小匙の書室159 ─永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした─
その魔女と『道連れ』に、ヒースは死に戻る。すべては、愛する者の死を防ぐために。しかし魔の手は幾度も二人を嘲笑うかのように訪れて──。
〜はじまりに〜
南海遊 著
永劫館超連続殺人事件 魔女はXと死ぬことにした
SNSを巡回していたとき、私の目に飛び込んできた翠色の双眸。それはガラス玉を嵌めたように虚ろで、しかし何か強い意志を内に宿しているような──一度視線が交差すると離せなくなる力を感じました。
こちらを描いたのは『十角館の殺人』『Another』(綾辻行人 著)や『medium 霊媒探偵城塚翡翠』などのコミカライズを担当した清原紘さん。私の大好きなイラストレーターさんです。
そんでもって帯に『『館』×『密室』×『タイムリープ』の三重奏本格ミステリ』書かれていたら、読み過ごすわけにはいかない。
なかなか不穏なワードが飛び交うタイトル。
そしててんこ盛りのミステリ要素。
期待を胸にページを捲っていきました。
〜感想のまとめ〜
◯密室で起きる殺人、タイムループのたびに変わる顛末、『道連れ』の魔女と遡る24時間。特殊設定の醍醐味をこれでもかと詰め込んだ、素晴らしい本格ミステリでした。
タイムループものといえば頭の中に名作がいくつか浮かびますが、本作はそこにあるハードルの高さを見事に飛び越えていたと思います。
フーダニットに驚き、ハウダニットに唸りました。
『道連れ』の発想を余すことなく使い切る手腕には脱帽です。
◯最愛の者の死を防ぎたいヒースと、病で命を落とした館当主の遺言を読みたい魔女。物語はその二つの目的の為に動いていくのですが、そうは簡単に進まない。ループを繰り返すたびに二人を取り巻く空気に胡散臭さが漂い、含みのある表現なんかが気になって私はページを捲る手を止められませんでした。
一つの事件が実は複雑な思慕によって構成されていたり、全く異なる事件が首をもたげたりする展開が好きな私にはどんぴしゃりな内容でした。
事件関係者の“探偵”がいい味を出しています。
◯特殊設定は、一歩間違えれば物語を破綻させかねないと私は思っています。つまり、設定の斬新さが先行してしまって犯罪が露骨に荒唐無稽となったり、犯人の意志に共感し難くなったりする恐れを孕むということです(だから常に上質な特殊設定ミステリを上梓する作家さんを私は尊敬しています)。
本作はそうした私の不安を綺麗に拭い去ってくれました。
登場人物の機微が丁寧に綴られているので「そうだよな、それは犯罪を起こすのも無理からぬことだよな」と得心がいったのです。特殊設定でありながら、読者の心の側で存在を放つミステリでした。
◯謎解きの過程で思いもかけない展開が発生するのも、本作の特徴の一つでしょう。ライトノベル的なアクションや、『道連れ』の設定が織り成す魔女とヒースの関係性が、ミステリという囲いを鮮やかに飛び越えていました。もちろんそこも荒唐無稽ではなく自然な流れで描かれているのです。
南海先生が創作のルールとして掲げている「優れた小説を書く」が、遺憾無く発揮されている証でしょう。
だから最後まで地に足着いた展開の連続で、私は安心して身を委ねることができました。
〜おわりに〜
これは素晴らしい作家と出逢えたのかもしれない。
そんな嬉しい余韻をも引き連れてくれた『永劫館超連続殺人事件』。本格ミステリとしては勿論のこと、人間ドラマとしての側面も非常に楽しませてくれる傑作でした。
是非とも秋のミステリランキングに食い込んでほしい。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?