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小匙の書室134 ─ずうのめ人形─

 その原稿に触れてはならない。
 ずうのめ人形に、呪い殺されてしまうから──。


 〜はじまりに〜

 澤村伊智 著
 ずうのめ人形

 『ぼぎわんが、来る』に続く〈比嘉姉妹シリーズ〉の第2作目。
 3/22に新作『すみせごの贄』が発売され、「いよいよ読んでいかないとシリーズに追いつけなくなる」と焦り、手に取りました。
 ※ちなみに頭の片隅には『ぼぎわん〜』を読んだときの感覚が未だにこびり付いています。それだけインパクトのあるホラーだったわけです。
 今回は呪いの人形ということで、前作以上に和製ホラー味を感じながらページを捲っていきました。

ぺらり

 〜感想〜

 しっとりと、それでいて確かな絶望が足元を濡らすような。そんな印象を抱いていました。和製ホラーならではの感触と言えるでしょう。
 以下、本作の感想です。

◯高いリーダビリティそして巧みな描写
 およそデビュー2作目とは考えにくい、高いリーダビリティを持つ文章。読みやすさは時にそこで動く人物や風景なんかを単調にしてしまうのですが、そんなことは全くなかったです。
 呪いに翻弄される人間には呪いに触れるまでの過程があり、それらが段階的に紡がれているからこそ、私も彼らに心情をトレースして怖さを同時体験することができたのです。

◯作中作と、現実交互に展開するパート
 『ずうのめ人形』という都市伝説にまつわる展開を含んだ作中作、そしてその呪いが影響を及ばす現実パート。
 この二つを交互に行き来しながら、触れてしまった呪いを解こうと試みるのが本作の大まかな流れです、
 何が凄いって、どちらにもベクトルの違う「怖さ」があるのです。
 作中作ではホラー好きな里穂の孤独があり、周囲の人間の無理解だったり勘違いだったりから生まれる気味の悪さは『ぼぎわん〜』を思い出すほどでした。これは精神にダイレクトに届く怖さです。
 一方の現実では、怪異との遭遇による凄惨な死が胃袋を刺激してきました。顔を赤い糸でぐるぐる巻きにした『ずうのめ人形』さながらの様相は、「自分に降り掛かったら嫌だ」と本能的な恐怖を呼び覚まします。
 でもね、怖いけど続きが気になって手を止められないんですよ……。

その恐怖を描くためのテーマ
 得体の知れない怪物が現れて、街や人を襲っていく。元々存在している呪いが伝播を続けていく。
 ホラーが作られる理由には「ただ怖がらせたいから」というのもあれば、そこに何かしらのテーマやメッセージが込められている場合があります。
 それを鑑みると本作は、緻密なストーリーがあるお化け屋敷と例えることができるでしょうか?
 だから読後には、「あぁ、怖かっただけでは終わらない深い余韻があったのです。
 特に藤間の抱えたものには一部私と重なる部分があって、本を閉じたときに複雑なため息がこぼれました。ホラーとして描かれるから、普段とは異なる感慨にもなるのでしょう。
 里穂、藤間、比嘉だけでなく、他の登場人物たちに共通する憂いは──。

『ずうのめ人形』の呪いは解けるのか
 少しずつ忍び寄る呪い。
 試しても効かないおまじない。
 出所不明の原稿。
 呪いを解くための方法がこれでもかと限られていて、それが直接的な恐怖に結び付いていました
 いや〜まさかそうくるとは……。ホラーを念頭に置いて彼らの奮闘を読んでいただけに、その真実には驚きが満ちていました。

本作の後で読みたくなる作品がある
 『ずうのめ人形』は、“呪いの伝播”を一つの柱とした作品です。
 日本でとても有名な、呪いの作品といえば……そう、『リング』(鈴木光司 著)。
 作品にはサダコと呼ばれる少女がいたり、実際にリングについて何度か言及されていたりするので、「いったいどんな内容なのだろう……」と貞子と井戸しか印象にない私は読書欲を掻き立てられました。
 書店に行ったときにでも探してみましょうかね……。


 〜おわりに〜

 〈比嘉姉妹シリーズ〉はまだ始まったばかり。
 最新作である『すみせごの贄』まで早く辿り着きたいものです。
 でも、このリーダビリティがあるならば、本腰を入れたらあっという間に完遂できるでしょう。しかし手元に書籍がないんじゃあ無理な話なので、今度書店に行ったときに短編集も揃えたいです──。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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