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フォースプレートによる床反力計測#5 〜リバウンドジャンプとRJ指数〜

フォースプレートを利用することで,様々な身体の能力を計測することができるが,ここからフォースプレートで計測することができる指標や解析方法などについて述べる.

1.身体の弾性特性

図1:トランポリンと跳躍競技におけるインピーダンスマッチング

スポーツにおける身体能力を評するときに「バネ」として例える時がある.バレーボールのような高いジャンプを行うときに「バネのような」と例えることもあれば,陸上競技の走り高跳びでは身体を「硬いバネ」のように床面を蹴ることもある.競技に適したバネにもいろいろなタイプがある.

そこで,実際にスポーツのパフォーマンスを向上させる上で,身体がどのような物理特性を持つことが重要か,まずは物理現象として考える.

たとえば,スーパボールが高く弾むのは,床のような硬い弾性特性を持つためで,環境(床材)の弾性(バネ)特性に合わせて,ボール側の弾性特性もそれに近づけることによって,高反発特性が得られることが知られている.これは共振現象,または機械的インピーダンスマッチングと呼ばれ,環境である床やトランポリンの環境側の弾性特性と同じ大きさの粘弾性特性を,身体側に持たせることで高反発特性が得られることが知られている.

図2:同じバネ特性による共振(機械的インピーダンスマッチング)

そこで,トランポリン競技で共振を活用し高く跳躍するためには,トランポリンや床などの「環境の硬さ(機械インピーダンス)」に応じて,「身体側の硬さ」を同程度に「共振(マッチング)・整合」させることによって,高い跳躍力を獲得することが重要になる.

ただし,トランポリンの力学特性にあわせるような力発揮を身体で行い,「あたかも」トランポリンと同程度の硬さのバネとして振る舞うことで,より高く跳躍しているだけである.「あたかも」と強調したのは,身体をトランポリンの弾性特性にあわせるような全身の制御を行っている結果,見かけ上そのような弾性特性を実現していることを意味し,身体や筋肉がそのような固有の弾性特性を持つわけではないためである.

もちろん,より大きな反力を実現するためには,トレーニングも不可欠である.トランポリンのように環境側が柔らかい弾性でも,トランポリンのたわみ変位が大きくなれば大きな反力を発生し,相当大きな反力が身体に作用するので,より高く跳躍するにはより大きな反力に耐える筋力も不可欠である.実際トランポリン競技中の身体には$${\text{t}}$$(トン)レベルの力が作用し,腰部の怪我も多い.したがって,ここで注意すべきは,効率的に跳躍するには,単純に力の大きさが問題になるではなく,あくまでも環境に合わせた弾性などの力学特性の振る舞い方である.

また,体操競技ならロイター板の板の硬さに合わせて,身体の硬さを調節することで,より高く・遠く跳ぶことができるが,競技によっては,トレーニングによってその特性を高めらることで,より硬い環境に(例えばロイター板のバネ定数を硬く)変更し,競技力を向上させるというプロセスもあるだろう.

一方,陸上競技の短距離走や跳躍競技などでは床が硬いため,トランポリン競技などと比較すると身体をより硬いバネとして振る舞わせ,床面との間に高い反発力を生み出すことで,より高い競技能力を達成していると考えられる.他にもバスケットボールやサッカーなどにおける方向転換などでも「短時間で力やパワーを発揮する能力」が必要とされるが,ここでは特に硬い床面に対してより高い反力を発揮する能力を高反発特性と形容する.

したがって,このような競技におけるトレーニングとは,「床面などの環境に適応して,身体が大きな反力を獲得できるように改善する」プロセスともいえる.

2.リバウンドジャンプとRJ指数

特に硬い地面に対してジャンプしたり,ランニングで床を蹴るためには,短時間で大きな力やパワーを発揮する「高反発特性」が必要となることを前述した.

図3:連続リバウンドジャンプ

この高反発特性は,一般には連続リバウンドジャンプを実施することによって調べることができる.連続リバウンドジャンプとは「できるだけ短い接地時間で高く跳び上がる」動作を連続して行う動作で,ハイパフォーマンスセンター/国立スポーツ科学センター(JISS)で行われている標準的な計測では5回連続してジャンプを繰り返している.

陸上の跳躍競技などの高反発特性を有する選手の連続リバウンドジャンプでは,一般に「跳躍高が高く」,「接地時間が短い」傾向が顕著であるため,この「跳躍高」と「接地時間」の比を計算することで,被験者の下肢や体幹の「短時間で発揮するパワー発揮能力」(高反発特性)を調べている.

この比は,RJ指数(リバウンドジャンプ・インデックス,RJインデックス)と呼ばれ,国内では普及した指標となっている.幸い,国立スポーツ科学センター(JISS)から,エリートアスリートの体力測定の測定項目として公開されているので,一流選手のデータと比較することも可能である(文献1).

以下で,高反発特性の評価方法について説明する.

3.連続リバウンドジャンプの実施方法

ハイパフォーマンスセンター/国立スポーツ科学センター(JISS)の計測方法を引用し,下記にその実施方法を示す(文献2参照).

ウォーミングアップ
 
リバウンドジャンプは下肢に非常に大きな負担がかかるため,十分なウォー ミングアップを行うことが必要である.ウォーミングアップでは,軽いジョギングや自転車エルゴメータを用いたペダリングを行うことなどが推奨され,使用する筋群のストレッチ運動も行うと良い.

実施方法
 
以下に,JISSが行っている具体的な運動方法と注意点をご紹介する

・マットスイッチの上で,5回連続ジャンプを,軽い休憩を挟んで2回計測を行う.
・手を腰に当てた姿勢のままジャンプする(腕振りの影響を除外するため).
・安定したジャンプを行うために,2回目までは努力度が5割~8 割程度で行い,3回目以降に最大努力で実施するとよい.
・接地時間をできるだけ短く,かつ跳躍高を高くすることを意識する.接地の曲げ膝角度を大きくして,跳躍高を高くする飛び方を避ける.
・できる限り離地と同じ姿勢で接地するように心がける.

4.RJ指数の算出方法

繰り返しになるが,硬い床面に対して短時間で高反発するように力やパワーを発揮する「高反発特性」は,一般には連続リバウンドジャンプの計測によって調べられるRJ指数(リバウンドジャンプ・インデックス)で数値化されている.

陸上の跳躍競技などの高反発特性を有する選手の連続リバウンドジャンプでは,一般に「跳躍高が高く」,「接地時間が短い」傾向が顕著である.そこで,この「跳躍高」と「接地時間」の比であるRJ指数を計算することで,被験者の下肢や体幹の「短時間で発揮するパワー発揮能力」(高反発特性)を調べることができ,国内では普及した測定方法と指標となっている.そこで,次にこの評価方法について具体的に説明する.

RJ指数の計測方法
 RJ指数
は跳躍高$${h}$$と接地時間$${T_c}$$の比で,ここで$${P}$$として導入し,

$$
P= \frac{h}{T_c}
$$

で与えられる.ここで跳躍高$${h}$$は,初速度0の質点の自由落下の運動方程式から,

$$
h = \frac{1}{2} g \left(\frac{T_a}{2}\right)^2 = \frac{1}{8} g T_a^2
$$

となる.ここで,$${T_a}$$ は空中期の時間である.ただし,計測する道具としてマットスイッチを用い滞空時間$${T_a}$$を計測し,そこから推定した跳躍高$${h}$$を使用する.結果,RJ 指数$${P}$$は

$$
P= \frac{h}{T_c} = \left(\frac{1}{8} g T_a^2 \right) \frac{1}{T_c} = \frac{1}{8} g \frac{T_a^2}{T_c}
$$

となる.接地時間$${T_c}$$ と滞空時間$${T_a}$$ は直接マットスイッチから計測でき,RJ 指数$${P}$$を,マットスイッチによる計測だけで計算することができる.図子ら(文献3)が述べるように,これは「だれでも,いつでも,どこでも,簡単に」測定ができる優れた方法である.

最初にも述べたが,エリートアスリートの体力測定の結果が公開されているので,ここで少し取り上げる.

最も高いRJ指数$${P}$$を示す競技は,陸上競技の跳躍系で,男子では3.0を超えている.この数値は恐らく一般のアスリートではなかなか出すことのできない数値と思われる.また,多くのエリートアスリートは2.0を超えるが,このほかの競技の一部を抜粋すると,

 トランポリン競技:男子約2.4
 バレーボール競技:男子約2.0,女子約2.0
 バスケットボール競技:男子約2.0,女子約1.6
 自転車競技(トラック):男子約1.7,女子約1.6

となっている(文献1).

RJ指数$${P}$$は,跳躍高と接地時間を計測するだけなのでフォースプレートを用いることなく,簡易的なマットスイッチを用いて計測し,エリートアスリートのデータと比較することもできる.マットスイッチは,フォースプレートと異なり鉛直方向(計測面に対して垂直な方向)のみの力を計測し,かつ離地・接地のオンオフを計測する道具である.

図4:マットスイッチとパフォーマンス計測アプリ

5.RJ指数の物理的意味

簡便に身体を一つの「質量+弾性」システムと見なし,「連続リバウンドジャンプ」を行うことによって弾性特性を推定することを考える.

図子らは『ドロップジャンプでは,踏切中の平均力や平均パワーが同じであっても,技術と体力の両面を反映した跳躍高は異なる場合がある.また一方では,跳躍高が同じであっても,踏切前半のブレーキ動作や緩衝動作,あるいは伸張から短縮への切り換え動作などの優劣によって,踏切時間はかなり異なる場合がある.そこで本研究では跳躍時間から求められる跳躍高と踏切時間を用いて,ドロップジャンプの遂行能力を評価する指標...』という観点からRJ指数を導入した(文献3).

しかし,この指標は恐らく「高反発能力の高い選手は,跳躍高が高く,接地時間が短い」という事実から経験的に導入された指標で,この指標の持つ物理的意味は必ずしも明確ではないので,ここでは質点バネモデルを考え,まずRJ指数の物理的意味を考えていく.

質点・バネモデルの導入
 
全力で連続リバウンドジャンプをしている際に,身体全体が質点と線形な弾性体から構成されていると仮定する(図5参照).ヒトが環境に合わせて適応することで弾性的な振る舞いをするようになることを考えれば,この仮定はそれほど的外れではないと思われる.そこで,図5

図5:線形質点・弾性モデル

のような弾性係数$${k}$$のバネを有する質量$${m}$$の質点を考えると,力学的エネルギー保存則から

$$
mgh = \frac{1}{2}k \Delta z^2 \\ h = \frac{k \Delta z^2}{2mg}
$$

のように跳躍高$${h}$$を得る.ここで,$${g}$$は重力加速度を,$${k}$$は弾性係数を,$${\Delta z}$$は自然長からの長さを示している.

1行目は,最高到達点での位置(ポテンシャル)エネルギーが.最下点でのバネによるポテンシャルエネルギーと釣り合っていることを示している.それを跳躍高$${h}$$の式に書き換えたが,この式から高さ$${h}$$が弾性係数$${k}$$に依存していることがわかる.

一方,接地時間$${T_c}$$は,図の質点・バネモデルが単振動をしていると仮定し,その周期から

$$
T_c = 2\pi \sqrt{\frac{m}{k}}
$$

を得る.これらから,RJ指数$${P}$$を計算すると,

$$
P = \frac{h}{T_c} = \left( \frac{k \Delta z^2}{2mg} \right) \left( \frac{\sqrt{k}}{2\pi \sqrt{m}} \right) = \frac{\Delta z^2 k^{1.5}}{4 \pi g m^{1.5}}\propto \left(\frac{k}{m}\right)^{1.5} \Delta z^2
$$

となる.ここで,RJ指数は最下点でのバネ変位$${\Delta z}$$の2乗にも比例するが,$${m}$$の1.5乗に反比例していることを示している.

RJ指数は高反発特性を示す指標ではあるが,跳躍運動は床材などに応じた環境適応することで高く飛べ,これは極めて物理的な現象である.そこで,共振やマッチングという観点から身体の物理的な特性を捉えるには,運動中の全身の弾性係数を算出することが重要となる.

RJ指数の物理的意味
 この結果より,RJ 指数$${P}$$は弾性係数$${k}$$ の 1.5乗に比例し,質量$${m}$$の 1.5乗にも反比例してしまう.つまり,体重が大きい人ほど,RJ指数が低くなる.このように RJ 指数$${P}$$は,指数としては望ましくない物理的特性を有し,実際,文献4によれは,RJ指数$${P}$$は体重と負の有意な相関があることが示されている.

変位$${\Delta z}$$(屈伸の深さ)の2乗に比例することもあまり嬉しくないが,これは接地時に膝を曲げないように跳躍するという指示から,ある程度変位$${\Delta z}$$のばらつきが抑えられているかもしれない.

また,RJ指数$${P}$$で示される高反発特性は,すべての競技に共通するわけではなく,たとえば自転車競技やスケート競技などではまったく力の発揮様式が異なるので,選手の高反発特性は低い傾向である.したがって,すべての競技で高反発特性が必要というわけではなく,その競技特性に見合った特性が求められる.

RJ指数は跳躍高と接地時間に比によって高反発特性の能力に特化した指標であるが,運動中の身体の弾性係数を特定し,競技の弾性係数と比較することで,各競技へのマッチングが適切に行われているか検証する汎用的な指標も検証している.

RJ指数は物理指標としては望ましくない特性があるが,国内ではすでに普及した計測方法で,エリートアスリートの計測結果と比較できることからも,その物理的意味を踏まえて活用されてはいかがであろうか.

参考文献

1)フィットネスチェックハンドブック―体力測定に基づいたアスリートへの科学的支援―,独立行政法人日本スポーツ振興センター ハイパフォーマンススポーツセンター 国立スポーツ科学センター 監修,松林武生 編集,大修館書店

2)フィットネスチェックマニュアルリバウンドジャンプ(無酸素性パワー)),ハイパフォーマンスセンター(https://www.jpnsport.go.jp/hpsc/Portals/0/resources/jiss/column/fcmanual/08_RJ.pdf)

3)図子,高松,古藤:各種スポーツ選手における下肢の筋力およびパワー発揮に関する特性, 体育学研究, 38-4, pp.265-278, 1993.

4)  有賀他: リバウンドジャンプ能力の競技別特性,東海大学スポーツ医科学, 30, pp.7-16, 2018.


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