【6日目】ママチャリで四国ひとり旅 渦潮に叫べ!
じゃあな徳島、また来世で
ついに長かった四国ひとり旅も、帰路に着く日となった。俺は徳島のゲストハウスの、小さな狭いベッドからひょっこり起き上がった。チェックアウト時間ギリギリだというのに、他の宿泊者はまだ起きていない様子だ。コンタクトを入れ、お尻の部分にクッションが入ったサイクリング用のパンツを履いた。今日のママチャリサイクリングは長丁場になる。荷物をまとめて抜き足、差し足、忍び足、部屋を出た。
今回のゲストハウスには簡単な朝食がついていた。この一週間はお金がなくて朝ごはんをロクに食べていなかったので助かる。
セルフサービスのホットサンドを作って共用スペースで食べていると、ミルクボーイ駒場によく似たゲストハウススタッフがやってきた。軽く挨拶をすると「今日は徳島観光ですか?」と尋ねられた。ぬかしおる。徳島に観光する場所などない。「香川に行きます。」と答えると何やらスマホで調べ出し、「これ、以前香川に行かれたお客さんがまとめた観光スポットです!」と言って、香川の穴場スポットまでを網羅したスマホのメモを見せてくれた。
「うどんが食べたいなあ。」と俺がつぶやくと駒場は、「あ、そうですか?僕、香川のうどんはあんまり好きじゃないんですよ〜。」と悪びれもなく言い放った。なんだと?徳島の人間は、四国の仲間をネガキャンまでするのか?けしからん。讃岐うどんの粉を煎じて飲みやがれ。
とは言え親切で、悪い人間ではなかった。駒場との会話は適当に切り上げ、共用スペースで記事を書き上げた。重い腰を上げて、ゲストハウスを出る。
徳島駅の駐輪場で、ママチャリを回収。既にお昼の時間を大幅に過ぎていたので、徳島市唯一の二郎系ラーメンを貪り食い、パワーをチャージ。準備と覚悟はできた。いざ、高松へ帰らむ。
渦潮に叫べ!
約80kmの道のりだ。スマホで地図を見る必要はない。ただひたすらに、道路に設置された青い経路案内を見て、だいたいの方向にママチャリを漕ぐだけだ。辛いのは、来た道と同じ景色を見続けなければいけないところ。そして、異常なまでの向かい風に襲われていること。平らな道でも、急な傾斜を登ってるくらいペダルが重い。時には降りてママチャリを押して進むこと、1時間半。高松方面と鳴門方面に分かれる道に出た。ふと思った。
「鳴門の渦潮、見てないな。」
散々と徳島県について文句を垂れて来たが、一番有名な渦潮を見ていないではないか。橋の下でグルグルなってるヤツ。渦潮観覧船の時間を調べて見ると、ちょうど1時間後の16:20の便が最終。ここから観覧船乗り場までは10km。急げばギリギリの時間。悩んでいる暇はない!ハンドルを北に切り、立ち漕ぎで走り出した。観覧船に乗った後、元の道に戻ってくれば往復で20km。今日で100km走ることになる。キリが良くていいじゃないか!
俺は走った。海を沿って走るのは向かい風が余計に強くて心が折れそうになる。鼻水を垂れながら50分ほどペダルを漕ぎまくり、着いた観覧船乗り場。なんとか滑り込みで搭乗チケットを買うことができた。受付で「団体客と一緒になりますので、騒がしくなるかと思いますがいいですか?」と聞かれたが、構うもんか。最終便ぞ。
そのまま汗だくで乗り込んだ渦潮観覧船。高校生の修学旅行団体でガチで騒がしかった。ここまでやかましい事が分かっていたなら、もはや乗らない選択肢すらあった。しかも修学旅行生を見ると、俺が当時付き合っていた彼女と修学旅行中に別れた事件を思い出して、すごく悲しい気持ちになる。特に男子高校生というのは何故ここまでも恥ずかしい生き物なのだろうか。同級生女子に聞こえるように威張り声を上げ、悪ふざけを繰り返す。そういうのが昔から苦手だった。
フェリーの室内を見てみると、群れから離れて大人しくベンチに座ってスマホを眺めているヤツもいる。アレは俺だ。ああいう高校生だった、俺は。
うーんしかし。あんな俺の高校生活も、良かったとは言えないか。スカしすぎる人生もどうだろう。結局、世の中、勝つのは声がデカイ奴だ。いくら頭で面白いことを考えていたって、声に出さなきゃ意味がないと俺は知った。声を出さない奴は面白くない奴とみなされる。面白くないことを叫んでいる奴らに負けるんだ。現に俺は、そういう人間に負けたくないから、今こうやって文章を書いて、叫び方を試行錯誤しているわけである。フェリーの室内でベンチに座ってるお前、お前もいつか自分なりの叫び方を探せばいいんだ。
観覧船は渦潮を目指して進む。隣の高校生は依然としてうるせえ。というか今時の高校生はオシャレやなみんな。俺の左にいるStussyのジャケット着てる彼。多分君のトータルコーディネート金額、俺の銀行口座の残金より高いだろ。悔しい。
そんな事を考えているうちに海の波が荒れ始め、所々に渦が出来ている。凄い迫力だ。写真を撮ろうとスマホを出すが、お、落とさないか心配だ。こ、腰が引けるし手が震える。修学旅行生の集団の中、ジャージの俺はへっぴり腰で手すりに掴まっていた。なんとも情けない。なんとか撮った一枚に小さな渦潮が申し訳程度に写り込んでくれていたので良かった。
船は港に戻り、修学旅行生らとはオサラバ。俺は高松方面・鳴門方面の分かれ道まで帰って来た。時刻は18時。大幅なタイムロスだった。気合いを入れて再出発した。
俺だけの星空
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