【小説】ラヴァーズロック2世 #43「12階」
12階
12階の入院個室は全て白で統一されていた。
ベッド脇のキャビネットには、表紙の裏返された本が数冊収められていて、ロックはその白い背表紙を人差し指でなぞったり、窓から駐車場を見おろしたりしながら涼音の話をきいた。
かれは涼音を直視できなかった。眼を見ながら談笑することができないのだ。
彼女がとめどなく話したその内容は、ロックが知っている涼音のそれではなかった。
そもそも彼女は秋野涼音ではないのだろうか? あるいはそのような病気なのだろうか?
実は、自分はアイドルなのだ、と涼音はいった。
こうして入院しているのでいろいろな人たちに迷惑をかけている、1日も早く退院して精力的に活動したいのだ、と彼女は続けた。
「やめてくれ!」
思わずロックは叫んでいた。
「そんな話は……」
涼音は驚いた表情を一瞬見せたが、すぐに笑顔を取り戻した。
以前の彼女は、面白いことがあったときにはさすがに笑ってはいたが、それ以外は基本不機嫌そうな顔つきを標準設定としていた。
今、目の前にいる涼音は常に笑顔でとても幸福そうに見える。だが、これは決して良いことではない、という確信がロックにはあった。
ここから先は
983字
¥ 100
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?