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苦情 #note墓場

 (ホラー注意)
👻 こわいかな、こわいといいな
👻 ばけばけばー
👻 ひゅろろろー



もしもし、もしもし?婦人服売り場ですか?わたくし、以前、フォーマルウェアを購入したものです。喪服ね。喪服。高校を卒業したばかりの娘のために。そうね、四月頃だったかしら。桜が咲いていたから。そうよ。でね、お電話をおかけしたのはね、泣かないんですよ。泣かないの。返して。近しい人が亡くなったのに、この喪服を着ても涙一つ流さないの。娘のことよ。おかしいわよ。縫製不良なんじゃないの?なにか悪いんじゃないかしら。素材かしら。何かしら。ね。おかしいわよね。泣かないの。みんなおかしいって言うのよ。みーんな、言うのよ。お店に電話しなさい、って。
ねぇ。あなたもそう思わないかしら。販売員の方、川内さん、と言ったかしら?ええ、もういらっしゃらないでしょう。存じておりますわ。購入した際に、毎日夕方五時にはお帰りになるとおっしゃってましたからね。川内さん、品の良い方でいらっしゃったわ。わたくし、とても気に入って購入しましたのよ。品の良い方。とっても良い方。販売員として、素晴らしい方だわ。だけど、違うの。違うの。違うの。返してよ。返しなさい。

 ……んふふ、いやね。ごめんなさいね。急にこんなお電話を差し上げて。要するに私が言いたいのはね、返してほしいの。返していただけるわよね。そうよ、領収書もあるわ。四月十二日。ニ一五番レジで、ええと……十四時三十一分に購入したと書いてあるわ。クレジットカードで払ったわ。ええ、一括払い。いや、違ったわ。ボーナス一括払いだったわ。ごめんなさい。間違えちゃった。……ええ、そちらでもここまで言えば、特定できますわよね?八万二千四百円の喪服よ。ワンピースと、ボレロ、ジャケットの三点セット。九号サイズよ。ワンピースの袖が少し長かったから、二センチばかり直してもらったわ。娘もぴったりになったって、喜んでた。ヨロコンデタノヨ。でも、返してもらえるわよね。泣かないなんて。泣きもしないなんて。あんな。あんな。あのようなことが!!!ほんとに、なんのために買ったんだか。わかってくれるわよね。わかるわよね!!?腹立たしいわ。とても似合っていて、美しかったのよ。美しい娘。かわいい娘。愛しい娘。一緒に紫色の数珠も購入したから、合計九万二百七十円。そう、二連のね。そこの店で一番高かったわ。だけど、数珠はとても良かったの。一生の宝物にするわ。一生。イッショウ。

 ……ね、聞いてらっしゃる?ねえ。……あなたじゃ、お話にならないみたいだわ。責任者、責任者の方、出してくださる?わからない方ね。わたくし、段々腹が立ってきましたわ。上の方よ。上の方をお出しなさい。わかっていただけるはずよ。ねえ。ねえ。ねえ!!!ネェ!!!出しなさいよ!!!上の方!!!誰でもいいわ!!!話のわかる人を出しなさい!カエセ!!!

 かわいい娘だったわ。やさしい子。笑顔がとっても愛くるしくて、苦しくて、わたくし、何でもしてあげたくなるぐらいに。ずっとずっと一緒よ。ずっと一緒。これからも。だけどね、もうおしまいなのよ。返してよ。返してよ。返しなさいよ。返せ。返してくれるまで、かけるからな。かけるからな!!?許さないから。許さない。許さない。許さない。許さない!!!

ガチャッ。

ツー、ツー、ツー、ツー……



「……また、あのおばさんからかかってきたのね。」

「そうみたいですね。」

「やっぱり電話番号変えましょって。怖いですよ。いくらなんでも。何なら、移転しましょ。俺、俺、もう……モウ……コワイ……」

「しつこいおばさんね。まったく。」

「なんすか?なんか、ヤバい電話なんすか?」

「返せ……返せ……って、そればっかり……バッカリ……」

「森田くん、説明してあげて。」

「あ、はい。そうだな、お前はまだ来たばかりだから知らなかったよな。そうなんだ。よく聞いとけよ。この会社が出来る十年以上前、ここにはスーツ屋があったんだよ。わかるだろ、スーツ専門店。ビジネススーツや、礼服なんかが売ってるさ。よく、こういう国道沿いにあるだろ。」

「ああ、よくありますよね。」

「なんでも、噂の域は出ないんだけどな、電話口の女は、娘を溺愛するがあまり、何らかの手を下して、娘に初めて出来た彼氏を殺害したそうだ。彼氏が家に遊びに来た際にな。階段から突き落としたとも、首を絞められたとも、毒をもられたとも噂があるけど、真相はわかんないんだけどな。彼氏の葬儀の翌日に、娘さんがすぐ行方不明になったそうだ。後を追って死んだとも言われているし、どこかで名前を変えて生きているとも言われている。ここ界隈の有名な都市伝説だよ。もう、十五、六年前の話らしいけどな。もちろんすぐに電話口の女の一家に容疑がかかったが、何も証拠が出ないまま……ただ、この会社に不定期に電話が入るんだ。」

「やば!クレイジーやばやばサイコババアじゃないですかー!」

「この会社が建つ前には、ベビー服屋、レンタルビデオ屋もあったんだけどな……そこにも同じおばさんから、電話がかかってきてたらしいぜ。マネージャーが聞いたらしい噂だけどな。」


「やばたん。こわ。俺、ゼッテー出ねえっす!」

「こら。まあ、ここんところ、ずっと中山に出てもらってるんだけどさ……。でな、そのスーツ屋、ほどなくして全焼したんだよ。店の販売員の一人が夜中に火をつけたらしい。罪滅ぼしをしたいって。何でも、娘さんとその彼氏の同級生の母親だったらしくてな……よくわからないんだけどな、その辺はあんまり。マネージャーから聞いた話だからな。」

「……娘さんと彼氏さんと仲が良かった子の母親だったらしく、色々情報を与えちゃったとか、前に聞いたわ。」

「ふうん……。で、中山さん、そのババアは電話で何て言ってるんっすか?」

「最近は、『返せ、返せ、返せ』ってひたすら呟いているだけさ……。後ろから、ギリギリ、なんかをすり潰すような音が聞こえるんですよ。……マネージャー……、今度はマネージャーが出てくださいよ……。俺、もう怖くて…眠れなくて…ネムレナインデス………毎日…モウイヤダ……辞めたい……お願いです……。」

「嫌よ、出ないわ。」








   












(絶対に許さないよ、お母さん。)



怖いかな!?大丈夫かな!?
サトウ・レンさんのこちらのお題、ホラー掌編に挑戦してみました!
怖いといいな。
ありがとうございました。
大丈夫かな、小説なのかな、これ。



野やぎさんのワードチョイスは、ホラーなのにおもしろい…笑える……!だけど、臨場感があって、うわ、自分がもしそうなったら怖いなあって、ゾワっとした……夢に見そう。怖い。ゾッ。また、周りの人のある意味無関心さというか、それがリアルで怖い。



マリナさんのホラーは、ちょっぴり洋風。美麗な表現。異国の奇妙に、ずるずると引き込まれていく。どんどん狂っていく。「美しい」……美しいってなんだ!?怖い。

ホラー小説、面白いな。出来れば、昼間に読もう…家に一人じゃない日に………ね。おやすみなさい。

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