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#1. 雇用契約書

【ご注意】
・内容を簡単にまとめるため、細かな法令や文言が抜けていることがありますことご了承ください。
・記載時点の法令に準じております。

突然ですが、お勤めのみなさま、雇用契約書は保管してありますか?

しっかり読んで条件を確認したうえでサインした方、
何となくだけ読んでサインした方、
雇用契約書という形で交わしてない方、
そもそも覚えてない方(笑)・・が実は一番多いかなと思います。

noteの記事としては初回となるので、まずは労働法の基本として雇用契約書について書きたいと思います。
雇用される側だけでなく、経営者が知っておいて良かったという内容になれば幸いです。

雇用契約書とは

雇用契約書とは、会社と労働者の間で、労働条件等を明らかにするために交わす契約書のことです。
※わかりやすく「会社」としていますが、個人事業主も労働者を雇用する場合は同じです。

契約というのは基本的に自由ですが(「契約自由の原則」といいます)、雇用の場合は圧倒的に会社が有利なので、いろんな法律の制約があり、どんな内容でも自由に決めて良いというわけではありません。
ちょっと難しいので図にしてみました。

雇用契約1

根底に憲法があって、そのうえに労働基準法や最低賃金法などの法律(法令)があります。
会社で定める就業規則は、法律(法令)を下回ってはダメで、さらに雇用契約は原則、就業規則を下回ってはいけません。
立場が弱い労働者を守るよう、このような仕組みになっています。

雇用契約は必ず書面(紙)で交わさないといけないわけではなく、メールや口約束でも成り立ちます
一方で会社にとっては、労働基準法で「労働者に必ず明示しなければいけない項目」が決められているので、ほとんどの会社が雇用契約書を結んでいるのです。

雇用契約書ではなく「労働条件通知書」というのを交付するパターンもあります。違いは、労働者本人のサイン(明確な同意)があるかどうかです。
ちなみに労働条件通知書は、2019年4月からメール等の通知でもOKとなりました。
感覚的ですが、世の中の多くの会社は雇用契約書を交わしており、アルバイトが多いような一部の会社で、「正社員やフルタイムの契約社員は雇用契約書/アルバイトは労働条件通知書」としている感じでしょうか。

まとめると、雇用契約自体は明確な決まりが無い、ただし会社側は必ず書面(またはメール等で)一定の労働条件を労働者に明示しなければならない、ということです。

雇用される側にとっての雇用契約書

雇用契約書や労働条件通知書には、必ず記載しなければならない項目があります。給与(賃金)や労働時間、就業場所、休日・休暇などです。
詳しいことが知りたい方は「雇用契約 絶対的記載事項」で検索してみてください。

冒頭で書いた通り、雇用契約は会社側が有利なので、雇用される側としてはどんな内容なのかをしっかり把握しておくことが大切です。
就業規則がある会社の場合、「年次有給休暇は正社員就業規則第●条の規定による」など記載を省略している場合が多いので、就業規則もセットで確認することも必要です。

もし雇用契約書が無いという場合、最初に約束した内容がメールや何かで残っていないか確認してみてください。
どうしても無いという場合は就業規則、就業規則が無い場合は法律(法令)が基準になります。
そもそも会社には労働条件を明示する義務があるので、きちんと明示してもらえるよう相談しましょう。

小さな会社でよくトラブルになるのが、未払い残業代や、年次有給休暇、社会保険の加入の有無です。
もし雇用契約書の内容が法律(法令)を下回っていたら、その部分は無効になります。

例えば、「営業手当に月30時間分の残業代を含む」と書かれていても、実際に30時間以上働いている部分に残業代が払われてなければ未払いとして請求することが可能です。
(もっというと、このような固定残業代の場合はきちんと計算がされてないと、固定残業代そのものが認められないことがあります)
「うちはアルバイトには年次有給休暇はナシだから」と言われていたとしても、勤続6か月で一定の勤務をしていれば、年次有給休暇は付与されなければなりません。

また、正社員には適用されている特別な手当や特別休暇(慶弔休暇など)が契約社員やパートには適用されていない場合、「同一労働同一賃金」の観点から、訴えれば認められるようになってきています。

最近はコロナの影響で、有期(3か月・6か月等の一定の契約期間を更新する契約)の方が一方的な雇止めにあう(契約期間終了で辞めさせられる)ケースが増えています。
有期契約の場合は、必ず「次回の契約更新の有無」、契約更新の可能性がある場合は「更新の判断基準」を明示しておく必要があります。
「判断基準」に当てはまらないのに一方的に契約終了したり、ましてや契約更新前に辞めさせる(解雇する)ことは基本的にできません。
そもそも更新に関する上記の明示が無い場合は「自動更新」とみなされ、雇止め自体が無効となる可能性もあります。

経営者にとっての雇用契約書

これまで説明した通り、雇用契約書は会社と労働者双方にとって、給与などの条件について確認し、同意を得たことを証明するものになります。
雇用契約書や労働条件通知書が無い場合も雇用契約そのものは有効ですが、条件をきちんと明文化していないと何かとトラブルになります。

さらに会社側にとっては、労働基準法の通知義務違反(30万円以下の罰金)になりえますので、必ず締結または通知するようにしましょう。
一般的には、会社が一方的に通知する労働条件通知書よりも、雇用契約書の方が(本人のサインがあるので)トラブルになりにくいと言われます。

繰り返しとなりますが、具体的な労働条件が示されていない場合は就業規則を見ることになり、就業規則が無い場合は労働基準法等が根拠になる…というように、補完はききます。
とはいえ、しっかり条件を示しておかないと痛い目にあうこともあります。

例えば、正社員用の就業規則しか整備しておらず、アルバイトの雇用契約書が無い(条件を通知していない)ケースはどうなるでしょうか。
最悪の場合、アルバイトの条件も正社員と同じとみなされ、同じ待遇を求められることがあります。
※就業規則については、また別の機会に書こうと思います。

実際にアルバイトに訴えられてトラブルになるケースは多くないものの(だいたいは話し合いで解決します)、最近はネットで情報を簡単に仕入れることができますし、労基署や個人ユニオンに駆け込まれることもあるので、経営者として万が一のリスクに備えてきちんと対応して欲しいと思います。

就業規則や雇用契約書の内容で重箱の隅をつつくようなモンスター社員、本当にいるんですよね。
私自身もこれまでたくさん見てきました。
せっかく事業がうまく行ってるのに、一部のモンスターのせいで会社の空気が悪くなったり、経営側への不信感に繋がったり、最悪の場合会社が傾くような事態にまで発展するのは避けたいものです。

就業規則や雇用契約の内容が最新の法令に則っているか、社労士等の専門家に委託して定期的に確認・メンテナンスすることも必要だと思います。
きちんとした雇用契約書や就業規則は、従業員が安心して働くうえでの最低限のルールになるばかりでなく、いざというときに「会社を守るもの」になります。

さかのぼって雇用契約書を結ぶ場合

雇用契約書について基本的なことを書いてきましたが・・
ここからはあまり教科書には載ってない話です。

「実は入社時に雇用契約書を締結しておらず、必要事項の通知もしてなかった」という経営者の方もいらっしゃるかと思います。
書面が無くても雇用契約自体は有効ですので、後々トラブルにならないように、また社員の安心のためにも、今からでも雇用契約書を交わしておくことをお勧めします。
いくら気心の知れた従業員であっても、会社と労働者は立場が逆だということを認識しましょう。

この場合、契約期間をどうすれば良いか悩むと思います。
無期雇用(契約期間なし)の場合は契約開始当初にさかのぼっても良いですし、これから条件を明確にして締結するということで直近のきりの良い日付を開始日にしても良いと思います。
有期雇用の場合は、現在の雇用期間のものをさかのぼって締結しましょう。
契約日はいずれも、「実際にサインをした日」です。契約期間の開始日より締結日が後であっても問題ありません。

そして有期雇用の場合は、契約期間が終了する1か月前までに、次の契約期間の雇用契約書を交わすようにします。
一定の契約が続いている場合(具体的には3回以上の更新または1年を超えて契約が続いている場合)に契約終了(雇止め)をする場合は、期間満了の少なくとも30日前までに予告することが法律で定められていますし、本人が契約更新を望まない場合も一般的に30日前までには会社に申し出るルールとしている会社が多いと思います。
(労働者側は、最低限2週間前までという民法のルールが優先します)

さいごに

今回は雇用契約書という形式の話をしてきましたが、「会社と労働者との信頼関係」が大前提というのは言うまでもありません。
改めて契約締結したり、就業規則を見直す場合は、社員としっかりコミュニケーションを取って、より良い職場環境づくりのキッカケにしていただければと思います。




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