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シルク・ド・ソレイユのレイオフと日本における整理解雇の4要件

本記事は、3月26日に配信したポッドキャストの文字起こしです。


今回は、シルク・ド・ソレイユのレイオフのニュースと日本における整理解雇の4要件というテーマから話をしたいと思います。よろしくお願いします。

シルク・ド・ソレイユのレイオフのニュース概要

まず、新型コロナウイルス感染症の全世界的な流行に伴い、企業への影響も徐々に大きくなっている中で、3月19日に、カナダのサーカス集団であるシルク・ド・ソレイユが従業員の95%にあたる約4700人をレイオフした、というニュースがありました。

95%の従業員を解雇、というような記事の見出しで、かなり衝撃的なニュースだったかと思うんですが、解雇と一時解雇の違い、という部分が整理しきれていないのかなと思ったのと、それに加えて、一時解雇は北米などで活用されているものですが、日本ではあまり馴染みのないものであり、その理由についても合わせて整理しておきたいなと思います。

シルク・ド・ソレイユの今回のニュースの概要ですが、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行によって公演を中止せざるを得なくなったと。それによって興行収入がストップしてしまうので、人件費をカバーできないために、アーティストや技術者を中心に95%にあたる約4700人を一時的に解雇しました、という内容です。

一時的な解雇、というのを会社側もコメントの中で強調していますが、業績が回復した場合には再雇用をするという前提があっての解雇をレイオフ、一時解雇と言ったりします。あくまでも一時的なものですと。

(補足)一時解雇に対応する言葉はfurloughと言い、lay-offという場合は会社都合による解雇全般(整理解雇)を指す場合が多いようです。

一時的とはいえ、解雇されている間、スタッフはどうなるかというと、失業給付の支給を受けたりだとか、別の仕事を探したりだとか、そういうことで解雇中の生活を乗り切る必要があります。

特にシルク・ド・ソレイユの場合は、公演再開の目処がたったら再雇用の準備をする、ということを前提としていることもあり、レイオフされたスタッフについても健康保険を維持したりだとか、従業員向けのサポートプログラムにアクセスできるようにするような措置を取るということを言っています。そういう趣旨から残りの5%のメンバーで、すみやかな興行の再開に向けて準備する、ということのようです。

シルク・ド・ソレイユ側がこのような措置を強調する理由というのは、再雇用を前提にするとはいえ、解雇によって従業員との関係は切れてしまうので、それを防ぎたい、という意向が強いのだろうと思います。特に世界的なトップレベルなパフォーマーなので、いなくなってしまうのは会社にとっても痛いというところです。

一時解雇と一時休業の違いは

これに関連して、レイオフという表現で一時解雇ではなく、一時帰休、一時休業、を意味することもあったりします。

解雇と休業の違いはどういうところにあるかと言うと、休業の場合は、解雇とは異なり、雇用関係が維持された状態が続く、というところが大きな違いです。逆にいえば、さっき言ったように、解雇してしまえば再雇用を前提としていたとしても会社と従業員との関係は一度切れるので、その間に別の会社に就職したいと思えばそれはもちろん自由です、というところで、雇用関係の維持、という点での違いがあります。

それと、一時休業の場合は、雇用関係が維持されているので、休業手当の支払いが必要です。日本の場合で言えば、平均賃金の6割以上を支払う必要があります。なので、たとえば半年間一時休業するとすると、もともと払っていた給料の約6割(※ざっくりです。)はその間支払わなければいけません。一方で解雇の場合は人件費が0になるので、0かもともとの60%か、というような、人件費のインパクトとしては違いが出ることになります。

日本国内においては、この休業手当に対しては一定率補助しますよ、という趣旨の助成金があって、雇用調整助成金、というものがあるのですが、今回の新型コロナウイルス感染症による影響を受ける事業主については要件が緩和された形になっています。例えば特に緊急事態宣言を出された北海道については、雇用保険の被保険者以外の人などについても対象としますなど、さらなる緩和措置が取られた形になっています。

日本でレイオフがなじまない理由

次に、日本でレイオフという概念の馴染みがない理由というか、あまり積極的に行われていない理由、というところなんですが、一言で言うと、日本では解雇規制が厳しいから、というところです。特に今回のように業績が悪化したことを理由とする解雇については一般的な解雇よりもさらに厳密な要件が求められるところです。

解雇について整理する

まず解雇というものを大まかに種類分けすると3つ。1つ目が普通解雇、2つ目が懲戒解雇、3つ目が整理解雇、というように整理できます。

1つ目の普通解雇というのは、就業規則などに定められた解雇事由に該当したことを理由に解雇します、というものです。2つ目の懲戒解雇というのは、違反行為に対して懲戒処分として行う解雇であって、解雇プラス懲戒処分、という要素が組み合わさったものだと考えるとわかりやすいかと思います。いずれも、解雇事由と、懲戒処分としておこなうのであれば懲戒事由とを、それぞれあらかじめ就業規則に定めた上で労働者に周知されている必要があります。あらかじめ明確に定められた基準を元に行われるべき手続きであるということです。

ちなみに普通解雇と懲戒解雇の違いですが、たとえば懲戒解雇の場合は退職金の支給対象外であることが多いです。逆に普通解雇の場合は支払われることが多いのかなというようなところと、あとは、雇用保険の失業給付を受け取るタイミングにも影響があったりもします。解雇の場合、会社都合の退職として、労働者が自分の意思で会社をやめる自己都合の退職とは扱いが変わるのですが、それぞれ、失業給付を受け取れる期間とか、いつから受け取れるのか、という点が変わってきます。

どういうことかというと、まず自己都合で退職する場合には、失業給付を受け取るまでに原則3ヶ月間の待機期間、タイムラグがあります。一方で、会社都合の退職の場合、7日後には受け取れることになっています。つまり、解雇された場合はすぐに失業給付を受け取れる、というのを原則なんですが、懲戒解雇の場合、労働者自身の責任が重大である、と判断される場合には3ヶ月間の給付制限があったりします。なので、懲戒解雇の場合には、自己都合退職の場合と同様に、と言ってしまうとすこし紛らわしくなるかもしれませんが、3ヶ月のタイムラグが発生することがある、普通解雇と懲戒解雇にはそういう違いがあると。

整理解雇の4要件

少し脱線しましたが、3つ目の整理解雇について最後に話をします。整理解雇というのは、業績不振など経営上の理由によって人員の削減が必要な場合に行われる解雇です。前2つの普通解雇と懲戒解雇との違いはどこにあるかというと、解雇の原因が従業員側ではなく、会社側にあるということです。

会社側の都合で雇用関係を打ち切るということになるので、より厳密な要件が求められます。その厳密な要件というのが、裁判例の積み重ねで「整理解雇の4要件」ということで整理されています。4要件というのは、①人員削減の必要性、②解雇回避の努力、③対象者の合理的な選択、④解雇手続きの妥当性、です。

それぞれ簡単に説明すると、

①「人員削減の必要性」というのは、客観的に見て経営上解雇が避けられない、人を減らして人件費を削減しないと経営が成り立たない、という必要性が認められるかどうか。
②「解雇回避の努力」というのは、解雇というのは最後の手段なので、他に解雇を回避するような経営努力が尽くしきったかどうか、例えば採用活動を縮小したり、一時休業によって雇用の維持を目指す取り組みをしたかとか、役員報酬を減額したりだとか、そういうような最後の手段に踏み切るまでに経営努力を尽くしたかどうか。
③「対象者の合理的な選択」というのは、従業員のうち一部を整理解雇の対象にする場合に、例えば性別や年齢を理由とした選択は合理的ではない、一方で何が合理的かというと、会社の貢献度だとか、客観的な基準を元に対象者を選ぶ手続きを、会社の方で合理的にステップを踏み、客観的な形で残しておく必要があります。
④「解雇手続きの妥当性」というのは、解雇という重大な手続きを踏むにあたって労働者や労働組合との交渉だとかで、労働者側の納得を得られるように誠意を持って協議を尽くしたかどうか。

この①人員削減の必要性②解雇回避の努力③対象者の合理的な選択④解雇手続きの妥当性、を元にして、整理解雇の有効性が判断されます。

解雇の手続きについて

あと、解雇をする場合には、手続きが定められています。どういう手続きかというと、解雇は30日前までに予告しなければなりませんと。なので、例えば4月末、4月30日をもって解雇したいという場合には、30日までの3月31日までに書面なりで解雇予告を通知すると。ちなみに、30日より短い期間で予告する場合、4月末で解雇したいと考えているが、通知が4月15日となった場合、30日に足りない日数分の平均賃金を支払う必要があります。これを解雇予告手当と言いますが、例えば15日に通知した場合には、15日分が不足していることになるので、15日分の平均賃金を支払った上で、4月30日をもって解雇することになります。この解雇予告手続は、普通解雇、懲戒解雇、整理解雇の種類を問わず、解雇であれば必要な手続きです。

ごく一部の例外として、懲戒解雇の場合、よほど労働者の責任が重大な場合には監督署の方で解雇予告は必要ない、という認定を求めることも例外としてあったりしますが、原則としては解雇の場合、解雇予告手続が必要です。

まとめ

というところで、今回、シルク・ド・ソレイユの従業員レイオフのニュースを元にして、日本では解雇規制が厳しい、解雇にあたっては所定の手続きを踏む必要があります、そして、会社都合の経営上の理由における整理解雇の場合にはより厳しい要件が求められていて、具体的には4要件、4要素を元にして有効性が判断されます、という話をしました。

ありがとうございました。



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