vol.029 バケーション
夏には、ワーケーションじゃなくて、バケーションを楽しみたい。
完全にオフライン、脱パソコン、写真編集も現像も、メールや原稿チェクもしないバケーション。
目覚まし時計に起こされず、朝食にはゆっくりとコーヒーをドリップし、新鮮なフルーツをカットしながら流れる音楽に鼻歌をのせて、好きなように新聞や本を広げて午前中いっぱいをゆるりと過ごす。気が向いたら水着に着替えて海へ。思う存分泳いだらランチへ。テーブルを囲み友人や大切な家族と食事を楽しむ。おしゃべりに花が咲き時間を忘れる。午後は海で泳いだけだるさが心地よい。涼しい部屋でお昼寝もよし、好きなことをして夕方まで過ごす。少し日が傾いてきたらお散歩だ。今までに訪れた国々のどの街でも、夏の夕暮れ時は、オレンジ色の太陽の光に照らされて、景色は開放感に満ち溢れバケーション色に染まる。
子どもの頃は、山の家で夏休みや冬休みを過ごしていた。特別に何かをする訳ではなく、一箇所に滞在してのんびり過ごすのが定番のスタイルだった。朝はベランダから見える霧のかかった深い緑色の山並みを眺めた。昼間は野いちごをさがし、トンボをつかまえ、クローバーのしげる野原に寝転んで空を流れる雲を眺めたりして過ごした。夜はうっかり雨戸を閉め忘れた窓ガラスに群がる赤い目をした色とりどりの蛾を眺め、その背景に広がる真っ暗な暗闇を恐れた。
13歳で家族とアメリカに渡り暮らしていた頃も、北アメリカやヨーロッパを旅したが、見知らぬ街を訪れる時も、知人の暮らす街を訪れる時もその土地の息遣いを楽しむような時間を過ごした。
結婚後、夫とメキシコやヨーロッパの国々を旅したときも同じ街に長く滞在しては、お気に入りのコーヒーショップを見つけ毎朝通い、お散歩がてらマーケットで食材を調達しては、遺跡や美術館の中庭、海辺や川辺、公園や教会の前の広場などでピクニックをして過ごした。
今年の夏も、「何もしない」をじっくりしたい。
【水野暁子 プロフィール】
写真家。竹富島暮らし。千葉県で生まれ、東京の郊外で育ち、13歳の時にアメリカへ家族で渡米。School of Visual Arts (N.Y.) を卒業後フリーランスの写真家として活動をスタート。1999年に祖父の出身地沖縄を訪問。亜熱帯の自然とそこに暮らす人々に魅せられてその年の冬、ニューヨークから竹富島に移住。現在子育てをしながら撮影活動中。八重山のローカル誌「月刊やいま」にて島の人々を撮影したポートレートシリーズ「南のひと」を連載中。
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