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【4日目】ママチャリで四国ひとり旅 諦めの先にある鰹のタタキ

諦めの先にある鰹のタタキ

 高松ー徳島間の移動に、想像以上に体力を持っていかれた。オマケに前日の飲酒で二日酔い。ゲストハウスのシングルルームにて、飲み水を求めて起床した。今回のゲストハウスでも人に出会うことはほとんどなかった。時期が時期だから仕方ないのだろう。

 10時に人のいない、チェックインチェックアウトすらも無人のゲストハウスを出て、向かった先は徳島駅近くのスーパー銭湯。サウナでアルコールを抜いて、休憩スペースで睡眠時間を補完する作戦。ついでに記事も書けるといい。と考えていたのだが、思いの外休憩スペースが広々としており快適だったので、スーパー銭湯に着くや否やお昼寝をキメこんでしまった。14時頃に起きて、ママチャリ移動も、記事を書くことも、読書もできていないことにも嫌気がさした。一旦、サウナでネガティブな気持ちを流すことにした。館内にはあまり人がいないように見えたが、サウナには徳島産のジジイが所狭しと集まっていた。大きな石をひっくり返したらダンゴムシがいっぱい生きていた、みたいな感覚。ここにおったんかい。体感だが、徳島はジジイが多い。炭酸泉に浸かろうと思うと、8人ほどのジジイが占領していた。何分後に見に行っても同じジジイが占領していた。真っ赤に茹だっていた。徳島の人間は排外意識が強いと聞いていたがなるほど、こういうところで実害があるのか。

 風呂もあがり、気だるさが増した。今日は何をする気にもならない。そして今日は一つ、決断をしなければならない。「高知県を諦めるかどうか」だ。2日目の高松・4日目の徳島をダラダラと過ごしていたせいなので完全に自業自得だが、どうしても高知県まで行って帰ってくる時間が残されていない。あと一週間は必要かもしれない。そこで二つの選択肢があった。「高知県に行くことを諦め、徳島観光をネバる」「徳島市にママチャリを置き、高速バスで高知まで行き、明日帰ってくる」の二つ。今回の旅でどうしても食べたかったのは讃岐うどんではなかった、高知県の新鮮な鰹だった。しかし後者の選択をしてしまうのは『ママチャリ旅』のポリシーに反するのでは、という葛藤があり、徳島駅前で座り込み、30分は悩んでいた。すると俺の旅を知ったサークル時代の先輩から連絡があった。

「今どこらへん?高知市内におるねんけど。」

 そうだった。その先輩は仕事で高知県にいるのだ。「まだ徳島です。高知県に行けそうにないです。」と返信すると、「そうか、また宿とかご飯に困ったら連絡しいや。」と返ってきた。また悩んだ。夢のまた夢だった高知の鰹が、少し現実味を帯びてしまった。本旅、今日までイマイチ人との縁を掴み取れなかった。明かりすらない道、人のいないゲストハウス。寂しかった。それを見かねて連絡をくれたのだろう。四国で初めて見つけた縁、鰹のタタキへの希望、逃してたまるものか!俺はプライドを捨てた。高速バス乗り場で30分後に出発する高知市行きのバスのチケットを買った。そして先輩に連絡をした。ここから1日間は、ママチャリ旅でもなんでもない。

「今から高知に行くんで、カツオ食べさせてください!」

 高速バスに乗れば、高知はすぐそこだった。3時間弱のハイウェイドライブ。この時間で一本記事が書けたので、一つ肩の荷が下りた。窓からの景色はずっと山。ここをママチャリで走ろうとしていたのかと思うとゾッとする。同時に、バスからその景色を眺めている自分に情けなさも感じる。全ては鰹のタタキのためなのだ。

高知には美味いもんがいっぱいあるんやで

 20時半、高知駅についた。徳島市よりもかなり栄えている印象を受けた。というか徳島は一体なんだったんだ。徳島ラーメンの店と、俺を惑わす風俗店しかなかった。駅で数分待つと、ママチャリに乗った先輩が現れた。今の俺はママチャリを見るたびに自尊心が痛む。先輩は仕事終わりらしい。「高知の名物が食べられるお店を予約しといたから。」と、飲食店街の方へ歩き始めた。

 俺は軽音サークル時代、ほとんどの先輩と仲良くできなかった。周りの同期たちは先輩に可愛がられ、飲みに連れて行ってもらったり、ドライブに連れて行ってもらったりしていた中、俺は先輩と遊ぶことなどほとんどなかった。これには、俺自身に原因があったと自負している。とにかく俺は素直じゃなければ可愛げもない人間である。オマケに自分の中で音楽に対してのこだわりが一つあり、それにそぐわない先輩達を目の敵にしていたものだから、可愛がられなくて当然なのだ。しかし思えば、高知の先輩はどの後輩にもフラットに面倒見が良かった。もちろん俺に対しても。人間関係、フラットが一番難しいと思う。誰しも人間の好き嫌いはある。好きな人間に優しく、はできて当たり前。人を選ばない優しさを持てるかどうかが、器の大きさだと思う。

 そう考えながら、予約してもらった店の前に着くと、なんか高そうなお店で少し背筋がピンと伸びた。席は座敷の個室、総理大臣が飯食うところじゃないの?と思った。店員さんも着物を着ており、寝間着で着てしまった俺の肩身は狭い。先輩は「いっぱい食べて飲みや。」と言ってくれるが、どのメニューも貧乏学生の俺が普段居酒屋で見ないような値段なのでビビってしまった。先輩のおすすめということで「鰹の塩たたき」「ウツボの唐揚げ」「土佐ジロー(地鶏)の陶板焼き」「土佐巻き」を注文。

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 鰹の塩タタキが来た。俺は鰹のタタキはポン酢で食べるものだと思っていたが、塩が美味いらしい。「にんにくとネギと玉ねぎを乗せて...」と説明してくれる先輩の真似をして、口の中にゆっくりと鰹のタタキを運んで味わう。「う、美味い!!藁や!!藁の味がする!!」と突如、昭和のグルメ漫画ばりのリアクションを取る俺に、個室の外の店員さんがクスクス笑っていた。藁の味がする、これは高知で鰹のタタキを食べたことがある人じゃなければピンとこない褒め言葉なのではないだろうか。しかし、藁じゃないとダメなのだ。香ばしい藁の焦げの薫りが、新鮮な生鰹の旨味を引き立たせている。

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 ウツボの唐揚げも美味かった。名前の響きはゲテモノのようだが、皮のプルプルなコラーゲン、フワッとして淡白な身。今後、水族館でウツボを見かけたらヨダレが出てしまうかもしれない。

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 先輩との会話は意外にも盛り上がった。意外と言うと失礼だが、サークルの先輩と二人きりで飲みに行くということがそもそも初めてだったから、俺には意外だったのだ。「俺、可愛げがないから、こんなの初めなんですよ!」と言うと、「可愛げがないって分かってるだけまだマシやで。」と言われ、俺が先輩たちから好かれていなかった疑いは確実となった。だが、それでもこうしてご飯を共に食べてくれる先輩が高知にいて良かった。その後も漫画やゲームの話をして、22時半頃、退店した。ご馳走様でした。

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 店を出ると「泊まるところは決まってる?」と聞かれた。流石に宿までをお世話になるのはいかがなものかと思ったので、「決まってます!」と小さな嘘というか、見栄を張った。ネットカフェが近くにあったからそこに泊まるつもりでいた。しかし、駅まで歩いている間に「なんてホテル?」と聞かれると嘘をつききれず、ネットカフェに泊まるつもりだと白状した。「どうせ明日休みだから泊まりにおいで。」とまで言ってくれる。申し訳ない気持ちと、ちゃんとした寝床にありつける希望、天秤にかけて、おうちにお邪魔することにした。


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