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小匙の書室191 ─ゲームの名は誘拐─

 人生をゲームに準える男が、プライドを賭けて仕掛ける勝負。
 その誘拐は、成功するのか?
 事件は、犯人側の視点のみで描かれる──。


 〜はじまりに〜

 東野圭吾 著
 ゲームの名は誘拐

 6月に、亀梨和也さんを主役とした連続ドラマがWOWOWで放映されます。
 その告知をSNSで知った私は、「もしかするとドラマのネタバレ感想が流れてくるかもしれない!」という危機に瀕し、積読から引っ張り出してきました。
 ※ちなみに連続ドラマWでの実写化は、『ダイイング・アイ』『さまよう刃』『幻夜』『分身』『片想い』『カッコウの卵は誰のもの』『変身』『宿命』と多数(まさかのどれも未読かつ積読)。
 さて、物語は犯人側の視点でのみ描かれるということで、真実の披露がどうなるのか楽しみにしながらページを捲っていきました。

ぺらり

 〜感想のまとめ〜

 ◯誘拐を実行するまでの計画煮詰めパートは倒叙ものの味わいがあって、佐久間の、冷静に問題を潰しにいく思考は面白い
 とはいえ計画実行から発生する問題もあるわけで。ハラハラヒリヒリさせられた。が、いかにそれらに対処するのかというのも、読んでいて面白いポイントだった。テンポよく事が運ぶのも「さすがは東野圭吾先生だ」という感想。

 ◯次第に心が通い合っていく二人。狂言誘拐ではあるし、計画に不要だとしても、抗いきれない心の機微。意外にも共通点なんかが見つかったりして、展開が進むに連れて上昇下降する二人の関係性も特徴的
 いわゆるストックホルム症候群にも似ているのだが、不思議なことに私もまた、「いや、きっとそんなんじゃない」と思ってしまうのだった。
 悩みを打ち明け合うのは、ただ、誘拐というフィルターを抜きにして互いに親密になっているからだと……。

 ◯誘拐ゲームだけに止まらない展開。一筋縄でいかないとは思っていたけれど、まさかこんな風に事態が転がっていくとは考えもしなかった。誘拐を実行する不謹慎な高揚は、次第にその熱のベクトルを変えていった。
 果たして、誘拐は成功するのか。あるいは──。
 伏線の回収と、佐久間が最後に下す決断が見どころ。

 ◯人生は続いていく。誘拐事件をきっかけに得たもの失ったものが葛城家と佐久間の側にはあって、誘拐された/誘拐したという事実は消えません。
 一つの罪を犯した者が、これからも十字架を背負って生きていかねばならないという、明確には言明されない圧というか重たさというのが余韻の一部に染み込んでいました
 果たして登場人物たちの将来やいかに。


 〜おわりに〜

 作中の時代であればこそ成し遂げられる誘拐劇。
 佐久間のプライドをかけたゲーム
 私もすっかり彼の手の中で操られていた気分です。

 六月の連続ドラマWもたのしみですね。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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