ジャズにわか、ミリしらで『BLUE GIANT』を観てメチャクチャになる

※この記事は映画『BLUE GIANT』の多少のネタバレを含みます。ドラムの玉田に感情を持っていかれたので、玉田に関するシーンの言及が多いです。
重要な部分には触れませんが、何も知らない状態で観賞したい方は観賞後の閲覧を推奨します。

※タイトルどおり私はジャズにわかです。ジャズファンからしたらこいつ何言ってんだ??? という発言もあるかと思いますが、生暖かい目でご覧ください。

チネチッタの8番スクリーンは、LIVE ZOUNDという独自の音響環境を擁している。そこで観賞した。もうメチャクチャだよ。
2時間のあいだで1時間は泣いてたと思う。生理現象の有無で作品の質を評価するべきではないが、それはそれとしてぽろぽろ涙が落ち続けた。玉田ァ~~~
せっかくなので(?)、個人的な話もしつつ映画の感想を喋りたい。

ジャズにわかの近況とスペック

この自分語り章まあまあ長くてダルいので、感想だけ吸いたい方は次の章をご覧ください。

さいきん、私の中でジャズがアツい。
2023年はジャズのことを考えながら過ごすだろうな、という予感は昨秋からあった。

なるべく手短に説明する(さっそくパチをこく)と、
私の一次創作小説の舞台である架空の国において「マリリン・モンロー主演映画『紳士は金髪がお好き』の象徴的な劇中歌『Diamonds Are a Girl's Best Friend』のカヴァーをヒットさせたガールズジャズバンドがいる」という設定を生やした結果、そのバンドに関するアレコレをこねくり回す孤独で愉快な沼に落ちた。何言ってるか分かんないですよね、私もです。助けて。

たとえば「主人公が何の気なしに聴いてるラジオから彼女たちの曲が流れてくる」とか「登場人物たちの雑談の中で、バンドの存在がちょろっと言及される」ぐらいの名脇役的なポジションになってくれればいいなという気持ちだった。そうは問屋が卸さなかった。

ライブを観に行くタイプのオタクなので、創作バンドなど生やしたら止まらなくなるのは自明のはずだ。大好きになっちゃったので今年はこいつらの本を3冊出したい。助かりたい 私にとっての助かりって何

でもジャズのことなんかなんにもわからねえ~~~なんで毎月こんなにクレカの請求額が高いのかわからないのと同じぐらいわからねえ~~
ってことでさいきんジャズをまじまじと聴きだした。鞄には村上春樹の『ポートレイト・イン・ジャズ』をつっこみ、ディスクガイドがわりに読んでる。わかりやすすぎるジャズにわかだ。

しかし先日、フォロワーと遊んだときに「小町さんの小説(8年前に頒布した)を読み返したら、すでにフランク・シナトラとジョン・コルトレーンの名前が出てきた」と言われた。そういえば書いたな……そういえば書いたな……!??
ジャズのことはなにも分からないが、漫然と身近な音楽という感覚がある。というのも、わたくし

・ちょうど『スウィング・ガールズ』が流行った10代のとき、吹奏楽部で5年間過ごした。吹いたのはトロンボーンとユーフォ。ヘ音記号~

・母がジャズピアノ好きで上原ひろみのファン、父がウッドスピーカーを自作するタイプの音響オタクなので実家でぼんやりしているだけでジャズを受動喫煙していた

・ディズニーシーの年パスを持っていた学生時代、放課後に「ヒマだな~ビッグバンドビートでも観るか~」というノリでアレを気軽に観まくっていた

・20世紀のミュージカル映画が好きなので、ジャズ・スタンダードに馴染みがある。『Cheek to Cheek』『My Favorite Things』『Over The Rainbow』などなど。ダンサーはフレッド・アステア推し。
近頃はいろいろアレ(いろいろアレ)だが、ウディ・アレン監督も好き

・インストバンド≪ザッハトルテ≫が大好き。かなり多国籍な要素があるバンドで、彼らに影響されてジプシースウィングなどに興味がある。ライブでは即興のソロ回しも聴けるので、4ビートでなくともジャズ的な音楽の応酬を生で聴く機会がある

という人間なので、アカデミックな知識も音楽的な知識もないけど、自覚としてジャズから遠くないという中途半端な立ち位置にいる。
でもジャズ喫茶で腕組んで眉間に皺寄せて、コーヒーを飲むようなジャズファンと肩を並べて談笑できる自信はない、みたいな。

その程度の知識でジャズバンドを書こうってのか……??? という自分への怒りと羞恥心があるので、とりあえず名盤を聴きはじめましたという具合である。
この間トランペットを試奏しに行ったら、15年ぶりぐらいに金管楽器に触れたにもかかわらず1オクターブ分は出せたので近々購入したい。追いかけたいビッグバンドもいるし、よーーーし今年はジャズに足突っ込んでくぞ! って思ってたらなんかジャズの映画やってるらしいから観てきた。

ぜんぜん手短じゃないな しょうじきぜんぜん要らん ここまでで2000文字かかってる マジでごめん わたし自分大好きだから

映画の感想


ようやく本題です。繰り返しますが多少のネタバレ(主に序盤)を含みます。
重要な部分には触れませんが、何も知らない状態で観賞したい方は観賞後の閲覧を推奨します。


もう冒頭からどうしたらいいかわからなくなった。いやマスクの下アホづらで観てるだけでどうもせんが
主人公・宮本大が、雪の降りしきる仙台の河原でサックスを練習しているシーンから始まる。ちょっとでもホーン楽器を触ったことがある人なら、いや観客の大多数が思っただろうがそんな環境で吹くな!!! 帰ってあったかいスープでも飲みなさい!!!

楽器って温度や湿度で音が変わるし、雪降るほど低温だとあきらかに鳴りが変わるはずだ。それでなくとも寒さで手指もまともに動かないだろうし、降雪のなかでふつうに息するだけでも体力消耗するのに、リード(マウスピースにつける薄い木の板 これを振動させて音を出す)に血を滲ませながらサックスを吹いている。彼の異常なまでの情熱と努力を、開映からものの数分で我々に叩きつけてくる。構成が上手すぎる。

そして「世界一のジャズプレイヤー」への第一歩として、東京行きのバスに乗り込む。イヤホンを耳に差し、流れ出すジョン・コルトレーンの『Impressions』。
バチクソカッコイイ~~~!!!

チネチッタのLIVE ZOUND、気になってはいたものの、クソデカ音響があまり好みではないのでなんとなく敬遠していた。が、無闇にデカいわけではない。歯切れのいいピアノやドラムに乗る、まろやかでありつつエネルギーのあるサックスの音が気持ちいい。クリアで臨場感たっぷりの音に調整されている。お近くの方はぜひこちらで観てほしい。

大は同い年のピアニスト・雪祈に出会い、彼の演奏に魅力を感じて自分と組むように持ち掛ける。あとはドラマ―が要るよね。尊大で自分の技巧を鼻にかけた雪祈は「俺と同じぐらいうまいドラマー」を求めるが、大は友人でズブズブのド素人・玉田を連れてくる。
私は玉田のことがマジで大好きになり、彼が泣くシーン全部一緒に泣いてた。ジャズのことはわからないけどカッコイイことだけは伝わってくる、という状態の観客が感情移入しやすいキャラなんじゃないかな。

玉田はアート・ブレイキー(有名なジャズドラマー)の名前も知らないぐらいジャズがわからんのだが、大のサックスの演奏に付き合い、空き缶を叩いてリズムを取ったのをきっかけにドラムに興味を持つ。もうこのスタートの素朴さと純粋な「やってみたい」の気持ちが愛おしくてすでに泣けてくる。

このあと玉田はドラムをやり始め、3人は閑散としたジャズバーで初ライブを行う。ここで初心者の玉田がめちゃくちゃ悔しい経験をするのだが、演奏中の焦りや楽譜を追う視線の描写の切迫感が上手すぎて観てるこっちもマジでしんどい。

悔しくてたまらないという状況に感情移入して、涙がでてきたのは初めてだったと思う。別の話になるので詳細は省くが、私は吹奏楽部で泣きながら大太鼓を叩いたことがある。字面がなんかアホっぽいが、当時は本当につらかった。パーカッションは演奏の基盤なので、背負う責任感がデカい。

部活でちょろっと叩いただけの私が思い返してもつらい気持ちがよみがえってくるのに、玉田は本気でテッペン目指してるやつらとやってるのだ。彼が抱えているであろう膨大な感情を想像し、あまりにも計り知れなくてぜんぜんわからなくてメチャクチャになって玉田と一緒に泣くことしかできなかった。しつこいようだが、このあとドラマーとして成長していく彼を見守り、ことあるごとに落涙した。

ところで、チラチラと「CGの見栄えが気になる」という感想を見かける。ライブシーンに時折3DCGが用いられるのだが、はっきり言って私も気になった。画面からの浮き感というかなんというか違和感があるのだが、そんなことはJAZZに浸ってりゃ忘れるぜ~~~!!!

さておきBlue Note Tokyoにそっくりなジャズ界の東京ドームSo Blueや、COTTON CLUBに瓜二つの姉妹店COTTONS(逆になんで実名にしなかったんですか? なんらかの権利の問題だとは思うが)はもちろん、うらぶれたジャズバーやローカルなジャズフェスの空気感も生々しくてライブの緊張感や高揚感が味わえる。
なんらかのライブを観たことがある方ならわかるだろう「うわーーーーーーー!!!」と思う瞬間が劇中のライブシーンにもある。

ホーン楽器って、光の照り返しが美しいんですよね(ろくろポーズ)。物理的な反射の美しさと、リスナーが幻視する心象としての光がリンクする瞬間なんか、アニメーションでしか表現できないので渋くてカッコイイ。個人的な「うわーーーーーーー!!!」描写としては、プレイ中に雪祈の椅子が傾ぐところと、あの、えっと、あの……玉田のソロ……玉田大好き……

大が「ジャズは感情の音楽」って言うんだけど、この映画自体がそれをまざまざと見せつけてくる。プレイヤーの感情はもちろん、モブとして扱われてしまいそうなリスナーの感情も、少ないながら的確な描写で刻まれるのでジャズを信じる人間を描こうという凄みがほんとうにすごい(バカの語彙力)。

われわれ映画の観客も、ジャズライブを目の当たりにしながらその渦中に自らの感情を放り込まざるを得ない。もうね、ほんとうにメチャクチャになりますよ玉田ァ~~~~~
なに言ったらいいか分からなくなってきた こんなにいっぱい感情があるのに…… 分からないなら無理して言わない方がよくない? そうだね

あとね、あの……やっぱりまだ言うんですか はい
本当に良い映画なのは間違いないのと同時に、ジャズというものを描こうとすると、ストーリーの構造としてこういう形にならざるを得ないんだよなという一抹の切なさもある。私にこれを言語化する能力が足りてるか分からないのですが。
思いつく「ジャズを題材にした作品」の例を挙げると間接的なネタバレになる気がするので、うっすら勘づいた方だけああ……となってください(?)

個人の主観だけど、ジャズって激しくてかっこいいと同時に、刹那的で不健康な精神性も抱えてると思う。命を燃やし尽くして高みに昇りつめたい/それを見届けたいっていう破滅的な欲望じゃん。

痛みを伴ってまでやるんじゃないよ! という気持ちと同時に、ぜんぶを懸けててカッコイイ……という気持ちも発生するがゆえに、こういった作品には強烈なカタルシスがある。生身の人間に対しては抱きたくないじゃないですか。言い方悪いかもしれないけど、そういう破滅的な欲望(強烈なカタルシス)の受け皿やジャズへの祈りのかたちとして、この作品の存在はクソデカいと思う。
激情の塊なんだよな本当に……すごいよ……

観てる間じゅう、玉田へのクソデカ感情以外にも、よくわからないけど断片的な涙がぽろぽろこぼれた。微妙に閉めが足りない水道ぐらいの感じで出続けるので、総量的にめちゃくちゃ泣いたような気分になる。頭痛くなった。
映画でこんなんなってるんだから原作読んだらぐちゃぐちゃになるよね ワハハ

ジャズがわからねえので手あたり次第聴く! この映画も観てみた! という体たらくですが、たぶんなんですけどジャズって理解はできなくないですか??? とにかくなんか強くてやばいものがそこに横たわってるのを呆然と眺めるしかなくないですか??????

どうなんでしょう いやわかんないですけど 堂々巡りですね
自分の生やしたジャズバンドはどう転がってくのかわかりませんが、まあ個人の趣味なので楽しく書いていきたいと思います。

感想は新鮮なうちに書いた方がいいから書いたけど、やっぱり整形できませんね。
ああ~~~玉田ァ~~~

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