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読書録~mRNAとCRISPRの可能性 Code Breaker by Walter Isaacson

2020年のノーベル化学賞は、遺伝子工学の進歩に大きな可能性を拓いたCRISPRへの貢献に対して、Jennifer Doudna 、Emannuelle Charpentier の二人の女性が受賞しました。

本作は、Steve Jobsの伝記等の著作で有名なJournalistのIsaacson氏がDoudna氏を中心に、mRNA、CRISPRの研究とそれを取り巻く科学者、またCRISPR技術の進歩が突きつける倫理的な問題についても光をあてた作品でした。

Bill Gates氏の読書録を読み、興味を持ったのですが、

この読書録のタイトルが言うように、遺伝子操作の技術の進歩が突きつける倫理的な問題について、非常に考えさせられる本でした。

遺伝子操作には、その変異がそれ以降の世代に引き継がれ続ける生殖細胞に対するもの(germline editing)、その変異が次の世代に引き継がれることのないそれ以外の細胞に対するものに分けられ、germline editingに対して社会的なコンセンサスは形成されておらず、当然のことながら科学者は非常に慎重な姿勢をとっているそうです。

多くの遺伝子は、複数の側面を持っているそうで、例えば、Sickle Cell Disease。アフリカ人またはアフリカ系アメリカ人の間で多い病気だそうです。この病気に関わる遺伝子の変異は、両親の内、片方からのみ受け取ると発病せず、一方の変異のみをもっている人はマラリアに耐性は強くなるそうです。

マラリアの予防法や治療法が普及してきた今、この変異は無用で、むしろ恐ろしい病気を引き起こす要因といて取り除くべきものとなっているのしょうが、この例が示すように、遺伝子は複数の側面があり、一つをいじることで思わぬ影響が他ででたりすることがあるそうです。

その立場はよくわかる気がするのですが、今まで私が考えてみなかった視点は、遺伝的な操作をすることで病気を予防したり、能力を高めたりできるのに、それをしないことこそが倫理的に問題なのではないか、という立場でした。

このあたりの議論が凄く興味深く、こういったテーマで倫理の授業とかしたらいんだろうなと思いながら読みました。

また、このCRISPRという技術が、基礎研究から応用へと、様々な領域の科学者の貢献の元に発展していく様と、それぞれの科学者のバックストーリーは読み物としてとても面白かったです。

また、Covidのワクチンの開発がなんでこんなに早くできたのかも、本書を読むと、ここに連なる研究の積み重ねがあったからなのだと背景がうかがえます。

本書の著者は、ラボで実際に遺伝子操作をしたり、技術的なことをとても分かりやすく説明していて、いったい何者なのか?と気になってWikiで調べたところ、とても著名なJournalistであることを知りました。実はSeteve Jobsの伝記はちゃんと読んだことがなかったのですが、この著者の作品であれば是非読みたいって感じです。


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