更年期がハイテクに:AIとウェアラブルテクノロジーを活用して、「更年期」を理解する
SRIのスピンアウト企業「Lisa Health」はAIやデジタル治療法、および新しいアプリで更年期に関する理解の相違に取り組む
「更年期」はこれまで文化的に「ネガティブなこと」だとみなされていたため、更年期への移行や移行後訪れる身体的・精神的な困難について母と娘が話し合うことがほとんどありませんでした。この「ネガティブなこと」だという感覚は、更年期障害の生理学的な理解と、更年期障害の症状との付き合い方に関する科学的な文献との間の大きなギャップにも反映されています。
人工知能(AI)やウェアラブルテクノロジーの進歩は、ヘルスケア業界全体の診断方法や患者のケア、そして教育を急速に進化させています。更年期や閉経期の女性に対するヘルスケアの不足を認識したことにより、SRIインターナショナルとSRIのスピンアウト企業である「Lisa Health」、およびMayo Clinicから先進的な考えを持つ人材を集めてチームを結成しました。そして、AIなど21世紀のテクノロジーを活用して、これまで満足なケアを受けてこなかった更年期や閉経期の女性層のために、エンドツーエンドの最先端デジタルヘルスプラットフォームを構築しました。
教育と治療に生じている空白
「更年期」という言葉が使われるようになったのは1820年頃ですが、閉経周辺期(卵巣が徐々に機能しなくなる閉経前の時期)に起こるホルモンの変動に関する初の本格的な縦断研究が実施されたのは1980年代になってからでした。更年期障害の症状や治療に関する研究は現在も続けられていますが、更年期障害の研究に割り当てられる研究費の割合は不妊治療や妊娠などの研究に比べ、ほんの一部にすぎません。
更年期障害は非常に複雑で症状は無数にあるため、1つの分野の専門家だけで更年期障害の患者に対応することはできません。このため、閉経周辺期や閉経期の患者や臨床医に対する教育と患者への臨床ケアの両方に空白が生じていました。実際に、最終的にはすべての女性が閉経し、そのうち85%が有症状になるにもかかわらず、この人生の転換期にある女性を治療するための十分な訓練を受けていると感じている研修医は7%に満たないのです。
Midday/Lisa Health提供
更年期の時期や更年期障害の症状への対処に関するサポートが非常に手薄なため、多くの女性がインターネットやソーシャルメディアのプラットフォームで情報を求めるようになっていますが、これは理想的な状況であるとは言えません。北米閉経学会(North American Menopause Society)のように、信頼できる有益な情報を女性に提供している情報源もありますが、一方で、時代遅れの情報や裏付けに乏しい情報源もあります。また、医療やケアへのアクセスや、根拠に基づいたもしくは科学的な裏付けのある治療法の不足も、多くの女性にとって問題となることです。Lisa Healthの共同設立者兼CEOであるAnn Garnierは、「更年期障害が女性や社会に与える影響は多岐にわたりますが、これらはあまりにも長い間無視されてきたのです。」と述べています。より大規模で包括的なソリューションが必要とされていました。
一人一人の人生に合わせてパーソナライズできるソリューションの開発
Lisa Healthは、SRIとMayo Clinic、Radical Venturesと共同で、更年期障害に関する理解の相違に真正面から取り組んでいます。「私は医療技術関連企業のシニアエグゼクティブとして仕事に邁進していましたが、更年期障害がいかに大変なものか、自らのキャリアや人間関係を狂わせてしまうかもしれないほどのものであるということを身をもって体験しました。そのときから、先進的なテクノロジーを使って更年期障害の症状を変えることに思いを注ぐようになりました」とGarnierは述べています。
SRIの研究者で更年期、睡眠、そしてウェアラブル技術の専門家であるMassimiliano de Zambotti博士もLisa Healthの共同設立者であり、同社の最高科学責任者(Chief Science Officer)を務めています。de Zambotti博士はGarnierとの革新的な業績について次のように述べています「Annと私は、それぞれが持つビジョンや能力、データ、イノベーションを組み合わせて更年期障害を管理できるブレークスルーをいくつか生み出しており、出願した特許も審査中です。私たちは、ホットフラッシュ(ほてり)や睡眠障害を高精度に検出・予測できる新しいAIアルゴリズムを世界で初めて開発しました。また、ストレス、睡眠、循環器系統など、健康に関するいくつかの横断的な領域において、更年期に変化する女性の特徴を把握する先駆的な研究も行っています。これらの重要なバイオマーカーを判別する能力は、プレシジョン治療や症状の緩和を提供するために最も重要なものとなります。」
このような人生の転換期を迎える女性を支援するために設計された、他のアプリで使用されているAIやセンサー技術などのディープテックの欠如に対応すべく、Annとde Zambotti博士はiPhone対応アプリの「Midday」を開発しました。このアプリは知見や教育、そして更年期に差し掛かった女性に幅広い治療法をサポートとして提供するとともに、いくつかのAIテクノロジーを活用して包括的かつパーソナライズされたアプローチで様々な症状に対応します。Middayアプリは、Fitbitのような市販のウェアラブルデバイスとペアリングが可能で、AIと高度なアルゴリズムが用いられており、各自の更年期の進行や症状、その他の特徴に応じて、女性一人一人にカスタマイズした戦略や知見を提供します。
Midday/Lisa Health提供
Middayはまた、更年期の専門家によるバーチャルケアが可能で、これにはMayo Clinicが開発した、ユーザーにホルモン補充療法が適切かどうかを判断してくれるツールも含まれています。今年の後半には、ウェアラブル技術を使ってホットフラッシュを検出・測定して発生パターンを把握し、その引き金になる知見と、症状を緩和する様々な戦略をMiddayで提供できるようにする予定です。「市販のシンプルなウェアラブル端末を使って、更年期障害や健康状態に関するバイオマーカーをいくつか測定することができます。これにより、各自の様々な症状を引き起こす根本的な原因を突き止めるとともに、その緩和策を提供し、時間の経過に伴う変化を測定し、そして適応させることができます。」とGarnierは述べています。
更年期に対する意識の変化
Garnierは、Middayが更年期に対する社会の考え方を変えてくれる最初の一歩になることを期待しています。「私たちが十分話し合いができていないことの1つに、更年期に対する“認識”があります。幸いなことに、更年期にまつわる昔からの羞恥心や沈黙がなくなりつつあり、これは素晴らしいことです。更年期について、女性同士はもちろん、職場などでもオープンに話せる人が増えています。羞恥心や沈黙だけでなく、更年期にまつわるネガティブなイメージを払拭することが重要なのです。」とGarnierは述べています。
Middayアプリは最終的に、人生の最も実りあるステージの1つとAnnが考えるステージの健康増進を促進してくれることでしょう。「更年期は、蓄積された知恵や経験、そして自信を活用できる時なのです。更年期の中で、そして更年期自体を経験することにより、人生のより若い時期よりも新たなレベルの自信と力を発揮できるのです。自分自身の肌、そして自分自身の存在を心地よく感じるのです。」とAnnは述べています。そして、Middayが「今現在、そして将来自らができることの可能性に喜びと興奮を覚えつつ、この更年期のライフステージに臨める」ようにしてくれることを望んでいるのです。
Midday は、iPhone ユーザーへのサブスクリプションによって利用可能で、App Store からダウンロードできます。 SRIインターナショナルのウェブサイトでは、人生のあらゆる段階で健康転帰を改善するという 様々な取り組みの詳細をご覧いただけます。
参考資料:
Ford, T. (2022.) Lisa Health launches Midday, an app leveraging AI to personalize the menopause journey, in collaboration with Mayo Clinic. Mayo Clinic News Network.
Grose, J. (2021.) Why is perimenopause still such a mystery? The New York Times.
編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社