常微分方程式の解の存在定理について(4)

 はい、さすがにこの記事で終わりにしますよ。
 前回はこちら。

 で、最後はまあ、解の存在定理を証明する際のtipsみたいなものかな……
 まず、逐次近似法で解の存在を示すときには、積分の大きさで元の関数の動きを制御する必要がある。これは不動点法も同じで、具体的に言うと、

||∫_a^bf(x)dx||≦∫_a^b||f(x)||dx

という不等式評価が必要になってくる。
 カラテオドリじゃないタイプの解の存在定理では、fは連続なんでここの積分はリーマン積分だと考えていい。だからリーマン和についての評価を三角不等式で出して、極限取れば簡単に示せる。
 が、カラテオドリの方はfが連続だと仮定できないので、この方法では証明できない。代わりにイェンセンの不等式っていう、けっこうゴツい確率論の不等式を使わないといけないんだよね……だからめちゃくちゃ大変。これがカラテオドリ型の解の存在定理の難易度を引き上げてる理由だったりする。ちなみに、区分的に連続程度で議論できるならリーマン積分可能だからもうちょっとマシになる。
 次。不動点法で使う不動点定理が縮小写像型であるピカール=リンデレーフの定理だと、関数空間は適当に上限を区切った連続関数の空間でよい。なにしろ不動点定理が完備距離空間の話だからね。しかしペアノ型だと不動点定理はシャウダーなので、「バナッハ空間内のコンパクト凸集合」である必要がある。そのため、関数空間としては、同程度連続性を担保するために「同じリプシッツ定数を持った関数のクラス」みたいなのにする必要がある。幸い、微分方程式の解のリプシッツ定数は上から評価できるので、これはうまく行く。が、不動点写像Pの連続性が、これがまた示しにくいんだよね……
 結論として、予備知識がない人間が勉強するなら、折れ線法がいいんじゃないかな……知識、比較的少なくて済むし。あ、でも折れ線法でも有界収束定理だけは必要だ。あれは覚えろ。
 一般論であと存在以外に話題になるのは、延長可能性とパラメータについての連続性かねー。延長可能性はピカール=リンデレーフ型だとわりと簡単に議論できる。ペアノ型だとツォルンの補題使わないとやべーことになる。パラメータについての連続性は……ペアノ型でこの手の議論あるのかなあ? よくわからん。どちらにせよここでグローンウォールの不等式が必要になるのだが、グローンウォールの不等式って教科書ごとに形が違ってて正直わからん。なんだあれ。
 最後に参考文献。一切予備知識なしから丁寧に学ぶならポントリャーギンの「日本語訳の」本の第4章。Smale and Hirschはよく勧められるがいまいち僕はわからん。不動点法での証明はLuenburgerの本の10章がわりとよかった。Dieudonneの本にも証明はあった気がするがそれだけのために学ぶのはお勧めできない。ペアノの存在定理について知りたいならHartmanの本が比較的丁寧だったかな。カラテオドリ=ピカール=リンデレーフの定理はIoffe and Tikhomirovの0章に証明があった。カラテオドリ=ペアノはCoddington and Levinson以外で見たことはないねー。
 ……うん。僕の三田学会雑誌の論文でよくない? これ。2019年1月の奴で「常微分方程式」という名前が入った論文を探すのだ。そんなんひとつしかないからすぐ出てくる。三田学会雑誌ならしばらくすればweb公開されるからwebで検索できるぞ!
 と、自分の論文の宣伝をしたところでこの話終わり! 閉廷! 君もう帰っていいよ!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?