等の待遇面での競争力を高めるとともに、自社の強みや特長を前面に打ち出した求人情報の発信を心がける必要がある。

選考中の離脱率や内定辞退率を下げるには、応募者の視点に立った選考プロセスの設計が欠かせない。

エントリーから内定、入社までの全体の流れを見直し、応募者の負担を最小限に抑えつつ、自社の魅力を十分にアピールできる選考体験を提供することが求められる。

特に内定者に対しては、入社意欲を高めるきめ細やかなフォローを欠かしてはいけない。

ただし、このような個別の対策を検討する前に、採用活動のPDCAを回す基盤となる「採用戦略」を策定しておくことが肝要だ。

経営トップ自らが先頭に立ち、採用活動を経営課題と位置づけ、全社を挙げて取り組む体制を構築することがなにより重要なのだ。

次のカテゴリでは、中堅・中小企業が押さえるべき採用戦略のポイントについて解説する。

トップの強いコミットメントのもと、採用活動の型を変革し、理念に共感する人材の獲得を目指すための具体策を伝えていく。

採用戦略策定のポイント

採用難の時代を勝ち抜くためには、従来の「母集団形成型」の採用から脱却し、自社の理念や価値観に共感する人材の獲得を目指す「理念共感型」の採用へとシフトしていくことが重要だ。

「母集団形成型」の採用とは、とにかく応募数を増やすことを目的に、大手求人媒体を活用し、できるだけ多くの求職者の目に留まるよう情報発信を行う手法を指す。

しかし、この方法では常に大手企業と競合することになるため、資金力やブランド力で勝る大企業に人材を奪われてしまう恐れが高いのだ。

一方、「理念共感型」の採用は、応募者数の多寡にとらわれるのではなく、自社の社風や価値観をしっかりと理解・共感した上で応募してくれる志望者を見出し、強固な関係を構築していくことを目指す。

そのために、募集から選考、内定、入社後のフォローに至るまで一貫して自社の理念や魅力を丁寧に伝えていく姿勢が求められる。

では、理念共感型採用を実践するためには、採用戦略をどのように策定すればよいのか。

ここでは4つの重要なポイントを挙げておく。

1つ目は、経営陣の強いコミットメントのもと、人事部門だけでなく、現場の視点も交えた採用特別チームを編成することだ。

多様な視点から採用の課題を洗い出し、全社横断で解決策を練ることが肝要である。

2つ目は徹底した自社分析を行い、他社にはない「強み」を言語化することだ。

社員の視点から見た「この会社の良さ」を掘り起こし、3つ程度の強みにまで凝縮することを目指す。

3つ目は採用基準の具体化と求める人物像の可視化だ。

曖昧な表現を排し、自社が欲しい「必須要件」を洗い出すとともに、その要件を完璧に満たした理想の人物像(ペルソナ)を設定する。

そして4つ目が、分析結果を集約した採用コンセプトの策定だ。

自社の強みとペルソナのマッチングを図り、訴求すべきポイントを磨き上げることで、共感を呼ぶメッセージを紡ぎ出すことができるはずだ。

以上の4つのステップを着実に踏むことにより、自社の理念や魅力に惹かれ、長く活躍してくれる人材の獲得に近づくことができる。

次項では、採用戦略策定を経て、実際にターゲット人材との接点を生むための採用手法について解説する。

採用活動を転換した事例

ここまで、中堅・中小企業が取り組むべき採用戦略の要諦について説明してきた。

しかし、具体的にどのように採用活動を変革すればよいのか、実例を交えてイメージを掴むことも大切だ。

そこでここでは、採用活動の改善により成果を上げた3社の事例を紹介しよう。

1社目は、静岡県の運送会社A社の事例だ。

経営再建中の同社は、新たな中核人材の獲得が不可欠だったが、当初の求人では思うような応募が集まらなかった。

そこで、経営再建の着地点を具体化し、自社の強みを整理して将来ビジョンを明確に打ち出したことで、「挑戦できる会社」としての求人が実を結び、求める人材の採用に成功した。

2社目は群馬県の製造業B社だ。品質検査体制の強化に向けて検査要員の採用を急ぐ同社だったが、なかなか人材が集まらなかった。

しかし、検査業務の特性に着目し、子育て中の女性をターゲットとして短時間勤務制度を整備したことで、働きやすい職場として認知度が高まり、必要な人員を安定的に確保できるようになった。

最後は石川県の製造業C社の事例だ。

受注拡大に対応するため工場の早朝稼働を目指した同社は、これまでにない発想で高齢者に的を絞った求人を展開。

新聞折り込みチラシを活用したターゲット絞り込みと、シニア層のニーズを捉えた勤務制度の工夫により、意欲ある人材を数多く採用。増産体制の構築に成功した。

いずれの事例でも共通しているのは、自社の強みや独自性をあぶり出した上で、求める人材像を具体的に定義し、ターゲットに刺さる採用手法を編み出している点だ。

画一的な募集ではなく、自社の個性を活かしたオーダーメイド型の採用戦略を推し進めることが、採用力強化の鍵を握ると言える。

もちろん、これらの企業も一朝一夕に採用の問題を解決できたわけではない。

トライ&エラーを重ね、様々な工夫を凝らしながら活動を継続してきた努力の賜物だと言える。

中堅・中小企業の採用力強化は、正に日々の地道な取り組みの積み重ねにかかっているのだ。

まとめ

中堅・中小企業が直面する採用環境の変化を概観した上で、採用力強化に向けた処方箋を提示してきた。

少子高齢化の加速により労働力人口が減少の一途を辿るなか、学生優位の売り手市場化とニーズのミスマッチ拡大が進行。

加えて、政府主導の労働移動円滑化の動きを考えれば、人材獲得競争はますます熾烈さを増していくことが予想される。

この難局を乗り切るためには、自社の理念や価値観に共感し、長く活躍してくれる人材の獲得を目指す「理念共感型採用」への転換が不可欠だ。

そのための採用戦略策定にあたっては、以下の4点がポイントとなる。

1. 経営トップ主導の採用特別チーム編成で全社的な課題解決を図る

2. 徹底した自社分析を行い、他社にはない「強み」を言語化する

3. 採用基準を具体化し、求める人物像(ペルソナ)を可視化する

4. 自社の強みとペルソナの接点を探り、共感を呼ぶ採用コンセプトを練り上げる

この採用戦略をベースに、自社の個性を活かしたオーダーメイドの採用手法を編み出していくことが、採用力強化の鍵を握る。

本記事でご紹介した3社の事例からも明らかなように、自社ならではの強みや独自性を前面に打ち出し、ターゲットに刺さる採用活動を展開することで、志望者との接点を生み出すことができるのだ。

しかし、ここで重要なのは、たとえ採用が成功しても、それで終わりではないという点だ。

せっかく獲得した人材に長く活躍してもらうためには、入社後の定着フォローにも万全を期す必要がある。

採用部門と現場が一体となって、新入社員の成長と活躍を支援する体制づくりが欠かせない。

加えて、全社的な働き方改革による魅力的な職場環境の整備や、公正な評価制度の確立、成長機会の提供など、人材の定着・活躍を促す取り組みを継続的に進めていくことも重要だ。

優秀な人材の獲得は、それ自体が目的ではない。

あくまでも、事業の発展と企業価値の向上に貢献する「財産」を得るための手段なのだ。

その認識のもと、採用活動と定着施策、さらには事業戦略を三位一体で進めていく、トータルな人材マネジメントの視点がなにより重要だと言える。

激動の時代を乗り切り、中堅・中小企業が持続的な成長を遂げるために、人材の力は欠かせない。

「人」を最大の経営資源ととらえ、その獲得と育成・活用に経営の力点を置く。

その覚悟を持って、採用力強化に取り組んでいくことが、いま経営者に求められているのではないか。

採用力は、一朝一夕には身につかない。

だからこそ、明日からできることを1つずつ実践に移していくことが大切だ。

理念に基づいた採用戦略を練り上げ、全社一丸となって採用活動に邁進する。

地道な努力を一歩一歩積み重ねながら、着実にレベルアップを図っていく。

その先に、「勝ち組企業」としての未来が拓けるはずだ。

中堅・中小企業の採用力強化は、正に経営力の試金石だと言える。

自社の理念と強みを再定義し、時代の変化を力に変える。今こそ、経営者の真価が問われるときなのだ。

「採用」という経営課題の本質を見極め、他社とは一味違う魅力的な会社をアピールしていく。

どんなに求人倍率が高まろうと、自社にしか用意できない「キラリと光る舞台」を用意することができれば、必ず心ある志望者は集まってくるはずだ。

自社ならではの「理念」と「個性」。それを武器に、新時代を切り拓くための「人」を獲得する。

中堅・中小企業の採用力強化は、その第一歩にほかならない。

未来を拓く鍵は、経営者自らの手の中にあるということだ。


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株式会社stakは機能拡張・モジュール型IoTデバイス「stak(すたっく)」の企画開発・販売・運営をしている会社。 そのCEOである植田 振一郎のハッタリと嘘の狭間にある本音を届けます。