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#30 ショートショート

題名:【MVO】

とある会場にて、大きな催しが開催されようとしていた。梅雨でジメジメした空気を更に加速させるかの如く、そこの会場からは溢れんばかりの熱気が込み上げられていた。

司会者:「さ〜皆さん!お待たせ致しました!
待ちに待ったこの企画がとうとうベールを脱ぎます!おっと、そこのお客さんズボンまで脱いだらいけません! この場では下半身の起立だけは許容しますが、行為にまで発展してはいけないのがルールです! 皆さん呉々もご注意を。
話が寄り道をした所で、改めて今回の企画を今一度確認しておきましょう。
今回の企画の題目は、『こんなAVが見たかった!俺らが作る最高のおかず🍚でした。
これから3名の方に理想のAVを語っていただきます!
3名の方のAV案を聞き、下半身の角度が基準値0度より何度上昇したかによって判断していただきます!
垂直、いや鈍角になるまで下半身が上昇した際には、『エキサイティング!』と声高々に叫んでください!
観客から出る『エキサイティング!』の声量を我らが判断し、この3名の中からMVO(Most Valuable Okazu)の名誉を1名の方に贈呈したいと思います。
それでは、皆さんの下半身を上昇させる為に立候補した3名の方々を紹介したいと思います! 左から甲野拓海さん。宮田村武丸さん。山元大河さんです! 盛大な拍手をお願いします!!」

会場は割れんばかりの拍手喝采。所々で男性の野太い遠吠えが聞こえる。下半身が徐々に盛り上がりを見せ、放熱し、更に会場全体の熱気が高まりを見せる。

司会者:「発表は先程の順番で行いたいと思います。
それでは、お待たせ致しました!! 長ったらしい前置きはここまでです! 皆さんの理想のAV像がここで見つかるかもしれません! 皆さんにとって最高のおかずが今ここで手に入るかもしれません! それでは、お願いします!!」

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観客席から見て左側にいる人物が立ち上がり、中央に設けられている演説台の方へ向かう。
筋肉質な体に、短い茶髪をジェルワックスで突き上げ、固めている。筋肉質なため血管が皮膚の上で浮き出ている。あの手は何人の女の魔境を探索したんだろう...?そんな事を考えながら観客はみな固唾を飲み、静寂を保つ。
発表が始まる。

甲野拓海:「皆さんこんにちは! 甲野です。
俺はAVなんか興味ありません! とにかく実戦です!
俺がここに来た理由は、AVを撲滅しに来たのです!
AVが存在し続けていることで、男は諦めの精神が生まれている! その諦めの精神こそが実戦の機会を奪っているのです! だからこそ、AVを廃止し、こんな不毛な催しを止めに来....!?」

筋肉で盛り上がっている剛腕を演説台に置きながら熱弁している甲野の両脇を警備員が取り押さえた。
そのまま舞台袖へと連れていかれる。
期待していた下半身の上昇がなされず、観客はみなため息を吐く。

司会者:「いや〜失礼しました...。 初の試みでしてこのようなトラブルは付き物なのです...。 大変申し訳ありませんでした。面接を次回からは取り入れた方が良さそうですね...。
それはさておき、気を取り直して次の方お願いします! 今回は先程の方のような意見はなしにしてくださいね。それではどうぞ!!」

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中央に座る男性が立つ。
演説台に向け、歩を進めている。
先程の混乱で、狼狽しているかと思ったが、全くその影響はなさそうだ。
眼鏡をかけ、顎に髭を蓄えている。すらりと長い指先は、かなりの熟練さを垣間見得えさせた。まるでベーシスト。滑らかで俊敏なあの指先。
あの指で触られるとすぐにイッてしまいそうだ。
観客の女性の1人が禁止されている性の昇華をしそうになりながらも堪えている。
エロい指先でマイクを微調整し、彼は口元をマイクへと近づけた。

宮田村武丸:「宮田村です。よろしく。
私が今回の企画のテーマを聞いた瞬間から閃いたものがあるんだよね。その前に今回の企画のテーマをおさらいしとくと『こんなAVが見たかった!俺らが作る最高のおかず』ってやつだったよね。 この中で私が閃いた部分は『おかず』って部分だ。
いいかい? おかずって言葉で大きく使われている意味はご飯をより多くかきこむための物。つまり、食事の促進剤としての意味で使われている訳だ。
そこに私は注目したって言うわけさ。
つまり、1番人気のご飯のおかずに女優が成り代わればいいんだよ
女体盛りってあるだろ? あんな感じで、1番人気のおかずはハンバーグか唐揚げかな? それを女優の体に置く。或いは、その着ぐるみなんか来てSEXすりゃー最高のAVになるんじゃねえかなって思ったんだ!!
どうだい?理にかなってるだろ?
ご飯のおかずと性のおかず。
絶対合うに決まってるよ!」

会場中の客は口をあんぐりと開けている。
想像豊かな人々の集まりでも、彼の言ったことが頭で再生できずにいる。
下半身の上昇が全く見られない。

司会者:「いや〜奇抜な意見でしたね! 企画物のアレンジといった所でしょうか? しかし、会場の中では「エキサイティング」の声は出なかったようですね...。 非常に奇抜な発想ながら、大衆には受けなかったようです。どうもありがとうございました。
さて、最後になりました。 皆さん下半身の上昇の準備はいいですか? 最後の山元さん! お願いします!!」

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最後に右に座っていた男性が立ち、演説台に向かう。
眼鏡をかけ、非常に知的なオーラが漂っている。
論理に論理を重ね、自分の思考を提示していくタイプの男だろう。
前2人が意味不明な持論を展開しているため、観客はみなこの男に期待していないようにも思える。
開始時よりも下半身は垂れ下がり、基準値よりも更に低く垂れ下がっている。-からのスタートだ。
皮を被り、冬眠の準備をしているものまでいる。
会場の熱気は冷めきり、梅雨のジメジメさだけが会場を覆っている。
そんな中彼の発表が始まった。


山元大河:「先程司会者の方から紹介頂きました、山元です。よろしくお願いします。
僕は、様々なAVをこれまで堪能させて頂きました。
イチャラブ系、SM、パロディー、企画物、海外作品、ロリコン、熟女、大乱行...。
今ここでAVのジャンルを全て列挙すれば、それだけで今回の発表時間が終了してしまいます。
それほど膨大なジャンルのAVは、私たちの性の欲求を様々な角度から解消してくれている訳です。
改めてAV制作会社を始め、出演者の方々、販売・流通を促進して下さっている全ての方々に感謝を申し上げます。
さて、これほどAVに対して愛着と執着を見せている僕ですが、許せないものがあるのです!
AVのジャンルの中でもこのジャンルだけがどうしても許せない!
これ程までに、完璧なAV業界の中で非常に野蛮な物として存在し続けているものがあるのです!
皆さんそれが分かりますか?
そこのあなた。どう思いますか?


観客:「えっ...。 リアリティがないとかですか...?
あんな綺麗な女性と性行為なんか一般男性はできっこないとは思ったことはありますが...。」


山元大河:「なるほど!ここへ来場しているだけの事はある。 非常にセンスがよろしい。
僕も彼が言っていたように“リアリティーのなさ”が主題です。これが今回のキーポイントです!
いいですか? 先程彼は、AV女優のような綺麗な女性と現実では性行為ができないという意味でリアリティーがないという言葉を用いました。 しかし、このリアリティーのなさには、『夢』が含まれています。こんな綺麗な女性と現実で性行為できなくても、AVを見て、綺麗な女性と性行為した気分になれるっと言った夢。叶わない夢を叶えてくれているという意味で非常に素晴らしいと僕は思います。
話を戻しましょう。今回僕が使う“リアリティーのなさ”という言葉は同じ言葉でもベクトルが違います。つまり、『素人』作品に対して使う言葉です!!

会場中が、先程までの冷笑で静寂な空気を徐々に打ち消し始めている。
ザワザワザワザワ。
山元がこれから述べることに対する、期待が徐々に高まる。

山元大河:「いいですか? 現時点のAVの『素人』作品は、そのほとんどが素人じゃありません! この女性どこかで見た事あるな〜と思って調べてみたら売れていないAV女優だったりします! このリアリティーのなさは夢のカケラもありません! いわば詐欺行為でしかない!
私はここにメスを入れたいと思います!
『素人作品を本物の素人作品に!!』
今回はこの事を皆さんに伝えに来ました。
素人作品は、本当の素人さんでなければなりません。
毛の処理が甘く、身体がある程度だらしなく、喘ぎ声を取り繕うことのない素人。
まさに素の女性の性行為を求めるべきなのです。
少々の産毛がある方がリアルではないですか?身体が少しだけだらしなく、脂肪が目立つ方がリアルではないですか? 喘ぎ声が女性らしい甲高い声じゃなくていいでしょう。
素人もののAVを見ている人が求めているものは“リアル”なのです! AV女優にはない“リアル”。 もしかしたら自分がこれからの未来経験するかもしれないというリアルが非常に重要だと思われます。
私があなた達に伝えたいのは、真の素人AVです
リアルを極めることで、そのAVにより入り込みやすいと私は考えています。」

会場からは、感嘆の声が上がる。
今まで見ていた素人AVは素人じゃない...?
この事実を知っていた人でさえ、より自分の実生活に近いAVになることにより、AVによりのめり込みやすくなるという奇抜な発想をしたことがなかった...。
より身近になるAVを想像し、下半身が急激に上昇する。

山元大河:「今の現状に満足していてはいけません。
ここで、ディズニーランドの創設者のWaltDisney氏の名言を紹介しましょう。

“Disneyland will never be completed. It will continue to grow as long as there is imagination left in the world.”

訳:ディズニーランドが完成することはない。世の中に想像力がある限り進化し続けるだろう。

山元大河:「AVも同様です。 私たちが日々想像し、こんなAVがあればいいな。そう考え続ける限りAVは進化します。 現状に満足しないことが非常に重要なのです。その事を胸に刻み、これからのAVの発展を僕と共に見守り続けましょう。
ご清聴ありがとうございました。」

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会場からは、すすり泣きの音が聞こえる。
観客は、今の発表で涙している。 一方で、大半の下半身は鋭角にまで上昇している。
ある一人の男が、「エキサイティング!」と言った。
1人、2人と徐々に拍手が増えていく。涙を袖で拭き、声が上ずりながらも皆が「エキサイティング!」とコールしていく。
山元が演説台から離れた。
エキサイティングコールが徐々に大きくなる。
俺たちがこの会場に来た本当の理由がここにあった。
冷めきった熱が再び加速していく。それに伴い、野太い声が徐々に増えていく。 これまでにない歓声が会場を包み上げた。熱もこれまでにないほど高騰し、梅雨を通り越し、会場内は真夏と化している。
会場中が彼の発表に涙し、感動し、上昇し、昇華している。


司会者:「山元さんありがとうございました。 非常に心に刺さる発表でした。 現状に満足せず、更なる高みへと昇華させる試み。非常に感動しました。 私自身非常に勉強になりました! 改めまして大きな拍手をお送りください!
優勝は、間違いなく山元さんでしょう!
MVOの称号を授けたいと思います。おめでとうございます!
それでは、またお会いしましょう!さようなら〜!」

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笹木は目を覚ました。
今のは...? 夢だったのか...。
非常に珍しい夢を見ていた。
ふと自分の下半身が濡れていることに気がついた。
笹木は夢精していた。


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