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「あやの小路」のがま口ポーチと、地下2階のトイレで過ごした時間

先日、軽く断捨離をした。
基本的にだらしない性格なので、掘り起こすと出るわ出るわの不用品の山。
そのなかでひときわ目立っていた、ちりめん素材の鮮やかな布地。

その昔、「あやの小路」で買ったがま口ポーチだ。
和風な小物にもがま口にもさほど興味のないわたしだが、鮮やかな柄のポーチやかばんが並ぶ店舗にふらふらと吸い寄せられ、気づいたらこれを購入していた記憶がある。

そして、フルメイクが完了するくらいの量の化粧品を詰め込み、まるで爆弾おにぎりのように変形したこれをわたしは毎日持ち歩いていた。

◇◇◇

遡ることウン年前、新卒で就職した職場で働いて4年ほど経った頃。
詳細は省くが色々な職種のスタッフの板挟みになり、先輩にも詰められ、キリキリする胃を抱えながらも日々なんとか職場に向かっていた。

─あまりにキリキリ痛むので胃カメラも飲んだけど、胃の中はピカピカだと言われた。唯一薄ら血が滲んでいた箇所があったため「あれ、ここ出血してませんか!?」と先生に尋ねたら「これ貴女が胃カメラ飲むときに騒いだ時についた傷だね」と告げられた。これは完全に余談。

朝が来るたびに、(憂鬱…行きたくない…せめてもうちょっと寝ていたい…)という感情に飲み込まれる。
ギリギリまで粘りに粘った挙句、無念の起床。
そこから10分で支度をして、自宅を出て電車に飛び乗る。
そんな毎日だったのでメイクを済ませる余裕もなく、コロナ禍前にも関わらず春夏秋冬常に、すっぴん隠しのためのマスクが手放せなかった。

かと言ってすっぴんのまま仕事に臨むのも憚られる顔面のため、職場到着後に超スピードで化粧を済ませなくてはならない。
そこで問題となるのは化粧をする場所。

更衣室は狭く、職員で溢れかえってるので難しい。
かといって近場のトイレを占領するのも迷惑がかかる。
そこでわたしが見つけたのが、建物地下2階の端にポツンとあるトイレだった。
地下2階には職員用の資料室と休憩室しかなく、その休憩室は昼休み専用のため、朝に地下2階を使う職員など誰ひとり居なかった。

それからはそこでひっそりと化粧をするのが日課になった。
ここなら洗面台を使っても誰にも迷惑がかからない。

「今日の面談、うまくいくかな…」「午後からのカンファ怖いな…」「来たばっかりだけど既に帰りてぇなぁ…」

爆弾おにぎり化した「あやの小路」のがま口ポーチを開け、ネガティブな思考をぐるぐると巡らせながら最低限の化粧を己に施すこの時間はわたしにとって貴重で重要だった。
化粧が終わる頃には何故か「よし、腹くくるか!」という気持ちになれたのだ。
(うまく気持ちが切り替えられず、5ちゃんねるの「会社辞めた•辞めたい奴スレ」を就業時間ギリギリまで眺めて粘る日もあった。)

そんな毎日を繰り返すうちに、職場における自分なりのやり過ごし方がようやく身についてきた。
厳しかった先輩とも少しずつ仲良くなれたし、理不尽なことがあっても「でも自分別に悪くないし〜」で受け流せるようになった。それが良いことか悪いことかはわからないが。

結局、諸事情によりその2年後くらいに退職することになったのだけど、このポーチは常にわたしのそばにいた。
黒地に映える鮮やかな松と鶴。
この柄を見るとわたしもいつか飛び立てるような、前に進めるような、そんな気がした。

◇◇◇

…そんな思い入れのあるはずのポーチ、すっかり存在を忘れており不用品の中に埋もれていた。なにをやっているんだろうわたしは。

久しぶりに手に取ってみる。生地もまだハリがあるし、キャパオーバーなんのそのでギチギチに詰め込むというめちゃくちゃな使い方をしていたにも関わらず形は綺麗なままだった。

このポーチ、また使おう。
直感でそう思った。年々だらしなさが増しており今となっては化粧品をそのままカバンのポケットにつっこんで持ち歩いていたので、ちょうどポーチが欲しかったのだ。

形は綺麗とはいえなんだか薄汚れていたため洗った。ネットに入れて洗濯機に放り込み、ザブザブと洗った。本来は絶対ダメな洗い方だと思うが、そこは持ち前の適当さとズボラさをいかんなく発揮してしまった。

がま口製品は洗えません。
口金と生地の固定に紙紐と接着剤を使用して製作しているため、水濡れや湿気に弱い性質があります。
洗濯や手洗いを行うと生地抜けや生地の縮み、口金の変形・破損の原因となります。
撥水性のある生地を使ったがま口も、製作方法は同じのため洗えませんのでご留意ください。

引用:あやの小路公式サイト様より
https://www.rakuten.ne.jp/gold/ayano-koji/guide/aftercare.html

調べてみたらやっぱり洗えなかった。もう二度と洗いません。

(綺麗になったものの、なんだかシワ感が増したポーチ。)

もう出先でフルメイクをする機会もないので、リップにコンパクト、目薬という最低限すぎるラインナップ。
スペースがあまりにも余ったのでミンティアやノーズミント、ついでにマスクスプレーも放り込んでおいた。

(ギャツビーのマスクスプレーはいいぞ)

あの頃とは色々と状況が変わった。
出かける前に化粧を済ませるようになったし、コロナ禍でマスクが必須になったし、もう「辞めたいスレ」も見なくなった。顔のシワも少し増えた。
引っ越してまったく別の職種に就いたし、結婚して子どもも産まれた。
本当に何もかも変わってしまった。

それでも、このポーチにはまた相棒になってほしい。
あの頃、地下2階のトイレで過ごした時間。つらかったけど、自分と向き合える気がして嫌いじゃなかった時間。それをわたしと共有したのはこのポーチだけなのだ。

今は今でまた違った楽しさとつらさがある。
少しシワシワになったポーチに思い出ごと詰め込んで、また日々を過ごしていこう。

(検索したらまだページが残っていた。どうやら2014年発売らしい。7年前…そうか…)

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