やばくない戦歌

ブルックリンのウィリアムズバーグには、アンティークショップが沢山ある。これらの店には、これぞといった掘り出し物が沢山出てくるので、私もチョイチョイ足を運ぶ。品物の回転もよく、コレは!と思うものはすぐ売り切れてしまうのである。

そんな今日の午後も私はあるアンティークショップに居た。
いつの時代のものか分からないポストカードや、年代物の食器がずらりとその店には並ぶ。価格も安く、非常に手ごろである。

目当てのものを手に入れ,レジに並び会計をする。
オーナーであろうか。
レジに座っている老婆がのろのろと梱包を始める。

店内には私含め数人の客。それぞれ、ゆっくりと目当てのものを眺めていた。時間はゆっくりと、早く過ぎる。
昨日の雪もすっかり溶け、暖かい。
今日は心地いい一日である。

カラン。ドアが開き、4、5人の日本人女性が入って来た。
顔を見る限り、年の頃は27歳位に見えた。

「やばくなーい?この食器」
「やばくなーい?この椅子」
「こっちもやばくなーい?」
「やばくなーい?これ日本製なんだけど」
「やばくなーい?裏にメイドインチャイナって書いてあるんだけど」

店内にて彼女らの「やばくない」の輪唱が始まる。
暫くすると、一人が飽きたようで、他のメンバーの気を引き始めた。

「やばくなーい?この人形こわいんだけど」

これを機に、彼女達のやばくない感想合戦は、クレームへと変化する。

「やばくなーい?呪われるんだけど」
「やばくなーい?埃っぽいんだけど」
「やばくなーい?呪われる前に出たいんだけど」
「やばくなーい?早く出たいんだけど」

何か察したらしき、梱包していた老婆の手が止まる。
彼女は彼女らに目をやる。10数秒ほど彼女らを見つめた後、

老婆はじっと手元を見つめ、
はぁーーーーーーーーーっつ。
とそれはもう深いため息をつく。

カラン。
日本人の彼女らはアハハ呪われるーと笑いながら、
店を出て行ってしまった。

レジの老婆が私の顔を見て言う。
「今日はもうやめだ。続きはあの店員と話してくれる?」
と言い、店員に何かを言いレジを立ってしまう。

無論、彼女には日本語などわかりやしないだろう。
え?梱包の途中に嫌になったの?!もう終わる寸前だけど???と言う私の疑問はさておき、彼女はふらりと店の奥に消えていく。

そんな午後。久しぶりに日本語を聞いたNYの夕方。

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