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vol.011 ナナシカフェ

娘を連れて久しぶりに西表島に一泊してきた。大原港でレンタカーを借りてその日宿泊する宿に挨拶をしてから西部地区、白浜にある『ナナシカフェ』へと向かった。友人がお店の看板を作ったことで知ったそのカフェは、海と山を同時に望むことのできる素晴らしいロケーションにあり、アジア料理や飲み物を提供している。オーナーの江袋由賀(えたい ゆか)さんは、18年前に北海道から西表島へ移り住み、西表島で出会った旦那さんは、パイナップルやマンゴーを育て販売する『アナナス農園』を営んでいる。『ナナシカフェ』でも『アナナス農園』のマンゴーを使ったドリンクや、ジャムなどを購入することができる。

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『ナナシカフェ』、白浜の入り江を背に階段を上がっていくと前後に壁のない空洞のスペースがあり、その空間の中央には、鮮やかなブルーのクロスがかけられたテーブルが一つあるのみ。

奥には花木が茂った風景が見え、登って来た方向を振り返ると、白浜の入り江に船が浮かびその向こうには山々が見渡せる美しい景色が広がっていた。

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そのテーブルには少しくたびれたT-シャツを着た男性が一人座っていた。「ここは、相席ですか?」と聞くと「はい、そうですよ」と男性はさっぱりした口調で答えた。「島の人ですか?」と聞くと、「そうですよ。島の歯医者です」と話し始めた。その時点で、何だか不思議な映画のワンシーンに入り込んでしまった気分になった。テーブルから見える白浜の景色を眺めながら島の歯医者さんとおしゃべりをしていると、歯医者さんが先に注文していたフォーが運ばれてきた。自分たちも同じくフォーを注文し、その他にもバインミーや生春巻き、マンゴードリンクやベトナムコーヒーも注文した。 

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ショートカットの髪型がチャーミングな由賀さんに、「娘は、以前バドミントン部の合宿で白浜に来て学校の子供達とも交流したことがあるんですよ」と話すと「え〜、竹富島の? 分かるよ。うちの子もバドミントン部であの時一緒に交流したのよ。覚えてるよ」と娘の顔を見てびっくりしながらも嬉しそうに弾んだ声で話し始めた。そこへ、背の高い細めの青年が家族でカフェに現れた。現在石垣島に移り住み高校へと通うその青年は、週末に実家のある白浜へ帰ってきていたところだった。彼も娘と一緒にバドミントンの合宿を楽しんだメンバーの一人だった。モジモジしている娘を横目に、私は映画を鑑賞する一人になった気分で次から次へと起こる不思議な出会いと再会のストーリーを楽しんだ。

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『ナナシカフェ』、不思議な空間。そこは、題名のない演目が公演されている秘密の小さな劇場みたいな場所だった。 

【水野暁子 プロフィール】
写真家。竹富島暮らし。千葉県で生まれ、東京の郊外で育ち、13歳の時にアメリカへ家族で渡米。School of Visual Arts (N.Y.) を卒業後フリーランスの写真家として活動をスタート。1999年に祖父の出身地沖縄を訪問。亜熱帯の自然とそこに暮らす人々に魅せられてその年の冬、ニューヨークから竹富島に移住。現在子育てをしながら撮影活動中。八重山のローカル誌「月刊やいま」にて島の人々を撮影したポートレートシリーズ「南のひと」を連載中。


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