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小匙の書室342 ─手紙─

 強盗殺人で服役中の兄から届く、手紙。
 弟・直貴は、加害者家族として茨の道を歩む中で、贖罪の意味や本当の幸せを追い求める。
 あなたなら、直貴にどう接するだろうか──。


 〜はじまりに〜

 東野圭吾 著
 手紙

 東野圭吾先生の作品に絞って読み始めてから数日。
 おかげで様々な『名作』と出会うことができている。
 どれもこれもミステリとしての面白さはもちろんのこと紡がれている人間の機微に舌を巻くものばかりであり、頁数の多寡に関わらず、一冊読み終える頃には大きな満足感を得られることができている。

 例えば『悪意』や『白鳥とコウモリ』、『祈りの幕が下りる時』など罪を犯さねばならなかった『動機もさることながら、扱う社会問題に働く登場人物たちのドラマも素晴らしいのだ。
 そちらの例を挙げるなら、『さまよう刃』や『人魚の眠る家』などだろうか。
 私はこれから読もうとしている『手紙』は、もしかすると後者ではないかと考えている。

 強盗殺人で服役中の兄。
 そのとき弟は何を考えていくのか。
 描かれるのは『加害者家族』のこと。

 最近読んだ、『白鳥とコウモリ』や『さまよう刃』で加害者側のドラマを味わってきた。
 しかし加害者家族ばかりにフォーカスをあてているわけではなかった。

 一度犯せば一生付きまとう『殺人』という罪。
 本当の贖い。
 人の絆。

 これらがどんな風に私の胸に迫るのか。
 感動作という評価を小耳に挟みながら、ページを捲っていきました──。

ぺらり

 〜感想のまとめ〜

 ◯老婦人の住居に侵入し、金を盗み、あまつさえ目撃されては居直り強盗と化してしまう剛志。
 弟・直貴は剛志が犯罪に手を染めた理由の当事者であるだけに、彼の戸惑いと憂いがひしひしと伝わってくる。

 ◯加害者家族となってしまった直貴には常に、「容易く人の輪から爪弾きにされてしまうのではないか」という恐れが隣り合っている。彼に罪はないと知っているからこそ、世間の掌返しに胸が痛んだ。
 そんな中、剛志から届く手紙が直貴の日常にどんな変化をもたらしていくことになるのか、じっと腰を据えて読ませる要素となっていた。

 ◯直貴の日常には、加害者家族ならではの苦悩がこびり付いている。それでも、似た境遇の人物との交流や思いもかけない才能なんかで、少しずつではあるが光が差していくことに、胸は温まっていった。
 ところが、世間と彼の間に立ち塞がる透明な壁は厚く、そのことに気付くたびに負わせられる傷はひたすらに痛かった

 ◯読み進めながら次第に、直貴の抱える人生の負債について私も、「彼の苦痛に比べたら些細なことだが、それを口にしたら容易く人は離れてしまうだろう」と確信を持てる秘密を持っていることに気付かされた。
 どんなに嘘を吐いても、隠していても、ちょっとしたきっかけで露呈してしまうことがある。
 自分は独りで生きていくという強い気概があるならば、どれだけの負債も悲しくはあるが呑み込めるかもしれない。
 しかし誰かと添い遂げたいと願うならば、『秘密』は常に、胸先に突き付けられた刃なのだ。
 直貴の心情に私情を重ね、そこに芽生えるままならなさに泣き出したくなった。

 ◯この世から、差別はなくならない。
 ストレートに投げかけられるその摂理。それを無くすことは不可能だが、不可能なりに対処の仕方はあるのだと、また教えられもする。
 もちろん全てが上手くいくわけではない。
 積んでは崩しの果て、直貴のとった選択を私は否定することができない。
 最後の手紙によって『加害者にとって、最大の贖罪とは何か』の問題が浮上し、罪を犯すことの重たさがダイレクトに伝わってくるのだった。


 〜おわりに〜

 答えを出すことはできない。だから人は考え続けられるのでしょう。
 それにしても、序章以降、兄の姿は手紙の上でしか描かれないのに、脳裏に彼の真摯なイメージが浮かび上がってくるのだから凄い。

 いつか彼らの身に、幸せが訪れることを願ってやまないです。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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