Curie AIによる、COVID-19を含めた慢性呼吸器疾患に対する標準治療の変化
慢性呼吸器疾患(Chronic Repiratory Disease, CRD)と共生することは困難であり、大変恐ろしいことです。私たちが自然に行なうことのできる呼吸が、患者にとっては困難になってしまうのです。世界保健機関 (WHO)によると、CRDは主要な死因のひとつです。また、現在も肺に疾患を持つ人が増加傾向にあり、1990年から2017年の間にCRDの症例数は39.5%増加しました。
COVID-19を含む多くの疾患には肺が関わっています。SRI Internationalからのスピンオフとして事業展開を行っている 「Curie AI」 は、SRIの有する人工知能(AI)に関する専門知識をもとに、COVID-19を含めた慢性呼吸器疾患の患者のシグナルを認識・分析する技術を開発しました。
Curie AI について
Curie AI は、人工知能(AI)のサブセットである機械学習および自然言語処理(NLP)を含む、SRIのSTARラボによる開発技術から生まれました。当初、このプロジェクトは高齢者の自立した生活を可能にすることが目的でした。
このプロジェクトを通じて、STARラボはそれまでは主に言語に応用してきた音声分類技術を、非言語イベントへの応用可能性を具体的に検証する機会を得ることができました。
STARラボのDirectorのディミトラ・バージリ氏(Dimitra Vergyri)は次のように述べています。「我々の研究の大半は言語の特性化に焦点を当てています。例えば、話者の特定や言葉の検証などです」「非言語の音から検出された医学的に重要な情報を取り扱うと言うのは、様々な検証事例の中で数少ないケースでした」
2017年の法人化以降、Curie AI は「インテリジェント医療モニタリング」分野において14件の特許を個々に申請し、技術範囲の拡大および本格的な呼吸器モニタリング能力を展開しています。
革新的AIフレームワークおよび独自の巨大データベースを用いた高精度の実現
呼吸器症状の様々なデジタルバイオマーカーに関する呼吸パターンを継続的に推測することは、AIにとって非常に複雑な問題です。AIシステムは、ノイズを含むデバイスおよび室内の音響の変化の両方に対応し、高い精度で呼吸バイオマーカーを検出して、それ以外のものを非検出としなければなりません(「高精度」と「特異性」の問題)。 Curie AIシステムは、新規マルチステージ・アーキテクチャー、カスタムシグナル分析モジュール、一連のディープラーニングモデル(並列および直列処理モデルの組み合わせ)を含みます。 医療の診断において判定の正確さは大変重要です。Curie AIは、複雑かつ広範な検査シナリオにおいて、常に精度および特異性の双方で98%を上回る精度を達成しました。
このAIシステムは、100万時間以上のデータを用いてトレーニングされました。この独自のデータベースには、18種類の異なるバイオマーカーに関する1600万件以上の症状がタグ付きで含まれていました。これらのバイオマーカー(様々なタイプの咳、くしゃみ、激しい呼吸、喘鳴、息切れ、呼気の異常音)と他のバイタルサインを組み合わせることにより、患者の健康状態に関して深い洞察を行い、呼吸困難のレベルを推測することができます。
データベースには複数の環境や患者の置かれた様々な状況で取得された、多岐にわたるハードウェアと広範な音響の変化に関するデータが蓄積されています。また、患者数千名の広範囲な症状(慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、肺炎、気管支炎、肺炎、 結核、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、心不全(CHF)、 睡眠時無呼吸症候群(OSA)及びCOVID-19を含む)を網羅しています。
特有の呼吸器疾患に関する個々の洞察
患者の評価には継続的な観察が必要ですが、現実には不可能な場合や継続が難しい場合も多くあります。Curie AIプラットフォームでは患者が意識的に音声の取得を行う必要はなく、標準音声センサーを通じて計測された患者の呼吸パターンを継続的に観察します。一方で、患者に対する積極的なモニタリングも行います。
医師は患者の呼吸パターンを聞き、慢性呼吸器疾患に関する洞察をもたらす様々な症状を探します。その際に、COPD、喘息、またはCOVID-19の場合、咳の種類、喘鳴、長引く咳、息切れなどが疾患の重症度および進行度を知る手がかりとなります。
各評価は個別化されているため、Curie AIは患者の病態の重症度、症状の進行、悪化した場合の早期検出に関する実用的な情報をすぐに医師に提供します。これらの情報を通じて医療チームは予見的な介入を行って診断し、治療効果を検証して、より個別化された医療を提供することができます。
Curie AI を用いた患者転帰の改善
今までのところ、実際の患者に対してCurie AIは大きな便益をもたらしています。Curie AIと臨床医で共有されたデータおよび分析は、有効な治療選択肢に関する洞察をもたらします。例えば、従来の方法で測定したバイタルでは「追加的治療を必要としない」と判断された患者に対してCurie AI を適用したところ、「容態が急速に悪化している」と判定しました。それをきっかけに治療方針が見直され、実験的な血漿非移植治療に切り替えた結果、治療開始4日以内に退院することができました。
Curie AI はCOVID-19にも適用されています。Cure AI社の創業者でCEOのナヴヤ・ダヴルリ氏(Navya Davuluri)は、次のように述べています:
「…このパンデミックはCurie AIにとって前例のない機会となりました…今後は、医師は患者の疾患や症状のみに対応するのではなく、積極的に患者の健康状態を把握することを期待しています。 Curie AIでは、非常に高度な標準のケアを実現したいと考えています。」
Curieを皆さまの元へ
Curie AIは、慢性呼吸器疾患の患者の生活の質が低下し、長く生きることが難しいという現状に取り組んでいます。重症喘息患者100名に対してCurie AIを8か月間適用したところ、救急への受診が9割減少しました。サンカルロス・アパッチ医療法人では、スマートフォンやタブレット端末から簡単にアクセス可能なシステムを使用して、Curie AIがCOVID-19の治療に効果的に活用されています。この実装と実用が簡単なシステムと、呼吸器疾患に特化した強力なAI駆動型データ分析との組み合わせにより、生死に関わる困難な疾患と闘う患者や医師に希望をもたらしています。
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編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社