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彼に手作りオムライス #いちまいごはんコンテスト

 社会人になり、一人暮らしを始めた八年前。一人暮らし三週間目の春に、はじめて彼氏が家に遊びに来た。お互い実家暮らしだったから、なんだか照れ臭いしドキドキする。そわそわする。密室で二人きり!はずかしいもんだな!きゃー!
 とは言うものの、入社してしばらくはホテルで缶詰め研修だったからこの家はまだまだ慣れない。昨日やっと冷蔵庫が届いたばかり。ベッドはまだ無くて、テーブルも段ボールで代用。洗濯機も使い慣れないし、お風呂のシャワーの位置も、電気の位置も、全然慣れない。Perfumeの「ワンルーム・ディスコ」の歌詞を体現しているような暮らしぶり。隣の家の人のいびきも筒抜けで、反対の隣の家の人の電話の話し声が聞こえてくる。人の気配がする。なのに、寂しい。早くも涙を流すような心細い日々。
 そんな中、彼氏がやって来た。電車に二時間乗って、来てくれた。うれしい。心強い。無敵。今会ったばかりなのに、もう帰ってしまう次の日のことを考えてしまって、寂しい。泣きそう。考えたくない。よし、今日はもてなそう。料理を作るぞ。いいとこ見せて、安心してもらわなきゃ。

 おもてなし料理に選んだのは、オムライス。今だったら、煮物だってステーキだって豚の角煮だって海鮮丼だって、クラフトコーラだってフラペチーノだって作れる。だけど、当時は自炊レベル1、調理用具準備レベル1の私。オムライスぐらいしか自信を持って作れるものがなかったのだ。もちろん、副菜はない。スープもない。そんなの作る余裕もない。台所に立つ私を新鮮そうに見つめる彼。緊張する私。

あれ?玉ねぎってどれくらい入れるっけ。
肉は、二人分だとどのくらい?
実家の台所と違って、まな板を置くスペースが狭い。
そういえばお皿が足りない。
それに、火力の調節が難しい。
うわあ、焦げる。

出来上がったのは、やたらと玉ねぎが多くて焦げていて、なのににんじんが固いケチャップライスに、ぐちゃぐちゃになった薄焼き破れ卵が乗った「なんかご飯」。
多少いい匂いはしているものの、お世辞にも成功したとは言えなくて、段ボールテーブルに乗せるとさらに貧相に見えた。

 「おいしくなかったら、近くのガストに行こう。」
 「えー、おいしそうだけどな。いただきます。」

 もぐもぐもぐ。
反応が怖くて、食べてる彼を直視できない私。一応味見はして、食べられなくはなかった。だけど、もしおいしくないって言われたらいやだなあ。そもそも、まだ台所に慣れてないのに。今日は外食とかレトルトにしておけばよかったな。どきどきどき。もぐもぐ。

 「おいしいよ。肉がいっぱい入ってて、めっちゃ贅沢やん。手料理はじめて食べたけど上手じゃん!」

 がつがつがつ。皿を持ち上げて、口に直接かきこむ彼。どんどんと口の中に消えていくオムライス。ほんと?おいしい?大丈夫?にんじん、ばりぼり言ってるけど大丈夫?私も恐る恐る、食べる。おいしい、のか?これが?ほんとに?だけど、あんまりにもおいしそうに食べてくれるから、私もおいしいような気がしてきた。……いや、やっぱりおいしくはないぞ。わかんないけど。彼の優しさが心にじんわりしみた。なんて優しい人だろう。これまでの五年間、この人を好きでいてよかったと思った。遠距離恋愛になったらどうなるかと思っていたけど、私はやっぱりこの人が好きなんだ。

 「ごちそうさま」をして、コンビニでアイスを買って、一枚の布団で身を寄せ合って眠った。何度も途中で目が覚めて、隣で眠っている横顔を眺めた。
次の日は当然悲しくて(私は)泣きながらバイバイをしたけれど、仕事終わりにスマホを見たら「オムライスおいしかったよ。ごちそうさま。また遊びに行くね」ってメールが来ていて、嬉しくて寂しくてまた泣いた。だけど頑張った。何度となく涙したけれど、美味しいものを自分で作って、食べてなんとか、何度も乗り越えた。この夜のことが何よりの支えで、私のほんとの「始まり」だった。
  
 このような心許ない一人暮らしと遠距離恋愛を、このあと六年も続けたのだから、本当によく頑張ったよね。えっへん。だけど本当に、彼氏もありがとうだよね。ありがとう。

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 もうすぐ、結婚して丸二年になる。おおよそこの夫は、毎日今でもなんでも機嫌よく食べてくれる。助かる。特に肉がたくさん入っていたら、なんでも大喜びしてくれる。作る気力を失って、レトルトや出来合いのものにしても文句は言わないしそれも「ええやん」と、喜んでくれる。それどころが、生焼けの芋も、焦げた鮭も食べてくれる。塩辛すぎたスープも。「ご飯すすむやん」って。ありがとよ。すまんな。
 だけど、オムライスを作った時は今でも一番喜んでくれる。「あの日、一人暮らしの家で食べたオムライス、嬉しかったなあ」って言ってくれる。覚えていてくれている。とてもとても、とても嬉しい。この嬉しさや喜びを糧に、今日も今日とて肉や野菜を焼くよ。そして、ご飯を作ってくれた人には「ありがとう」と「ごちそうさま」を伝えるんだ。私も。

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食べ物が与えてくれた思い出やエピソードはたくさんあるのだけど、私が作ったものが何かしらのエピソードになっているお話をnoteに書くのは、はじめてかも。
少し(かなり)気恥ずかしい話なのだけど、タダノヒトミさんの企画「#いちまいごはんコンテスト 」にささげます。
この企画がさらに盛り上がり、そしてたくさんのおいしいエピソードに出会えますように。
ヒトミさん、ありがとうございました(*'-'*)

↑こちらのコンテストに参加しています。


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