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小匙の書室168 ─ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹─

 生き死に、運命と縁。アルバイト先の殺戮。
 様々な二面性が、僕を叩きのめす──。


 〜はじまりに〜

 西尾維新 著
 ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹

 戯言シリーズ第5弾。
 「キドナプキディング 青色サヴァンと戯言遣いの娘」の発売を機にようやくシリーズを読み始め、なんだかんだ巻数としては6冊目を迎えました。
 西尾維新先生といえば常同ではない文章が特徴で、デビュー作のクビキリサイクルなんてもうミステリとしてはもちろんのこと、軽快な展開運びが本当に面白いのです。
 巻数を追うごとにミステリそのものの要素は薄めだと言われていますが、そのぶん魅力的で魅惑的で破壊的なキャラが浮き彫りになっていくので、物語としての良さが損なわれていることはない。と思うのです。
 さて今回。サブタイトルにもある匂宮兄妹がどんな波乱をうむのか、楽しみにしながらページを捲っていきました。


 〜感想のまとめ〜

運命と縁について考えたことがある。これまでに作り上げてきた縁。それは人だけに限らず、それこそ読書という趣味ですら、きっかけがあって芽生えている。少しでもズレていたら今の私はなかった、そんな運命。無意味なことなど、極小のそれを除けば存在し得ない。
 有意味ならば、それは自分を主人公と呼んで差し支えないのではないか?
 そうして誰しもが歩んでいる自分という物語は、総じて運命の導きによって紡がれている……のかもしれない。
 縁が合ったら、また。という台詞が決まっている。

◯運命を切り拓こうとする木賀峰助教授。死なない朽葉。運命に流されるを良しとする狐面の男。殺し屋、二人で一つ・一つで二人の匂宮兄妹。今回もまあ奇天烈強烈なキャラが目白押し。そんでもって西尾維新先生の文体も相まって、とことん喰えない
 本作のもう一つのテーマが、生き死にでした。
 とはいえ重きを置いているのは『死』に関してであり、死ぬとは何か、死んでいるとは、死なないとは、裏を返して生きているとは……を哲学的に盛り込んでいます。少し難しいけれど、ハマれば途轍もなく面白いのだとわかります。
 “僕”自身が死んでいるように生きているわけですから、物語の流れに組み込まれるのも宜なるかな。

◯ミステリとしての味わい。しかしトリックや動機云々よりも、そこにある衝撃が私を襲いました。いくら前巻から時間が空いていたとしても、驚くもんは驚くもんです。
 ただ、それもまた必然的な運命だと言われればそれまでなのかしら。
 “僕”は空っぽな自分を思い知り、過去の悪寒が身を蝕み、玖渚に溺れたいと望み
 堕ちるところまで堕ちる。
 希望には絶望を。絶望には、責のある希望を。
 ただ辛いだけではなく、一抹の救いが私の心に沁みました。
 そうだよな、いーたんはただ虚なだけじゃないんだよな。

最終三部作に向けた、布石の一冊。ここまで紡がれてきた縁が、物語の外に出る観測者が、関係者の過去が、どんなふうに転がっていくのか期待が膨らむ。
 ……けれど、多分、手に取るのはもう少し先になりそう。
 なんといっても三部作が分厚いこと分厚いこと。でも、この余韻をすっかり忘れてしまう前には読み始めたいですね。
 まったく、喰えない物語だ


 〜おわりに〜

 と、まあここまで感想をつらつら書いてきたけれど、この一冊の魅力というか面白さというのかを十全に表し切れているのかと言われれば首を傾げざるをえない。
 なんていうのか、難しいんですよね。言葉より感覚で受け止める作品なのかな。

 ちなみに760頁強だけど意外にも軽く読めてしまったのは、西尾維新先生の文章力が故でしょう。
 最後までリズムが変わらないのはすごい。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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