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【小説】ラヴァーズロック2世 #49「おしるこ」

あらすじ
憑依型アルバイト〈マイグ〉で問題を起こしてしまった少年ロック。
かれは、キンゼイ博士が校長を務めるスクールに転入することになるのだが、その条件として自立システムの常時解放を要求される。
転入初日、ロックは謎の美少女からエージェントになってほしいと依頼されるのだが……。

注意事項
※R-15「残酷描写有り」「暴力描写有り」「性描写有り」
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※連載中盤以降より有料とさせていただきますので、ご了承ください。


おしるこ


その日は珍しく、喫茶ワンドロップからではなく、見知らぬリビングから1
日が始まった。

涼音を尾行するように歩き回った、あの日々の記憶はいくつか存在するのだが、ストーカー男子を目撃したという決定的な記憶はまだないままだった。

そもそも、涼音のいうストーカー男子など本当に存在するのだろうか。

ロックは何だかしっくりこない調度類に囲まれながらも、リビングでまったりしようと努力してみる。

屋外の些細な物音。遠くから聞こえる車のドアを閉める音。小鳥のさえずり。通り過ぎる子どもたちの少しだけ興奮した話し声。それらが他人行儀なこの部屋の静けさを一層引き立たせていた。

いきなり後ろから抱きつくように、涼音が接続してきた。

魚眼レンズに極限まで近づいたような、いびつな顔でこちらをうかがっている。

「すぐ来て……」小さく押し殺したような涼音の声。

「え? 何?」

「ストーカーに決まってんでしょ!」

坂道を上る涼音の後ろを、例のストーカー男子が一定の距離を保って尾行しているらしい。

これはまずい。頭の中で不意に大きな破裂音がして、一瞬周りが真っ白になる。が、すぐに気を取り直す。

ロックは玄関でサンダルを履く。玄関にはレトロな磨りガラスの引き戸があって、これも初めて見る光景だったが、不思議そうに眺めている暇はない。

坂を下って間もなく、遠くに涼音の姿が見えた。

緊張のためか、彼女の身体がこわばっているのがここからでもよくわかる。

不謹慎なのはわかっているが、何だか自然と笑いがこみ上げてくる。

涼音の後ろを歩く男子が、やっと認識できる距離になってきた。

やはり自分と同い年くらいの少年のようだ。

背は割と高いが線は細そう。これならば何とかなりそうな気がする。

ロックは心の準備をしながら素知らぬ顔で歩き続ける。

涼音との距離が段々と近づいてくる。

ストーカーと鉢合わせしたとき、いったい何をどうするのか、涼音と打ち合わせておくべきだった、と今更ながら後悔する。

ついに涼音との距離は最短になり、そのまま見知らぬ者同士のふりですれ違う。

ロックは自然な態度を装いながら、なおも男子との距離を詰めていく。自然と拳に力が入る。

すれ違う一瞬前、ロックはストーカー男子の前に躍り出て、ゆく手をさえぎった。

男子は後ろ髪を引っ張られたように、急に頭をガクンとのけぞらせて立ち止まった。

ロックは、両手を広げて立ちはだかる自分自身の姿を思うと、妙に可笑しくなってきて、満面の笑みになってしまう。

はたから見たら、異常者は明らかにロックのほうだ。

涼音の近づく足音が後ろから聞こえる。

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