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【詩】夏の雫

冗談みたいに夏を蹴り上げ、入道雲は西瓜みたくパッカリ割れた。
快晴の青空ばかりが僕を見下ろしていて、内心の温度は氷点下を記録する。
そんな僕の身体を削って作るかき氷は暑い夏にぴったりで、この暑い中行列ができ、僕のけずりかすは飛ぶように売れている。
あー、そんなに買われると困っちゃうよお。
嬉しそうにそう言って、僕はシャリシャリと降り落ちた。
そうして静まりかえった炎天下のアスファルトに、ポツポツと夏の雫は降り始め、しまいにはザアザアと、通り雨はぬかるみを叩き、ぬかるみはまた僕を形成する。
どろどろの泥からはゆらゆらの陽炎、ミミズたちはくねくねと踊る。
残念ながらこの夏は実に不作で、お祭りには綿飴もりんご飴もなく、屋台はベビーカステラしか売っていない。とんだディストピアだなあ、おい。と振り返ると、遠くの河川敷で花火が上がった。様々な色彩の彼岸花が上に向かってひゅるひゅると、宙に咲いて、星座となる。星々は居場所を失い、地上へと降り注ぐ。
「綺麗ね。」
君はそう言って僕を振り返った。
「そうだね。」
僕は吃らずにそう言える。
星々の降る街は、点々に喝采をあげ、賑やかな火祭り、お祭り騒ぎ。
人々は踊り、歓声をあげる。
僕らも行こうか。
そう言って君の手を取ると、真っ白な星がひとつ、僕たちの真上に落ちてきた。
まさしくそれは恒星で、太陽で、白すぎる日差し。
僕たちはとっさにサングラスをかけた。
太陽はジリジリと熱く、汗が滲む。
海へ行こう、と君が言った。
きらきら輝く海と、焼けるような砂浜の熱さが僕の頭に浮かんで、
そうして、すべては一斉に溶けた。
すべては一斉に、浮かんで、溶けた。 

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