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小匙の書室262 ─ときときチャンネル 宇宙飲んでみた─

 配信サービスで《ときときチャンネル》を始めた十時さくら。目指すは収益化&登録者1000人!
 彼女は同居人・多田羅未貴の発明を紹介することで、その望みを叶えようとし──。


 〜はじまりに〜

 宮澤伊織 著
 ときときチャンネル 宇宙飲んでみた

 『全編配信口調と視聴者コメントで語られる、新感覚の配信者SF!』というあらすじ、そして推薦者に私の好きな作家・青崎有吾氏がいるとあっては、読んでみない手はない!(あ、あとは、「たまにはSFを読んでみたいけれど、ビギナーにも優しいのはないだろうか」と探っていたところに刊行されたのも理由の一つ)
 購入からしばらく積読していたのですが、その間に、『ベストSF2023[国内篇]』において第3位を獲得。

 これはもう、読む前から期待値が爆上がりというものです。

 しかもここ最近私は〈三体シリーズ〉と『星を継ぐもの』といったハードSFを読了したばかりですから、当初の「SFビギナーにも入りやすい作品を……」という、どちらかといえばSFに対する怯えにも似た気持ちは雲散霧消

 胸の内にあるのは、「どんな内容が展開されるのだろうか……」という高揚感ばかりです。
 というわけで表紙のポップさにも魅了されながら、ページを捲っていきました──。

ぺらり

 〜各話の感想〜

 【宇宙飲んでみた】
 十時と多田羅のキャラクタ性がキャッチーで、語り口調も元気溌剌。すぐさま頭の中で彼女たちの動きを描くことができる。
 宇宙飲んでみたって、どういうこと? そもそもどうやって宇宙をマグカップに注ぐの?
 というあたりはサッとした説明で、試飲がもたらす『開放』の感覚はSF的かつコミカルに示される。
 十時がどちらかといえば『難解なこと理解できない』タイプなので、私にも馴染み易い一篇だった。

 【時間飼ってみた】
 多田羅さんの部屋から聞こえる足音、その正体は、時間。
 時間とは何か、そもそも時間は存在するのかというSFや哲学の問いかけと相反して、動き方がシュールな時計(仮)ちゃんに癒されるような気分に。
 時間の考え方に面白さを覚えつつ、やっぱり難しさはあるけれど十時と多田羅のやり取りがコミカルで緩和される。
 そして微々たる量の怖さを見せてくるのでした。

 【家の外なくしてみた】
 住所特定されないための秘策は、外をなくすこと!?
 この篇は前二篇にも増して配信っぽくて、視聴者や多田羅さんとのコミュニケーションが面白い。
 ひょんなことから“なくなった外”を探検する模様は非常に興味意欲をそそられたし、空間にまつわる理論も楽しめた。彼女たちがどんな道を歩んだのか、最後に掲示される図を眺められるのも最高。

 【近所の異世界散歩してみた】

 現実世界と、カメラを通して映し出される異世界。
 内容としてはタイトル通りに出不精の多田羅さんを引っ張って散歩しに行くだけ……なのですが、空想イメージが想像を楽しくさせてくれる一篇でした。
 映像で作られる並行世界。全体的にのほほんとしているけれど、終盤にかけての畳みかけに意外性を感じる。
 笑いあり驚きありの作品だということが理解できるのだ。

 【エキゾチック物質雑談してみた】
 急に届いた荷物。その中身は、エキゾチック物質。
 なんだそれ? という気持ちは十時も同じで、そこから始まるエキゾチックを肴にした雑談回。全体的にまったりしていながらも、物質にまつまるSF展開が面白い。視聴者と共に困惑しながらも、多田羅さんの講釈を拝聴。
 誰が、何のために届けたのか? という疑問に対しても一つの回答があり、オチも“らしさ”があってよかった。

 【登録者数完全破壊してみた】
 配信者としては王道のコンテンツ、耐久配信。
 基本的には雑談回と一緒で、十時と多田羅さんのわちゃわちゃしたやり取りが楽しめる。私も視聴者の一員となって、二人がどんな科学を見せてくれるのだろうかとワクワクさせられた。
 登録者数を完全破壊するとはどういうことか。
 以前までは理解できていなかったSFワードを二つも味得することができて、嬉しかった。
 あと、“+ぬ”さんについてもこれからが気になる存在だ。
 また次回の配信を期待しています!


 〜おわりに〜

 いや〜面白かった!!
 全編会話文でありながら、情景がありありと浮かんでくるのが凄い。これは間違いなく、SFを読み始めようとする人にオススメできる一冊です。

 ずっと理解したかった『量子もつれ』やテラフォーミングについて学べたのは大きかったなあ。
 たまに可愛らしい絵図が挟まれているのも見ていて楽しい。

 ここまでお読みくださりありがとうございました📚

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