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391国保事業の財政

国民皆保険の基盤となるのが国民健康保険。国内の住民はすべて居住自治体の国民健康保険に加入する。本人の意向とはいっさい無関係。法律で「被保険者」とされるのだ。そのうち健康保険など、他の健康保険加入者が国民健康保険から適用除外されることになっている。理論的に加入漏れはない。それで国民皆保険であることになる。
その国民健康保険事業の運営は健全なのだろうか。厚生労働省から2019年度の財政状況が発表されている。それによると〈清算後〉単年度収支は、前年度の黒字215億円から一転して636億円の赤字だったという。保険は経済活動事業。赤字決算は基本的に認められない。収入を増やし、支出を減らす努力が必要だが、当事者にどれほどの切実感があるのか、大いに疑問を持たざるを得ない決算結果である。
国民健康保険事業は、大きく都道府県の単位で行われる。このため全国合計での評価では正確性に欠けることを承知で若干のコメントしよう。
まず支出面。2019年度の保険給付費は8兆7353億円で、前年度の8兆7966億円から613億円減っている。これはコロナの影響で受診が減っていることの反映であり、減少率が0.69%というのは減り方が少なすぎる。受診減少でも健康面での重大影響は見られていない。ということはこれまでの受診には大いなる“過剰”傾向があったということであり、医療費の適正化はまだまだ不十分ということだろう。
そもそも高齢化の進展分の医療費増加を容認する姿勢に問題はないか。高齢化は一般的な健康水準改善の結果であるのだから、医療費総額は逐年減少することを目指すべきであろう。
収入面では、保険料2兆966億円に対し、公費が5兆406億円(国庫支出3兆4566億円、都道府県支出金1兆1195億円、市町村法定繰入4645億円)である。国民健康保険の加入者には低所得者が多いとか、事業主負担がないとかとされるが、公費が保険料収入の2倍以上(2.4倍)はおかしいだろう。
まず保険料の収納率を改善する必要がある。東京都の88.92%などは問題外。保険者の努力がされているのか、だれだって疑問を持つはずだ。島根県の収納率は96.15%。全国平均収納率92.92%を島根県レベルに引き上げるだけで、保険料収入は2兆1694億円へと728億円の増加になる。
保険である以上、保険料納付が給付の前提であるはず。しかるに福祉を理由に、未納付者にも給付が行われている。給付をするからには保険料の完全徴収がセットでなければ、加入者のモラルは維持できない。しかるに保険料収納マニュアルを定めない自治体、口座振替を原則化しない自治体、財産調査を実施しない自治体、差し押さえを実行しない自治体が多数ある。これはどういうことか。そうした自治体には、当面、国庫支出金の交付を留保するとか、半減するなどのペナルティが必要だろう。
そのうえで国庫、都道府県、市町村一般財源からの法定繰入を考えなおすべきだ。保険と名乗るからには、公費繰入は最大でも保険料収入と同額が上限だろう。そうすると公費の総計5兆406億円を2兆円強にまで減額すべきことになる。
先に保険給付費の縮減が必要と論じたが、その規模として3兆円が目標数値ということになる。8兆7353億円の給付費から3兆円を減らすとすると減額率は34%。ほぼ3分の1になる。不要不急の受診抑制などで可能だと思うが、それは難しいとする場合はどうするか。現在は7割給付だが、これを5割給付に戻すなどの方法が検討されることになる。ただしそれは制度の後退だ。本質は加入者の協力を得て、正面から受診率の抑制策を講じることだろう。
物価が上がれば医療費も増大する。だが物価も賃金も上がらない時代においては医療費も増えない。そして国民の健康度向上に連れて、総医療費は下がらなければおかしい。そういう正しい常識を根付かせることが、国民皆保険の財政破綻を防ぐ第一歩である。さらに言えば保険料も、他の先端技術分野の商品価格同様、傾向的に低下させることこそが国民福祉なのである。

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