掌編小説「甘い男」(お題:ロマンチスト、フェミニスト)

女の子なら、誰しもが「王子様」という架空の存在に憧れる。それは、童話『シンデレラ』の影響だったり、『白雪姫』だったり。まあ、「王子様に」というよりは、「王子様に見初められる自分」とか「お姫様として存在する私」に憧れているのかもしれないけれど。
どちらにせよ、女の子なら、誰しもが「王子様」に憧れる……筈。

「……そう思ってた時期がオレにもありました」
「なんて?」

少年の目の前で紅茶を飲んでいる少女は、訝しげに眉を寄せた。綺麗な顔が台無しだ、と少年は思う。……割といつもか。

「いや、君は王子様に憧れそうにないなと思って」
「あら、心外だわ」
「えっ」
「私だって憧れていた時期はあるし、ロマンチックな手合いのものは、なかなか素敵だと思ってるわよ」
「へ、へえー」

意外だ、と少年は思った。彼女なら、そういったものや人については冷たくあしらっていそうなものだけれど。

「でも、どうして急にそんなことを?」
「え。あ、いや……その……」
「何よ。はっきりしないわね」

少年は、人差し指でぽりぽりと頬をかいた。少々、思っていたことを口に出すのは、気恥しいというか。
少女はますます眉を寄せる。その様子を見て、少年は覚悟を決めた。

「あー……君がそういうの好きなら、まあ、頑張って合わせてみるのも、いいかと思って……」
「……」
「あ!でも、君はそんなに興味がないと思っていたものだから、実際どうするかってのは考えられてないんだけど!」

少年は焦った様子で言った。その頬は赤く上気している。

「……あなたって」

少女は大きく息を吸って、吐き出した。

「結構、女に甘いのね」


2020/02/05
お題「ロマンチスト」「フェミニスト」
※「フェチニスト」と書いてあったのですが、「フェミニスト」のことかなーと思ってお話を書きました。フェチのことだったらごめんなさい。

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