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vol.015 「島と生きる」をおもしろく

毎年、春休みや夏休みに、小学生の娘と一緒に楽しめる写真のワークショップを企画・開催している。今年は、新型コロナウイルスの影響により、子どもたちへ向けてのワークショップ開催は見送った。

そんな中、石垣島に暮らす「八重山ヒト大学」の副学長をしているCちゃんから、「ヒト大の企画で、石垣島の街を歩いて、スマートフォンで撮影するフォトウォークを開催しようと思うので、一緒にやりましょう」と声をかけてもらったのが夏の始まりぐらいだった。正直、こんな時期に大丈夫かな? とお互いに不安もあったけれど、万全の対策のもと実施する流れになった。

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※「八重山ヒト大学」は、沖縄県にある八重山諸島をキャンパスに、島の若者たちが地域の今を考えるための「学びの場」づくり、互いの思いを伝え合うための「対話の場」づくり、描く未来を創り出していくための「挑戦の場」づくりを行っています。

今回の企画は、「あたり前を旅しよう」というテーマで3回に渡り開催された。石垣島の十八番街、桃林寺周辺、登野城漁港周辺を、各回10人ほどの参加者と一緒にスマートフォンを片手に歩き、撮影、最後にグループディスカッションを行うという流れだった。私はアドバイザーという名目で企画に参加させてもらった。

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撮影する側とされる側との関係性を描くような、お互いを知るためにプライベートな時間を用いて打ち合わせなどを行って撮るスタイルがいつもの自分の写真だったりすると、初めましてのシチュエーションで大人数で行うフォトウォークを想像するのは少し難しかった。

初回当日は、ソワソワしながら集合場所へと向かった。ところが、初めて参加したフォトウォークは、新しい出会いと発見の驚きに満ちていて素直に楽しかった。 

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普段昼間に歩くことのない夜の街として知られる十八番街を参加者と共におしゃべりをしながら歩き、フッと目に止まる景色に出会うと立ち止まってパシャリ、再びおしゃべりをしながら歩く。「なんだか楽しい」と思い始めた頃に、参加者の一人で50代の男性が、道の中央で立ち止まり、「幼少期にこの家に住んでいました」と古い赤瓦屋根の家を指差した。ヒト大メンバーも参加者も「え〜!」とビックリ。その後この家にまつわる幼少期のエピソードを色々と聞かせてくれた。

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この企画は、人に出会うきっかけを作り、日常の中に新しい発見を見出す楽しさを共有する仕掛けをうまく作り出していた。 

参加者の年齢の幅は20代〜60代と広く、職業もITエンジニア、不動産屋、学校の先生、ランドスケープデザイナー、元競輪選手など多岐に渡り、また移住者と石垣島出身者がちょうど半々ぐらいだったこともあり、このような多様な参加者と一緒に過ごす時間は、とても有意義なものだった。

八重山ヒト大学のメンバーのバックグラウンドも、現在の職も様々だ。今回は、それぞれの得意分野が垣間見えて色々と感心させられた。イベントの企画立ち上げが得意な人、映像制作が得意な人、デザインセンスに優れている人、人をまとめるのが得意な人、目立たない仕事をコツコツとこなす人。チームで仕事をこなしているけれど、このチームのメンバーは、それぞれが「個」としての存在感を放っていて、そこがとても魅力的だと思った。

夏から始まったこの企画の締めくくりとして、参加者が撮影した写真を大濱信泉記念館にて「島・歩・撮〜Shima Photo展」として展示し、誰でも観に来られるオープンな展示会を開催した。記念館のアカデミックな雰囲気と公共性を感じさせる空間が今回の企画展にしっくりと馴染んでいた。 

アドバイザーとしての立場から、参加者に「テーマを考えて撮ってみるのも良いですね」とか、「同じ物や同じ場所でもアングルを変えてみると見え方が変わりますよ」など小さなアドバイスをした。彼らが自由な思いで撮った写真からは、それぞれの視線の先に見えたものが写されていた。同じ場所を歩いたのに、同じ写真は一枚もなかった。 

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『「島と生きる」をおもしろく。』をスローガンに掲げる「八重山ヒト大学」。次は、どんな面白いことを仕掛けてくれるのか、楽しみだ。

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【水野暁子 プロフィール】
写真家。竹富島暮らし。千葉県で生まれ、東京の郊外で育ち、13歳の時にアメリカへ家族で渡米。School of Visual Arts (N.Y.) を卒業後フリーランスの写真家として活動をスタート。1999年に祖父の出身地沖縄を訪問。亜熱帯の自然とそこに暮らす人々に魅せられてその年の冬、ニューヨークから竹富島に移住。現在子育てをしながら撮影活動中。八重山のローカル誌「月刊やいま」にて島の人々を撮影したポートレートシリーズ「南のひと」を連載中。


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