小匙の書室188 ─紙鑑定士の事件ファイル 紙とクイズと密室と─
新業界雑誌に掲載された、懸賞クイズ。“密室”にまつわる謎に紙鑑定士の渡部が挑戦するのだが、やがて本物の密室殺人事件へ繋がっていき──。
〜はじまりに〜
歌田年 著
紙鑑定士の事件ファイル 紙とクイズと密室と
第18回『このミステリーがすごい!』受賞作『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』から始まる〈紙鑑定シリーズ〉(私が勝手に命名付けたもの)、第三弾。
本シリーズの特徴として、
・主人公が紙の知識に通暁である。
・模型やフィギュアといった童心をくすぐられる要素が盛り込まれている。
・紙の書籍ならではの遊びが施されている。
が挙げられます。
さて今回はクイズと密室ということで、ミステリ好きの私は自然と期待を高めてページを捲っていったのでした──。
〜感想のまとめ〜
◯今作でも堪能しました、紙の書籍ならではの作り! デビュー作として上梓された単行本から【本の各部】に用いられた紙の紹介があり、普段何気なく触れて捲っている紙にも様々な種類があるのだと勉強することができます。
本作を介して、紙の世界に興味を持つ読者が現れたなら……素敵な繋がりですよね。
さて、以下、各Fileごとの感想をどうぞ。
◯File:1『学習塾で起きたカンニング事件』
お馴染みのキャラが登場し、「シリーズに戻ってきた」と思わせてくれる一篇。
到底カンニングが不可能な状況で、なぜか起こるカンニング。
謎解きもさることながら、渡部の紙鑑定士としての仕事ぶりも興味深く読むことができます。真実には「頑張れば解けたのに!」という悔しさが込み上げました。
◯File:2『書籍に挟まった脅迫文』
この一篇は、“紙鑑定士”の本領発揮とでもいうべきか。脅迫文が記された紙から容疑者を絞っていく過程が素晴らしく、鳥肌が立つほどでした。これぞ、特定のジャンルに特化した小説ならではの醍醐味。
なぜ脅迫しなければならなかったのか。犯人の思慕には共感できるものも多く、なんだろう、背筋の伸びる想いがあったのです。
ちなみに懸賞クイズの答えは膝を叩きましたね。面白い。
◯File:3『現実に起きた密室殺人事件』
過去に起きた密室殺人。そして、懸賞クイズ。
誰が何のために仕掛けたのか。
少しずつ不穏な気配を纏いつつ、散らばっていた事柄が収斂していく様は緊迫と高揚をもたらしました。
この一篇はネタバレを避けて感想を書くのが難しいです(苦笑)。
ただ、真実に対して渡部が寄せた人情が心に沁みたのはお伝えしておきます。
◯密室、密室、密室。しかし読後は開放感。
やはり渡部のキャラがそれに一役買っている。最後の締め括りの一文が決まってます。
密室にかかる人の機微を言葉にするのはクサイけれど、それでも“心の密室が解錠された”というのはいいですよね〜。
〜おわりに〜
紙の知識があるかぎり、シリーズは終わらない。
次はどんな謎と絡めてくるのだろうか、と今から楽しみにすることができます。
そしてひっそり、ドラマ化するとしたら誰が主人公にぴったりなんだろうと考えてもみるのでした。
ここまでお読みくださりありがとうございました📚
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